磯村勇斗さん「薄く傷つけられる感覚ある」。インティマシー・コーディネーターの重要性を、菊地凛子さんらと議論

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第37回東京国際映画祭の公式プログラムであるケリング「ウーマン・イン・モーション」のトークイベントが、11月1日に都内で開かれ、俳優の菊地凛子さん、磯村勇斗さん、Netflixプロデューサーの岡野真紀子さんが登壇した。

日本の映像業界におけるジェンダー格差や労働環境などをテーマに議論が繰り広げられ、菊地さんと磯村さんは、俳優の立場からインティマシー・コーディネーターの重要性を指摘した。

出産、子育て、介護…「戻ってこられる場所に」

菊地凛子さん

グッチやサンローランなどのラグジュアリーブランドを展開するケリングが主催する「ウーマン・イン・モーション」は、フランスのカンヌ国際映画祭で発足した、映画業界における女性を取り巻く環境に光を当てるプログラム。東京国際映画祭では今回が4回目の開催となった。

まず議題に上がったのは、世界的にMeToo運動が起こり、日本でも労働環境の改善や、性暴力・ハラスメント撲滅に向けた動きが広がる中で感じる、撮影現場での変化についてだ。

日本でもこの数年で、肌の露出や身体の接触のある性的なシーンの撮影で俳優をサポートするインティマシー・コーディネーターや、ハラスメント防止のためのリスペクト・トレーニングなどが導入され始めている。菊地さんはこうした取り組みを評価した上で、未だ残る課題について、こう指摘した。

「働く環境は少しずつ変わってきている印象はありますが、立場関係なく、平等に働く環境が整うのはまだまだ難しい。出産、子育て、介護など、人生の局面でキャリアがいったんストップした後に戻ってこられる場所にするために、意識的に会話していく必要があると思います」

磯村さんは「こうした場に参加できて嬉しい」とし、女性が働く環境の改善に向けては、「男性も一緒に問題に向き合う必要がある」と強調した。

磯村勇斗さん

肌の露出あるシーン「自分はやりましょうと言ったけれど…」

日本では、Netflixが率先してインティマシー・コーディネータやリスペクト・トレーニングの導入を進めてきた。映画「クレイジークルーズ」やドラマ「さよならのつづき」などのプロデュースを手がけきた岡野さんは、2021年にNetflixに入社して以来、担当した作品の脚本はすべて、一度インティマシー・コーディネーターに読んでもらっているという。

「私がインティマシーシーンだとは思わなくても、俳優が思うかもしれません。キスシーンやセックスシーンだけではなく、たとえば、肩を出してお風呂に入るシーン。これは俳優部のみなさんにどう思うかちゃんと聞きましょう、と。学園ドラマの時はキスシーンが初めてという俳優もいて、キャリアや世代に合ったサポートがあるということも学びました」

Netflixプロデューサーの岡野真紀子さん

菊地さんもインティマシー・コーディネーターがいたほうが「絶対にやりやすい」と、その重要性を述べた。

「肌が出て、相手と近づく。役としてではありますが、やるのは自分です。インティマシー・コーディネーターは、相手を守るためでも、自分を守るためでも、クルーを守るためでもある。話ができる相手がいると心が軽くなりますし、根性で行けますということでは絶対にない。デリケートなことをしっかりデリケートなこととしてとらえるのが大事だと思います」

磯村さんも「安心して撮影にいどめる」とし、インティマシー・コーディネーターがいなかった過去の撮影現場で感じた不安について明かした。

「脚本にインティマシーシーンがあり、自分はやりましょうと言ったけれど、ちょっと傷ついているようなところもあるんですね。裸でタオルも何もかかっていなくて、『これはおかしいよな』と。カッターでピッと、薄く傷付けられたような感覚。自分の場合は、男性のインティマシー・コーディネーター(※)だと、より心を打ち解けて話せることもあると思います」

※インティマシー・コーディネーターの養成を行うアメリカの団体Intimacy Professionals Association(IPA)の公式サイトで紹介されている、日本のインティマシー・コーディネーターは現在4人で、そのうちの1人は男性。

また、2人はリスペクト・トレーニングを受けたこともあるといい、磯村さんは「ハラスメントの種類の説明が細かくあり、現場に入るみんなで共通認識を持てる」、菊地さんは「こういう言動で傷つく人がいるのかと、知らないこともあって自分自身もショックだった。現場でお互い尊重しようねという空気が作れるので、大事な取り組みだと思う」と話した。

磯村さんと菊地さんは、俳優の立場から撮影現場の環境について意見を伝え合った

「声をあげようという動きが広がったら」

菊地さんは「パシフィック・リム」や「ウエストワールド」などアメリカの作品にも多数出演してきた経験から、海外でのハラスメント防止対策についても言及。ハラスメントなどを通報・相談する窓口はあるが、「スタジオにつながる窓口だと勇気をもって相談まで行けない人もいる。第三者に聞いてもらうことが必要」だと指摘した。

磯村さんも、土日休みの海外の撮影を経験し、「心の余裕がある感じた」といい、「さまざまな人種やLGBTQの人たちに対してオープンマインドで、同じチームとしてやっている。心地よくストレスがなかった」と振り返った。

トークイベントでは「会話できる環境」を作ることの重要さも繰り返し話題に上がった。現在32歳の磯村さんは、「自分たちの世代は、昭和的なやり方も、今のやり方も見ていて、上の世代と下の世代の間の世代」だと説明。「変えていかなきゃいけないという危機感がある」とし、実際に勉強会などにも参加しているという。

「ハラスメントや労働環境、女性の働く環境など、学べる場所や発信できる機会には参加して、声にしていきたいです。(仲野)太賀さんから連絡をもらい、是枝(裕和)さんらaction4cinemaのみなさんとの勉強会に参加し、労働環境についてディスカッションする機会もありました。同じ意志を持った仲間がいるのは心強いですし、若い世代にも声をあげようという動きが広がったらいいなと思います」

学ぶ場や語り合える場が大事だという指摘には、菊地さんも同意。「的確に言葉を見つけて、それを伝えていくのには、時間も勇気も必要。まず知ることが大事で、こういう場をきっかけに会話をして、意識していきたい」と話した。

(取材・文=若田悠希/ハフポスト日本版)

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磯村勇斗さん「薄く傷つけられる感覚ある」。インティマシー・コーディネーターの重要性を、菊地凛子さんらと議論

Yuki Wakata