どうすれば、気候変動の影響を「自分ごと」として捉えてもらうことができるかーー。
ある気象予報士のそのような問いから、天気予報で「温暖化指数」を伝える取り組みがスタートした。
異例の取り組みを始めたのは、関西の情報ワイド番組「おはよう朝日です」(ABCテレビ)で35年間にわたり天気予報を担当する、気象予報士の正木明さんだ。
背景にあるのは、刻一刻と世界各地に影響を及ぼしている気候変動への強い危機感。企画を自ら提案し、実現した。その思いを聞いた。
その日の最高気温への気候変動の影響を表す「温暖化指数」は、10月中旬からスタートした。
午前5時から3時間の番組内で、3回ある天気予報コーナーのうち、5時台と6時台の天気予報で温暖化指数を伝えている。寒候期は暖かい日のみで、春以降は毎日放送する予定だ。
近年は日本でも、夏には屋外での活動ができないほどの猛暑が続き、熱中症で死亡する人も後を絶たない。
紅葉や桜の開花の時期、雪の降り方、冬でも以前と比べて寒くなる時期が遅れるなど、変化を感じている人は少なくない。
10年前や20年前と比べた時に、誰もが実体験として気温の変化を感じている今、データをもとにした温暖化指数でその「違い」を可視化する。
温暖化指数は速報性を活かした「イベント・アトリビューション」を利用しており、アメリカの研究機関「クライメートセントラル」が出しているクライメート・シフト・インデックス(CSI)というデータを用いている。
イベント・アトリビューションとは、温暖化が起きなかったと仮定した状況と、温暖化が起きている現在の状況を比べ、特定の気象現象に対する温暖化の影響を定量的に分析するものだ。
温暖化指数では、その日の気温に対する温暖化の影響が、温暖化がなかった時に比べてどれくらい大きいかという数値を、視覚的に分かりやすいように、地図上に色で表している。
正木さんは、気候変動の研究者たちにも相談しながらこの指数を考案し、1日限りの特集や期間限定の企画ではなく、天気予報コーナーの中で日常的に伝えることを実現。「日々の天気予報の中で伝えることがとても大事」と話す。
「局地的に大雨をもたらす線状降水帯が頻発したり、台風が激甚化したりと、私たちの生活への気候変動の影響はあるのですが、その影響を身近に感じないという人が多くいます。気象現象と気候変動が、すぐには結びつきにくいのかもしれません。
日常生活に身近な天気予報で日々、温暖化の影響について伝えることで、『この暑さはやっぱり気候変動が影響しているんだな』と感じてもらうことができればと思います」
番組の主なターゲット層がファミリー層であることからも、「自分の子どもや孫の世代には日本、そして地球の気候はどうなっているだろうか、と思いをめぐらせるきっかけにもなれば」と願う。
その日の温暖化指数を伝えた後には、生活の中でどんなアクションを起こしていけるのかということも伝えていく予定だ。
「日々、ワンポイントでもエネルギーの話などをし、火力発電で出る二酸化炭素が温暖化を進めていることなどを伝え、家ではどんな電気を使っているかと家族と話し合うきっかけにもなればと思います。温室効果ガスを排出する人間の活動が温暖化を引き起こしていることを理解してもらい、行動に繋げることも大事なポイントです」
正木さんが気候変動に関心を持ち始めたのは1997年、先進国の温室効果ガス排出量について数値目標を設定した「京都議定書」が採択された際だ。
2007年には番組の取材で、温暖化の影響で海面上昇が起きているツバルに取材に行き、人々の生活への影響を目の当たりにした。
「この現状をしっかりと日本でも伝えてくれ」と話す人々の切実な眼差しを今でも覚えている。
気象予報士として自分には何ができるのかと考え続け、2024年6月には気象予報士や気象キャスターと連携し、「日常的な気象と気候変動を関連づけた発信」を実行する共同声明を発表した。
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共同声明を発表した会見で正木さんは、呼びかけ人の一人として、「私たちは『日常的な気象と気候変動を関連付けた発信』を目指し、気候変動問題解決に向けた命と未来を繋ぐ行動を加速させます」と、声明を読み上げた。
そして声明で宣言した通り、日々の天気予報で気候変動の影響を伝える取り組みをスタートした。
正木さんがXで取り組みの開始について投稿すると、「素晴らしい取り組みだと思います!応援しています」「発信し続ければ、視聴者(の考え方や行動)も変わってくるはず」との声が寄せられた。
天気予報の中で温暖化の影響を伝えることは、日本ではもちろん、世界でもまだ珍しい取り組みだ。
日常的に視聴者に伝えることで、どのように意識や行動の変化に繋げていけるのか。新たな挑戦に期待が高まっている。
<取材・記事=冨田すみれ子>
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