紅葉を美しく撮影するためにはどうすればいいのか。紅葉の一大名所・京都で人力車夫を20年以上勤める、えびす屋嵐山總本店の工藤司さんは「5つのポイントがあります」といいます。
街の景観をよく知り、毎日のように乗車客に記念撮影をする車夫は、“名所ガイド”だけでなく、撮影術も兼ね備えていなければなりません。そんな工藤さんに、紅葉撮影のポイントを教えてもらいました。
“紅葉の写真は難しい”といわれるのはなぜでしょうか。
「紅葉は美しい存在ですが、見たときの印象と撮った写真とのギャップがとても大きく感じられる被写体です。その理由は『主役が明確でない』からです。朝日や夕日であれば太陽が、ポートレートであればモデルとなる人物が主役といえます。
ところが紅葉は“色づいた木々の集合体”なので、眺めるには美しい風景ですが、撮るにはどこを主役とすればいいのか、初心者にはわかりにくいのです。
“キレイな紅葉だな”と感じたら、まず撮影すべきポイントを絞り込みましょう。『色づいた木々』より、たとえば『赤く染まったモミジの葉』を被写体にしてみます。主役が明らかになれば撮るべきモノは何かが明確になり、写真の魅力が高まります。
画面にすべての要素を取り込もうとせず、自分が“いちばんキレイだ”と感じた紅葉のワンカットを、シンプルに切り取ってみるのが1つめのポイントといえるでしょう。
もちろん、木に茂っている紅葉ばかりが美しい被写体とは限りません。池の中や道端の落ち葉なども立派な主役になり得ます」(工藤さん)
紅葉に限らず、美しい写真には光の状態を確認することが大切といいます。
「光の方向には被写体の正面から当たる順光、横から当たるサイド光、後ろから当たる逆光があります。ふつうは順光が美しいとされますが、紅葉の場合は“あたりまえの風景”に写りがちなので、初心者が紅葉を撮る際にはむしろ逆光がおすすめです。
光が当たっている紅葉を見かけたら、葉の下に入って見上げてみてください。その状態が逆光で、太陽光を透かした葉は透明感をもった色合いを見せてくれます。この光を透過光といい、余分な反射を起こさないため、葉が純粋な色で写るのです。
赤い葉はより鮮やかに、黄色い葉は金色に輝くように写ります。それぞれが交じり合って、幻想的な光景をつくることも珍しくありません」(工藤さん)
紅葉の鮮やかな色がうまく出ないことも多くあります。そういうときは、ホワイトバランス機能を活用すると良いそうです。
「特に、曇りや雨の日はホワイトバランスを『曇天(くもり)』にして撮影すると、より赤や黄色の彩度が増し、温かみのある自然な色合いになります。
最近はスマホでも『昼光(太陽光)』『曇天(くもり)』『蛍光灯』などの設定機能が搭載されている機種やアプリが多くあります。
晴れていれば、まず『昼光』で撮ってみて、『もっと鮮やかにしたい』と感じたら『曇天』に切り替えて赤みや黄みを強くするなど、ホワイトバランスを使って雰囲気を変えた写真を試してみると良いでしょう」(工藤さん)
紅葉の写真は天気に左右されてしまうこともあります。
「晴れた日は青空との赤や黄色の葉が美しいコントラストをつくってくれますが、紅葉は晴れの日が絶好というわけではなく、むしろ曇りの日や雨の日でもそれぞれ違った表現ができる可能性の高い被写体です。
曇りの日は柔らかな光が画面全体に回り込むので、余計な影が写り込まず、落ち着いてしっとりとした印象の紅葉を表現することができます。
雨の日はさらに落ち着いた色に写り、葉に付いた水滴も輝きを増してくれます。雨に濡れた紅葉もとても幻想的です。雨の雫(しずく)は石、苔といった和の風景に似合う存在でもあります。
ただし、曇りや雨の日の白っぽい空を入れるとどうしても寂しすぎる感じに写るので、空は構図から外すなどの工夫も必要です」(工藤さん)
最後のポイントは、「額縁構図」を狙うことだといいます。
「構図内の明暗によって、手軽にメインの被写体である紅葉の鮮やかさを強調できるので、おすすめです。
紅葉の名所といわれる寺社などでは、建物の中から庭園の紅葉が見通せる撮影ポイントが少なくありません。視界いっぱいに広がった紅葉はダイナミックですが、柱や障子、欄間などで額縁のように切り取られた紅葉も、絵画のような美しさを見せてくれます。
花頭窓(かとうまど)越しでも面白い構図が現れ、屋外の山門や前景の木々などを使って『額縁構図』を作ることもできます」(工藤さん)
工藤さんが勤めるえびす屋嵐山總本店では車夫が人力車を引かず、一緒に歩いて撮影ポイントをめぐり、写真を撮りながら観光客を案内する「フォトガイドツアー」を開催し、人気になっているそうです。
紅葉が最もキレイな状態は、7~10日間と思いのほか短いものです。撮影のポイントを考えて“ベストショットのワンチャンス”を狙ってみましょう。
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