「か弱く守られる存在」じゃなくて良い。プリキュア声優が届けたい「社会の枠組みの押し付け」へのアンサー【インタビュー】

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プリキュア」シリーズ(毎週日曜朝8時30分、ABCテレビ・テレビ朝日系列にて放送中)の21作目である『わんだふるぷりきゅあ!』(わんぷり)。

「動物との絆」をテーマに、犬と猫が人間になり、飼い主とともにプリキュアに変身する、というストーリーが描かれている。

映画『わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー!ドキドキ♡ゲームの世界で大冒険!』の公開(9月13日)を前に、声優の長縄まりあさん(キュアワンダフル/犬飼こむぎ役)と、松田颯水さん(キュアニャミー/猫屋敷ユキ役)に、テレビシリーズの前半(26話まで)の魅力を聞いた。

見えてきたのは、人間同士ではなく人間と動物だからこそ、より強く伝えられる「どうやって、大切な人と分かり合うか」という普遍的なメッセージだった。

※この記事にはテレビシリーズのネタバレが含まれます。注意して御覧ください。全2回掲載。映画のテーマや魅力を聞いた後編を、9月22日に公開する予定です。

◆社会の普通ではなく「自分の好き」を肯定してくれた

『わんだふるぷりきゅあ!』キュアワンダフル(手前左)役の長縄まりあさんと、キュアニャミー(左奥)役の松田颯水さんが思う、テレビシリーズの魅力とはーー。

2004年に始まり20年以上にわたって、友情や夢、諦めないことなど、大切なことを伝えてきた「プリキュア」シリーズ。近年は、幼少期にプリキュアを見て育ち、声優として関わりたいと望む人も増えてきた。

「プリキュア」シリーズの魅力は何なのか。松田さんは、「かわいいよりかっこいいが好きだった幼少期に 『ふたりはプリキュア』に出会い、支えてもらったことを今も覚えています」と振り返る。

当時はアニメもおもちゃも、今よりも明確に「男の子向け」「女の子向け」に分けられていた。戦隊ヒーローが好きだった松田さんは、周囲の大人から「男みたいやな」と言われることもあったという。

だが 『ふたりはプリキュア』のキュアブラックは、衣装にハートやリボンがついていて、かわいかったのと同時に、大切なものを守るために必死に戦う姿を見せてくれ、胸を打たれた。

「『か弱く守られる存在』として描かれる女の子像が苦手だった我に、新しい感覚をくれた、そして『かっこいい!が好き』だと、胸を張れるきっかけをくれた作品だったんです」

プリキュアの声優となった今、自分も演技を通して小さい子どもたちに、楽しさと同時に、勇気を持てるきっかけを届けられたら、という思いも抱いてきた。

松田さんが演じる猫の猫屋敷ユキ(キュアニャミー)は、自分の芯や許せない振る舞いのラインが明確にあり、それを大切にし、時にツンケンする姿も描かれている。

松田さんは「ニャミーさんはかわいさはもちろん、強さとかっこよさ、そして自分らしさを大切にしているところが魅力的だと思っていて。ただ可愛いだけでなくてもいいんだよ!と、ニャミーを通して感じてもらえたら嬉しいです」と話す。

例えば『女の子らしく』など、社会の『枠組み』を押し付けられそうになった時、『ニャミーみたいになりたい』と大人に言ったら、たぶん伝わると思うんです。自分の芯を大切にしたい時、ニャミーがその物差しのような存在になったらな、と思っています」

◆「真っ直ぐに思いを伝える」人間でないからこそのメッセージ

わんぷりで描かれるテーマの1つが、「動物も人も、みんな友達になれる!」。プリキュアたちは「ガルガル」という謎の生物になってしまったアニマルたちを助けていく。

動物と人間との絆はもちろん、プリキュアシリーズとして大切にしてきたメッセージ性も、強く盛り込まれている。その一つが、「分かり合うことの難しさ、そこから生まれる強さ」だ。

『わんだふるぷりきゅあ!』では、猫屋敷まゆとユキ(左)、犬飼いろはとこむぎ(中央)、兎山悟と大福(右)それぞれの絆のかたちが描かれている

主人公であるパピヨン犬の犬飼こむぎ(キュアワンダフル)は野良犬で怪我をしている時、犬飼いろは(キュアフレンディ)に拾われ、徐々に絆を深めていった。

第1話でプリキュアになり、初めて彼女と話せるようになった。その嬉しさからか、性格なのか、こむぎは「大好き」「一緒に遊びたい」など、自分の気持ちを素直に、ド直球に伝える姿が印象的だ。そしてその思いは、いろはだけでなく、周囲にも伝わっている。

時に、人間にはハードルが高い行動をとるこむぎに対し、いろんな気付きや学びがあるという長縄さん。「大好きという気持ちを相手の目を見て伝えることって、とても素敵なことだなと感じました。お子さんにも、その大切さが伝わったら嬉しいです」と話す。

本来、犬と動物は種族が違い、分かり合えない部分もあるかもしれない。実際6話では、ひょんなことをきっかけに、こむぎといろはが初めてけんかする姿が描かれた。

気持ちがすれ違った2人が仲直りしたきっかけは、こむぎが「みんな元気、みんな仲良し…(いろはは)そういうのが良いんだよね?」と、いろはが大切にしている生き方を理解し、それを守りたいと改めて伝えたことだった。

誰でも、大切な人とぶつかり合うときはある。それは時に、これまで生きてきた環境の違いなどが背景にあるかもしれない。だがこむぎは、とにかく真っ直ぐだった。長縄さんは「相手の気持ちにまずは歩み寄る。それって誰にとっても大切なことだなって」と話す。

言葉を交わすことは、とても大切だ。それと同時に、わんぷりはその先も見せてくれた。こむぎはいろはと離れ離れになった時、「いろはなら、絶対にガルガルのところに行く」と分かっていた。

長縄さんは「これまで、2人は言葉を交わせなかったけれども、確かに絆は育まれてきたのだと改めて感じ、心を揺さぶられました」と語る。

◆「本音をさらけ出しても、仲良しでいられるよ」

とはいえ、誰もがこむぎのように、素直に思いを伝えられるわけではない。ユキと、飼い主の猫屋敷まゆ(キュアリリアン)の絆の築き方は、また違う形だった。

第1話ではユキが、まゆの頭に猫パンチをするシーンがあった。松田さんは、「歴代のシリーズでも1話から、のちにプリキュアになる者同士が『ぽこっ』ってやるのを見たことがないんですよ」とほほ笑む。

映画には『魔法つかいプリキュア!』『ひろがるスカイ!プリキュア』も登場。歴代のプリキュアシリーズでもそれぞれ、分かり合うことの難しさ、そこから生まれる強さなどを描いてきた

最初からそれほど強固な関係性ができていてもなお、 2人が激しくぶつかったことがなかった。それは猫と人であり、話すことができなかったことが大きい。だが、ユキが人間の言葉を話せるようになっても、お互いを大切に思っているがために、すれ違った。

どれだけ関係性が出来上がっていても、心の底で思っていることをさらけ出すって難しいこともあるなと改めて。それに、どれだけ仲良くなっても分からないことって、人間同士でもあるなあと、2人を見て感じたんですよね」

2人はその後次第に自分の思いを打ち明けるようになったものの、当初は感情に任せてしまい、言葉が強くなってしまうこともあった。それでも、以前より分かり合うことができた。

「今、仲が良くても、 今後どこかでぶつかることもあるかもしれない。でも、本音をさらけ出しあった上でも、思いやりがあれば、元のようにずっと仲良しでいられるんだよ、ということをユキとまゆが見せてくれたと思っています」(松田さん)

またわんぷりは、従来の「プリキュア」シリーズの代名詞とも言える「戦闘シーン」は基本的になく、ガルガルになったアニマルと追いかけっこをして、抱きしめて心を浄化するというスタイルをとっている。

だがキュアニャミーだけは当初、キュアワンダフルたちと別行動で、肉弾戦をしていた。

松田さんは「ニャミーは、ガルガルを救えるとは知らなかったんですよ。まゆを傷つけるかも知れない存在から守りたいとなった時に、威嚇をしたり戦ったりして、『ここにはもう来ないで』と言うしかなかったんです」と振り返る。

それは本能でもあり、猫としてとれる選択肢しか知らなかった。だがこむぎやいろは、メエメエに出会い、「プリキュアとして浄化して助ける」という選択肢を知った。

このストーリーを通し、松田さんが感じたのは、知ることと想像力の大切さだ。

「今あなたの中には1つしか選択肢がないかもしれないけれど、もしかしたらユキが知った『プリキュアとしての選択肢』のように、もっと平和な道もあるかもしれないよ、と。見てくださった方に、そんなことも感じ取ってもらえたら嬉しいなと思っています」

〈取材・執筆=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版〉

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Takeru Sato