都市郊外で自給的に暮らす。浜松市「食べられる森」発起人の描く未来

食生活における持続可能性について、多くの取り組みが進む現代。

自給自足生活や家庭菜園に挑戦したいと考えている人も増えている一方で、街での暮らしと自給自足というふたつの点と点のイメージが、いまひとつ結びつかない人もいるのではないだろうか。

そこで、都市郊外に「食べられる森」をつくることで、地域に新たな食の選択肢を創出しているのが、静岡県浜松市の「フォレストガーデンプロジェクト」だ。

2024年で10周年を迎える同プロジェクトの発起人であり、現在も街と森で暮らす大村淳さんに話を聞いた。

大村淳さん

植物の細分化が、食料自給のハードルを上げている?

─── 今日はよろしくお願いします。早速ですが、フォレストガーデンプロジェクトとはどんなプロジェクトでしょうか?

静岡県浜松市で「食べられる森」を育てるプロジェクトで、今年の秋で10周年を迎えます。ガーデンは「庭」と訳されることが多いですが、実は「菜園」という大切な意味も持っています。食べられる植物を中心に森を設計することで、都市郊外の生態系の劣化もケアしつつ、自分たちの暮らしのニーズにも応えていく。森のような菜園であり、菜園のような森ですね。

都市郊外ということで、地元の地域コミュニティのみなさんとつながりを持ちながら「自分たちの街を食べられるようにしよう」というスタンスで楽しく進めています。森の中で育った植物は、月に一度開催しているツアーに参加してくださった浜松内外の方々や地域住民の方々、遊び感覚でお手伝いに来てくれる子どもたちなどにお土産として渡したりしています。

森のお手入れは、主に私と私のパートナー、そして後でお話しする「パーマカルチャー・イン・レジデンス」というプロジェクトのメンバーでやっています。パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性のある)とカルチャー(文化・生活様式・暮らしのための知識や技術)を組み合わせた造語で、私たちの活動の核になる考え方です。遥か古代から自然と共に生きる世界中の先住民の伝統や知恵を元に、オーストラリアで体系化されました。自然と生きもの、そして人が大切にされ続けるための文化の創造と、持続的な豊かさを育み続けるための仕組みづくりも目的としています。

─── フォレストガーデンプロジェクトを立ち上げた背景を教えてください。

フォレスト・ガーデン・プロジェクト

よくある話なのですが、僕は以前から自給自足への憧れがあって、見よう見まねで野菜づくりに挑戦していたんです。しかし、忙しかったり栽培技術が足りていなかったりという課題に直面して「続けていくのが難しいな」と感じたんです。そこでたまたまフォレストガーデンという考え方と出会ったことが、プロジェクト立ち上げのきっかけでした。

当時の僕には「自給自足といえば野菜」みたいなある種のフィルターがかかっていたのですが、フォレストガーデンでは、野菜だけでなく、果樹やナッツ、キノコ、山菜などの色々な食べ物が自給自足の対象になります。お茶にできる樹木や、サラダにして食べられる野草もあることを知って「こんなに食べられるものがあるんだ」「どうして自分は野菜に限定していたんだろう」と衝撃を受けました。

現代の日本、特に街では、畑と山は完全に分けて考えられることが多いですが、昔の日本には、里山といって、食料自給をしている畑の隣に森を持っていることも一般的で、両者を組み合わせて使いながら、暮らしを成り立たせていた現実があります。そういったことを学ぶ中で「菜園はもっと混ぜこぜで良かったんだ」と思い、自分でもフォレストガーデンをつくってみることに決めました。

自然の全てに役割がある。毎日変化する森で見つけたもの

浜松市で育てている「食べられる森」

─── フォレストガーデンをつくるために、まず何から始めましたか?

僕がフォレストガーデンという考えに出会った頃、実際に伊豆半島で実験的にフォレストガーデン作りをしているニュージーランド人と日本人の実践者がいました。

以前に誰かが森づくりを試みたけれど撤退した場所を、3年かけてリノベーションするという実験でした。本当に素敵な場所で、それに惹かれた僕は彼らから色々と教えていただいて、当時から浜松のフォレストガーデンにおける雛形というか、ロールモデルのような存在になっています。

森づくりでまず注力したのは、土地を肥沃(ひよく)にする窒素固定植物をたくさん植えることです。植物にもちゃんと組織(ここでは森)でいう、部署みたいな感じで役割があって、マメ化植物をはじめとした窒素固定植物は痩せた土地に入っていって、植物が育ちやすい環境を整えてくれます。樹木がある程度育ってきた今でも、様々な窒素固定や栄養固定をしてくれる植物の助けを借りながら土地の肥沃度やバランスをとっています。他にも虫を惹きつける担当の植物がいたりして、最初僕たちが考えていた植物チーム構成ではなく、外から入ってきていつのまにかメンバーなっている植物もいたり、それらがお互いやり取りしながらだんだん、うまく機能していくのを見たりするのがめちゃくちゃ楽しいんですよ(笑)。

あとは、一度植えたら何年もその場で育っていく多年草もたくさん植えました。育つまで時間がかかるものが多いのですが、一度育つと季節折々に色々な収穫や、それだけでない表情を見せてくれる、森には欠かせない存在です。

─── 植物たちにも役割があるんですね。

そうなんです。森は毎日変化が起きている場所なので、植物に限らず、動物や虫にも役割があって、そういうものが見えてくると「自然って本当にうまくできているなぁ」と感じて、とても楽しいですね。

例えば、僕たちが育てているベリーを狙って、鳥が飛んでくることがあります。一般的には「害鳥」として駆除したり追い払われたりする場合が多いと思うのですが、あえてそのままにして観察していたら、僕たちにとっての害虫となる虫も食べてくれていたんです。悪いものとして取り除くこともできるけれど、それは同時に恩恵を追い払うことでもある。これは虫にも植物にも当てはまることで、そういったひとつひとつのピースがつながり合っていることが見えはじめた時に、自分の内側から「確かに一つ一つの生き物がここにいるって大事だわ。もっと自然を大切にしたいな」という気持ちがより一層強まりました。

森で収穫したベリー

もちろん、大切に育てているものを食べてしまう動物には、やっぱり「このやろう!」とは思っているというか、もはや僕はライバルって呼んでいるんですけど、来なくなったら来なくなったで寂しいでしょうね。

そこに動物がやってくるということは、森がしっかりと機能している証拠でもあるので、今はそういう互いに遠慮のないやり取りですら豊かな時間として楽しんでいます。

じっくり1年かけて、フォレストガーデンを学べるプロジェクト

─── 地域内外の人たちが出入りできるフォレストガーデンは、コミュニティ同士をつなぐ接点としても活躍しそうですね。

はい。そういう場所になってくれたらいいなと思っています。僕はフォレストガーデンを訪れる人に「僕と同じことをしてね」と言いたいわけではなくて、この場所やプロジェクトを通して互いに接点のない領域の人たちが出会い、地域の可能性を広げるようなアクションがたくさん生まれてくれたら嬉しいなと思っています。

例えば、冒頭で名前が出た「パーマカルチャー・イン・レジデンス」は、1年という時間をかけて、私たちと一緒にフォレストガーデンを育てながら、自然と人という社会生態系とつながり、地域コミュニティの中に溶け込むことができる居住型学習プログラムです。

パーマカルチャー・イン・レジデンスの特徴

自給自足な暮らしをつくる楽しさを学びたい人と浜松で空き家を持ってる人をつないで、実際に浜松に住んでもらう中で互いに学び合うんです。2年目の今は3名の方が参加してくださっていて、わいわい子どもたちと遊んだり学んだりしています。これは人懐っこくて世話焼きな浜松住民の皆さんのおかげで成り立っているプロジェクトでもあります。面倒見のいい兄貴やお母さんなど、本当に温かい人がたくさんいますよ。

今は公民館のデッドスペースに食べれる森をつくろうという試みをしているのですが、プロジェクトで学習できる内容のひとつにガーデンのデザインがあるので、レジデントの方が早速学んだことを活かしてデザインをしてくれました。コミュニティ、場所、学び、同時に起こっていく、とてもいい環境になっているんじゃないかなと思います。

これからも自然を楽しみながら、そこから生まれる繋がりや体験がその人にあった形でたくさん広がっていったら嬉しいですね。そして興味がある方にはぜひ、浜松とフォレストガーデンに遊びに来て欲しいです。お土産の色々な面白い植物も準備して待っていますね。

毎月実施しているツアーの様子

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