盗撮画像で金稼ぐ加害者たち。潜入取材でとらえた「犯罪指南」の現場

(イラスト:qnel)

知らない間に、自分の性的な写真や動画がネットで売買されていたらどうしますか。実際にそんな被害が多発しています。一度でも投稿されれば瞬く間に広まり、削除しても削除しても、拡散のスピードに追いつきません。

私は友人が被害に遭ったことをきっかけに、2022年から取材を始めました。

拡散が止まらないのは、被害者の性的な画像が金を生み出す「商品」にされているからです。とくに画像取引と金の還元の仕組みを備えたアプリが人気となり、性的画像の取引の代名詞となってきました。

加害者たちはより多くの画像を売って金を得るため、新たな画像を手に入れてはアプリで販売。SNSでも被害者の画像を使って、自身の「商品」を宣伝します。投稿内容からは、犯罪行為であるという認識が非常に薄いことがわかります。

こうした加害者に広大な「マーケット」を提供しているのが、プラットフォームです。GoogleやAppleのアプリストア、Xなどが膨大なユーザーに向けた拡声器の役割をもたらしていました。

▽第1回の記事はこちら⬇︎
突然始まる「拡散地獄」。ネットで大量に取引される性的画像、女性や子どもが標的に

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被害者の画像をSNSで宣伝 星マークで評価も

私は取材開始当初、画像取引に使われていたアプリ「動画シェア」、「アルバムコレクション」をキーワードに、X上で検索してみた。すると、性的画像をアプリで販売していることを、堂々と喧伝する投稿者のポストが大量に出てきた。

「お気に入りをupします!ネタ提供ができるように頑張ります!」

「カギ使う価値ありの超美人さん いいね、リツイートお願いします」

アプリの中には、性的画像が投稿された無数のフォルダがある。投稿者はその中から自分が投稿したものを見つけてもらうため、上記のような宣伝文句のほか、フォルダの中に入っている被害者の顔がわかる写真、属性などの説明を加えて購入を促す。

被害者の画像を「オススメ度」、「レア度」で評価し、星のマークの数でランク付けしている投稿も見つかった。

リアルタイムで犯罪行為をアピールする悪質な投稿者もいた。その人物は自ら風呂場やトイレを盗撮し、それらをアプリに投稿していた。こんなポストを見つけた。

「今夜風呂盗更新したら、また買ってくれる方いますか?リピーター募集中です」

画像の売上げが還元されるアプリ

無断で性的な写真を入手して投稿するのはなぜか。主な目的は金儲けだ。

加害者がよく利用している画像の送受信アプリの場合、共通の仕組みがある。アプリ内に投稿された写真や動画の入手には、パスワードと「鍵」がいる。

パスワードは投稿者が画像をフォルダにアップロードする際に、投稿者に付与。それを投稿者が、Xなどで公開する。

鍵は有料だ。

フォルダ1つを開けるのに鍵1個の購入が必要で、値段は160円。まとめて買う場合は割り引かれ、例えば次のような料金設定になっている。

動画シェア
1個 ¥160
6個 ¥650
10個 ¥1,000
30個 ¥2,900
50個 ¥4,600
100個 ¥8,800

自分の投稿したフォルダに鍵が使われると、一部の料金がポイントとして投稿者に還元される。溜まったポイントは、Amazonでの買い物に使えるギフトカードなどと交換可能だ。

2022年には、アプリのパスワードを投稿するインターネット掲示板を運営していた人物がわいせつ物頒布等罪と児童ポルノ禁止法違反の容疑で逮捕された。その人物は、サイトに掲載した広告費などで少なくとも1500万円相当を稼いでいた。多くの人が掲示板サイトを訪問していたことがうかがえる。

アプリを使わず、「直取引」する加害者も増えている。

例えば、被害者の素性がわかる情報とセットの性的画像は、高く売れる。モザイクのない映像や、本人のSNSのアカウント情報、時には名前や通っている学校名も公開されている。ある投稿者はこうした情報を渡す場合に、追加料金までとっていた。

「モザナシ、アカウント付き欲しい方 Paypay1000円or アマギフ1500円〜」

盗撮カタログ

私は加害者のコミュニティーに「潜入取材」をすることにし、投稿者を装ったアカウントをXに作成した。すると数日後、熱心に宣伝を行う投稿者の一人からダイレクトメッセージが届いた。

「逆さ撮り販売中なのでよろしくお願い致します」

逆さ撮りとは、女性のスカートの中を下から撮影した盗撮写真や映像を指す。相手は「カタログ」と称して、スマホ画面のスクリーンショットを送ってきた。たくさんの動画が保存されていることがわかる。

被害者のほとんどは、制服姿の学生のように見える。マスクはしているが、顔が写ったものもあった。動画は204本あり、1本あたり10秒〜30秒程度。私に、「全てオリジナルです」とアピールしてきた。

204本の動画を6000円で販売しているという。その後「今ですと格安です」と、3000円まで値下げすると売り込んできた。

「記事がバスったら最悪」

彼らに罪の意識はないのだろうか。

私は取材の中で、投稿者たちに犯罪行為の指南をし、さらに金を稼ぐ人物を見つけた。Xのプロフィール欄には「エロ界隈のインフルエンサー」。確認した時点で、2.3万人のフォロワーがいた。

この人物はメッセージアプリでグループチャットを作成し、Xのフォロワーを増やす方法や、アプリで収益を上げる方法などを指導していた。グループに参加していたメンバーは46人。チャットルームに入るには、PayPayかAmazonギフト券で1000円払う必要がある。

私はこのグループが開いた音声ツールでの「作戦会議」にも潜入した。彼らはTansaの記事を読んでおり、記事に書かれたXのアカウント名を変えるなどして「Tansaの記事を台無しにしよう」と話し合っていた。

作戦会議を主催した人物は、グループの仲間に向かってこう語りかけた。

「記事自体、あの人らは結構力入れて作ってる」

「僕らとしてはあの記事がね、バズったりとかなんかして、社会問題になって、警察も動かざるを得ない状況になるのがいちばん最悪やと思うんで」

Tansaが作戦会議の内容を音声付きで報道すると、グループは外見上解散した。だが再びXなどでアカウントを作れば、何度でも同じことを繰り返せる。

アプリでの取引を指南する加害者グループのチャット。実際に販売する画像の共有も行なっていた

約300のアカウントに100万人超のフォロワー

問題なのは、こうした画像の売買を行なっているのが、一部の限られた人間ではないことだ。

私は2022年11月から約1カ月間、X上で販売のための宣伝行為をしているアカウントを数えた。動画シェアやアルバムコレクションというキーワードで検索した。

自力で見つけられただけでも、アカウントは計339に上った。

339のアカウントに対して、フォロワー数の合計は、のべ101万482人だった。300人あまりの「売り手」に100万人超の「顧客」がついている構図だ。最もフォロワーの多いアカウントは、4万2000人がフォロー。そのほか、フォロワーが1万以上いるアカウントは30あった。

これらの中には、同一人物が作ったと見られるアカウントも含まれる。違法なツイートを行っていると、Xから利用制限を課される可能性があるからだ。複数のアカウントを作成することで、制裁への対策をしている。こうしたアカウントのことを、投稿者らは「避難アカウント」と呼んでいた。

性的画像に特化のアプリ、過去に有罪判決も

こうした投稿を繰り返す加害者は摘発されづらいのが現状だ。たとえ逮捕されて有罪になったとしても、数十万円の罰金で済むことも多い。次々に新たな加害者が登場し、まるでイタチごっこだ。

被害を防ぐ責任があるのはどこか。私はプラットフォームに着目した。

例えば動画シェアやアルバムコレクション。ウェブサイトやアプリストアの説明がきでは、「修学旅行や家族の思い出の写真を共有しよう」と謳っていた。だが私は取材を通じてそれらの写真を見たことがない。確認できた取引はほぼ全てが性的画像だ。

ほとんど同じ機能と宣伝文句を備えたアプリは、他にもいくつかある。いずれも投稿者らに性的画像の取引の場だと認識され、犯罪の温床となっている。

被害者が自身の画像が取引されていると通報しても、対応しない運営者も多い。私はこれらが、性的画像の取引に特化して作られたと考えている。

過去には「写真箱」というアプリの運営者が逮捕され、児童ポルノの陳列を幇助したなどとして2017年に有罪判決を受けた。横浜地裁が、懲役2年6月、執行猶予4年、罰金400万円の判決を下した。

投稿者に利益が還元されるポイントの仕組みが、「わいせつ画像の投稿を動機づけている」と判断されたのだ。運営者はアプリが「レンタルボックスのようなもの」「中に何が入っていてもユーザーの責任で、管理人には関係ない」と弁明していたが、認められなかった。

高裁は運営者の控訴を棄却し、地裁判決が確定した。

「拡声器」の役割果たすプラットフォーム

ところが2017年の有罪判決以降も、まったく同じ仕組みのアプリが乱立している。これらは罪に問われていない。それどころか、GoogleのGoogle PlayやAppleのApp Storeなど、誰もが簡単にアプリを入手できるプラットフォームで扱われていた。

アルバムコレクションは2023年12月、App Storeの「写真/ビデオ」カテゴリでランキング1位にもなった。2位はInstagram、4位はYouTubeだ。Googleも自社ストアに動画シェアを掲載。少なくとも10万ダウンロードがなされたことがわかっている。

これらのアプリでは、子どもの性的画像も大量に取引されていた。

ところが、両社の反応は鈍かった。私はGoogle日本法人の奥山真司社長とApple日本法人の秋間亮社長に繰り返し質問状を送付。事態の深刻さを伝えたが、返事はなかった。

結局Google側は、私が取材で接触した社員を通じて動画シェアを削除。アルバムコレクションは、米Apple本社CEOのティム・クック氏に直接メールを送信した3日後、App Storeから取り下げられた。

しかし、これらのアプリも氷山の一角に過ぎない。今もさまざまなツールを通じて、被害が起き続けている。

さらに深刻なのは、警察や画像の削除を促すはずの法的仕組みすら被害者の救済を怠っていることだ。

=つづく

【取材・執筆=辻麻梨子(@marikotsuji15)/ Tansa】

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