「災害級の暑さ」「命を守る行動を」。政府は近年の猛暑に警戒を呼びかけ、対策としてエアコンの使用を呼びかけている。
しかし、エアコンをつけることをためらう人たちがいる。
「真夏にはエアコンが必要な暑さになっているのに、電気代のことを考えて躊躇してしまう家庭がたくさんあります」
経済的に厳しい子育て家庭などを支援するNPO職員はそう語る。
気候変動は、だれに大きな苦しみを与えるのか。それは日本や各国の弱い立場にある人々。そして発展途上の国に暮らす人々だ。
(初出:BuzzFeed Japan News 2022年11月15日)
気象庁によると、7月29日は栃木県佐野市で41度に達し、関東甲信や東海の6箇所で40度以上を記録。熱中症での死者も出ている。
日本の夏(6〜8月)の平均気温は、様々な変動を繰り返しながら上がっており、100年あたり1.19℃の割合で上昇している。
都内で小学生と中学生の子ども3人を育てるシングルマザー、木村薫さん(仮名)の一家は、気候変動の影響を受けている家族の一つだ。
子どもたちの熱中症対策にエアコンは欠かせない。しかし、物価高に電気代の値上げも重なる。
熱帯夜が続く中、節約のため家族で居間に集まって寝ている。
「普段は別々の部屋で寝ているのですが、夏の間は居間のテーブルを移動させて、みんなで布団を持ってきて一緒に寝ました。エアコンは設定温度高めのドライモードにしていました」
「うちには3部屋あるのですが、電気代を考え、夏は居間だけエアコンを動かして、あとの2台は使わないようにしていました」
夏休み中、木村さんが仕事に出ている日中も、子どもたちは家にいる。
その間も熱中症にならないよう、居間だけはエアコンをつけるよう伝えていた。
「自分たちの部屋に行く時は暑くてかわいそうなんですけど、扇風機を持っていくように伝えていました」
冠婚葬祭の営業の仕事をする木村さんの収入は月約12万円。
電気代の高騰もあり稼働は居間の1台だけにして、電気代も月8千円ほどに収めている。
「どうにかやりくりしたいんですけど、電気代が上がると、削れるのはやはり食費になってしまいます」
「買い物に行って金額を見ると、本当に値上がりしていると感じるので、買いたいものがあっても少し安いものにしたりしています。作る料理の幅も狭まります。子どもたちは育ち盛りなので、本当に困ります」
木村さんの子どもは長女が中学1年生、双子の息子たちが小学校4年生だ。
気象庁の将来予測では、現状を超える気候変動への対策が取られなかった場合、21世紀末(2076〜2095年平均)には20世紀末に比べて、平均気温が約4.5℃上昇する見込みだ。
その場合、猛暑日の年間日数は約19.1日増え、熱帯夜は約40.6日増える可能性がある。
気候変動は、気温上昇だけでなく、海水温の上昇、豪雨災害の増加・激化などももたらすと予測されている。
このままでは子どもたちが、想像もつかないほどの気候の激変と災害の中で60代以降を過ごすことになるかもしれない。
木村さんは「今後、どのくらいまで気温が上昇するのか」と不安な表情をのぞかせた。
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実際に、電気代に躊躇して体調不良になったりする例は、珍しくないという。
困窮子育て家庭などの支援を行うNPO法人「キッズドア」職員の渥美未零さんは、「冷房をつけることを躊躇してしまい、体調不良を起こしてしまった方もいました」と語る。
渥美さんは、キッズドアが行う、困窮子育て家庭に食糧などの物資支援サポートの担当者だ。
物資を送った家族からのハガキや、会話の中で、夏の「苦しさ」が年々増していると感じるという。
「家族が多いご家庭だとエアコンを何部屋もつけないといけなくなるので、一つの部屋に集まって過ごしてそこだけエアコンをつけたり、あるいは冷房がきいているフードコートなどに行ったりしていると聞きます」
「少しでも電気代を安くしながら暑さをしのぐというお声など、心配になるような話がたくさんありました」
支援する家庭から送られてきたハガキには、「エアコンなどの電気代もおそろしく値上がりするのではないかと不安でいっぱい」「電気代の値上げが続き食費を節約せざるをえない状態」との苦しい思いが綴られていた。
夏、子どもたちの学校は夏休みになる。
渥美さんは、夏休み期間の家庭の苦労について、こう語る。
「夏休み中は学校の給食もなくなるため、家庭での食費がかさみます。さらに夏休みの約40日間、家にいる子どものためにエアコンもかけないといけないという状況です」
「ライフラインである電気料金の値上げが続いている中、エアコンか食事か…と選ばざるをえない家庭も。食費を節約するしかないという状況です」
「エアコンと食事は、どちらも体を守るために要なものなので、ご家庭の中ですごく苦労されて、切り詰めて生活されています」
気温の上昇は年々、わたしたちの健康に影響を及ぼすようになっている。
消防庁によると、2023年5〜9月に熱中症で緊急搬送された患者は全国で9万1000人を超えた。
熱中症による死者は1993年以前は年平均67人(厚労省統計)だったが、1994年以降は年平均663人に急増。
近年は、死者が1500人に前後になる年が相次いでいる。気温の上昇による影響は明らかだ。
こうした熱中症が最も起きるのは、直射日光にさらされる屋外ではない。緊急搬送された熱中症の約4割は「住居」で起きている。ほとんどが自宅で倒れたケースとみられる。
東京都福祉局によると、2020年夏に屋内での熱中症で亡くなった220人のうち89%が、エアコンを使っていなかった。
そのうち79人はエアコンのない自宅内で熱中症になり、118人はエアコンがあっても何らかの理由で使っていなかった。
気温上昇などの気候変動は、19世紀の工業化以降、人類が石炭、石油、ガスなどの化石燃料を燃やし、温室効果ガスを発生させることで引き起こしてきた。
温室効果ガス排出量が多い国の大半は先進国と人口大国で、中国、アメリカ、インド、ロシア、日本などがトップを占める。
「日本に住んでいたら気候変動なんて関係ない」と感じる人も少なくないかもしれない。しかし、私たちのすぐ身近でも、気候変動の影響がでている。
日本で気候変動の影響を大きく受けているのは、弱い立場にある人々だ。
世界的に見て気温上昇や豪雨災害の増加、干ばつなどの被害をより受けるのは、温室効果ガスの排出量が少ない発展途上国の国々であることが多い。
そのような不公平を是正すべきだという考えのことを「気候正義」と呼ぶ。
気候変動による深刻な影響を回避するためには、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて「1.5℃」に抑えなければならないとされている。
そして、「1.5℃」の目標に抑えられるかどうかは、私たち1人ひとりの行動に委ねられている。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「エアコンか食事か選ばざるをえない」子ども3人を抱えるシングルマザーが直面する“危機“。日本にも迫りくる気候変動の影響とは