長崎放送、福島で「低線量被ばくが横たわる」と報道。記事の一部を削除も、ミスリードの恐れ。取材への回答は

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長崎県の地元局「長崎放送(NBC)」(長崎市)が配信した記事「福島原発事故とも絡む被爆体験者の救済 波紋呼ぶ“低線量被ばく”の評価」(見出しは当時)にSNS上で疑問の声が集まっている。

記事には当初、「低線量被ばくが横たわる福島」「低線量被ばくの健康影響がないと言ったら原発に恩恵を受けている人たちに攻撃される」などと、ミスリードに繋がる記述が多々あった。ハフポスト日本版の指摘後、見出しや小出し、専門家のコメントなど、記事中の複数箇所が削除された。

福島県では、放射線被ばくによる健康被害は認められておらず、国連組織「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」も、がんなどの健康影響は今後増加することは予想されないとする報告書を公表している

なぜ福島と長崎の話を結びつけたのか。そして、「低線量被ばくが横たわる福島」とは何を根拠に記述したのか。ハフポストはNBCに問い合わせた。

Yahoo!ニュースに配信されたNBCの記事(現在は一部記述を削除)

NBCの記事の内容は?

NBCの記事は6月23日、Yahoo!ニュースにも配信された。

記事では、長崎県・長崎市が調査を要望していた被爆体験記について、国が「信用できない」と切り捨てたとする議員や、被爆者認定を求める裁判を16年続けている被爆体験者の声がつづられている。

その後、広島では被爆地域以外の「黒い雨」被害者を救済する新基準が作られ、2年間で約6000人が新たに被爆者として認められた事例を紹介。

一方、長崎では「被爆地域以外で広島のような雨が降った証拠がない」や「降ったとしても線量は低く影響はない」とされたとした上で、「この低線量被ばくの影響に関して今月、10年半にわたる議論の末まとめられた報告書が(長崎)市に提出された」と記載した。

福島を関連づけるような話が出てくるのはここからだ。

まず、長崎市原子爆弾放射線影響研究会会長の「実際ここら辺(20ミリシーベルト近傍の地域)から白血病が出たとかがんが出たとか、地元の開業医の方のカルテはかなりあります。(中略)微妙なこの低い線量というのは福島でも起こってるわけですよ」という発言を取り上げた。

科学的には、年100ミリシーベルト以上の線量を浴びると人への健康影響があるとされているが、会長は「1~2年で(100を下回る)低線量域の人体影響が非常に議論されると思う」と話していたという。

次に、サブタイトル「福島原発事故とも絡む“低線量被ばく”の評価」のもと、長崎大学・高辻俊宏名誉教授の話として下記のように記述した。

「権威ある先生達が『低線量の放射線は別に健康影響ないよ』と言われたら、そうかなと。逆に『健康影響があるよ』ということを言うと、原子力発電所に恩恵を受けている人達に攻撃される。損害を被るから『影響ないんだね』と言う方に加わっておいた方が暮らしやすい」

そして、記事は「《低線量被ばく》が横たわる福島とも絡み合う被爆体験者問題。8月9日に実現する見込みの総理との面会は救済につながるのか?見通せない状況が続いています」と締め括った。

Yahoo!ニュースに配信されたNBCの記事(現在は一部記述を削除)

NBCの回答は?見出しや教授コメントを削除

この記事であえて福島の話をする場合、原発事故の放射線被ばくによる健康被害は認められていないといった事実を示さなければ、ミスリードに繋がる恐れがある。

特に、「《低線量被ばく》が横たわる福島とも絡み合う被爆体験者問題」と記述した点については、どのような根拠や事例のもと福島と結びつけているのか説明すべきだ。

ハフポストは記事が配信された翌日の6月24日午後、NBCに5つの質問を送った。概要は次の通り。

①「白血病が出たとかがんが出たとか(中略)微妙なこの低い線量というのは福島でも起こってるわけですよ」という会長の話の意味について

②「『健康影響があるよ』ということを言うと、原発に恩恵を受けている人達に攻撃される」という高辻名誉教授の話の意味について

③「福島では低線量被ばくによって白血病やがんなどの健康被害が出ている」と読める記事構成への見解

④「低線量被ばくが横たわる福島」に対する見解

⑤今回の記事が読者をミスリードさせる可能性について

NBCからは同日夜、報道制作部名義で以下のように返信があった。

①『がんや白血病についての(会長)の発言は、被爆体験者区域についての発言です。福島についての発言は、低線量の放射線が福島で検出されている事実を述べられたことだと認識しています』

②『長崎大学・高辻俊宏名誉教授の見解・問題提起として紹介しています』

③『福島の低線量被ばくによる健康被害の有無については言及していません。人体への影響が認められているのは年間100mSv以上というICRP等の見解も紹介しており、ご指摘は報道の趣旨と異なります』

④『「長崎市原子爆弾放射線影響研究会」で議論された長崎原爆による低線量被ばくの健康影響について問題提起したニュースであり、福島の健康被害には言及しておりません。裁判等でも低線量放射線被ばくによる人体影響を巡る議論が収束していないという趣旨での表現です』

⑤『福島での健康影響について言及しておりません』

NBCは、「《低線量被ばく》が横たわる福島」と記述し、放射線被ばくによる健康被害は認められていないことを示す科学的な根拠を記事で紹介していないが、「福島の低線量被ばくによる健康被害の有無については言及していない」「ご指摘は報道の趣旨と異なる」などと回答した。

また、回答に「裁判等でも低線量放射線被ばくによる人体影響を巡る議論が収束していない」と記載しているが、もし甲状腺がんに関する裁判のことを指しているのだとすれば、過剰診断の問題やUNSCEARの報告書についても触れるべきだ。

さらに、NBCは「誤解や不安を与えることは本意ではない」と、記事の一部を変更したという。ハフポストが確認すると、記事は「一部変更」の範囲ではなく、見出し、小出し、名誉教授コメントの一部が多く削除されていた。

ハフポストの指摘後に削除された記事の記述(Yahoo!ニュース上)は次の通りだ。

①見出し「福島原発事故とも絡む被爆体験者の救済 波紋呼ぶ“低線量被ばく”の評価 長崎」の「福島原発事故とも絡む」の記述を削除

②小見出し「福島原発事故とも絡む“低線量被ばく”の評価」の「福島原発事故とも絡む」の記述を削除

③高辻名誉教授のコメント「権威ある先生達が『低線量の放射線は別に健康影響ないよ』と言われたら、そうかなと。逆に『健康影響があるよ』ということを言うと、原子力発電所に恩恵を受けている人達に攻撃される。損害を被るから『影響ないんだね』と言う方に加わっておいた方が暮らしやすいと、そういうことですよね。一人一人が社会の状況を知ることができるか、あるいは知らせることができるかが課題かなと思います」の記述全てを削除

④「《低線量被ばく》が横たわる福島とも絡み合う被爆体験者問題」の記述を削除

このように、ハフポストの取材に対してはミスリードの可能性などを認めなかったが、福島に関わる表現の多くを削除していた。

福島県の担当者は

NBCの記事を受け、ハフポストは福島県にも取材。県民健康調査課の担当者は「長崎放送の記事には直接言及しない」としつつ、参考情報として次のように話した。

「原発事故後の4カ月間の行動記録から外部被ばく量を推計した基本調査が行われているが、健康影響が出るとされる100ミリシーベルトを超える人はいなかった」

実際、2011年3月11日時点の県内居住者ら約205万人を対象とした基本調査が行われているが、回答者(放射線業務従事経験者と推計期間が4ヶ月未満の人を除く)のうち、99.8%は5ミリシーベルト未満で、最大値は25ミリシーベルトだった(2023年3月末現在)。

担当者はその上で、「現時点では放射線の被ばくによる健康被害は認められておらず、今後の健康影響は考えにくいと評価されていると承知している」とした。

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長崎放送、福島で「低線量被ばくが横たわる」と報道。記事の一部を削除も、ミスリードの恐れ。取材への回答は

Keita Aimoto