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「私が学生時代に抱いた興奮が今も続いていること、特に日本に対する興奮が続いていることをお伝えしたいです」
そう話すのは、米航空宇宙局(NASA)科学部門の責任者を長年務めたトーマス・ザブーケン氏。在任期間は2016年から2022年までと歴代最長で、宇宙界では「Dr. Z」として知られるキーパーソンだ。
ザブーケン氏は現在、アインシュタインらを輩出したスイスの名門「スイス連邦工科大学(ETH)」で宇宙研究所の所長を務めている。
アポロ計画以来、再び人類が月面着陸を目指す「アルテミス計画」で、日本人が初めて月面に立つ可能性が出てきたこともあり、ますます注目が高まる宇宙。ザブーケン氏が語った、日本の宇宙スタートアップへの期待と、国際協力の重要性とは。
ザブーケン氏は日本について、「ハイテクでありながら深く革新的な組織だ」と語った。
「私は、学生時代に抱いた興奮が今も続いていること、特に日本に対する興奮が続いていることをお伝えしたいです。例えば『はやぶさ』を使って日本がやったことの多くは、実はアメリカにとっては本当に難しいことでした。あの金額ではこんなことはできない、というような挑戦でしたが、非常にインパクトがあり、かつ効果的でした」
さらに、月面資源の活用を目指すispaceやスペースデブリの除去事業を行うアストロスケールなど、日本発の宇宙ベンチャーにも期待を寄せた。
ispaceは民間企業として世界初の月面着陸成功を目指していたが、2023年に着陸に失敗し、その称号を逃した。しかしザブーケン氏は「失敗せずに進歩することはできない。勝つ前に何度か負けなければならないんです」と語った。
「NASAもJAXAも何度も失敗した。ispaceのCEOに会ったことがありますが、彼はうまくいかなかったことをすぐに自分のものにし、2回目のミッションに取り組んだ。そしてもちろん、優秀な仲間に恵まれています」
「宇宙研究は、他の何にも増して国際的な活動です」と強調したザブーケン氏。NASAでの在職期間中、最も誇りに思っていることは「深い国際協力関係を築けたこと」だという。
「私は早くから国際協力の大切さを学び、X線・光学/紫外線望遠鏡で遠方の銀河団から太陽系の惑星まで、さまざまな天体を研究する『XMM』や、2年後に打ち上げが予定されている火星探査機『MMX』など、ミッションの数を3倍に増やしました」
宇宙界で「Dr. Z」として知られるまでになったザブーケン氏は2023年、生まれ故郷であるスイスに戻ってきた。「スイスには、アメリカでは解決できない問題がたくさんあると思っています」と語った。
「誰も(永世中立国である)スイスを脅威だとは思っていません。協力関係を築く上でその強みを生かし、宇宙における新しい革新的なプロジェクトのパイプラインを開きたいと考えています」
アメリカが主導する月探査計画「アルテミス」にはスイスも参加を表明している。平和的目的での宇宙探査・利用をめぐり各国の共通認識を示すアルテミス合意について、ザブーケン氏は「次世代における探査の平和的意思の宣言」だと説明する。
「つまり、基本的に我々は共に平和的に探査を行い、お互いの干渉しない境界線を尊重しようという合意です」
宇宙探査や開発に明確な国際ルールはまだない。ザブーケン氏は「アルテミス合意は、その方法を考えるための第一歩だと思います」と期待を寄せた。
イノベーションと起業家精神に関する研究でもよく知られるザブーケン氏は、欧州宇宙機関(ESA)の資金提供プログラムの一環として、約60のスタートアップとコンタクトをとっているという。
「私たちは、宇宙ハードウェアの製造だけでなく、NASAやJAXAなどから一般に公開されているデータを活用する企業を育成するために、濃い密度の支援をしたいと思っています。このような企業を作るには、才能や技術だけでなく、資金も含めたエコシステムが必要だと考えています」
ザブーケン氏の次なる目標は、スイス国内で次世代の教育にも力を注ぐことだ。実際に今秋、約40人の学生からスタートする修士課程プログラムを構築しているという。
「技術は才能に従うものであって、その逆ではないと考えています。適切な人材を育てれば、技術はついてきます。(スペースXを率いる)イーロン・マスクらとも議論をしていますが、『最高の人材を得ることが、最高の会社を作ることにつながる』と彼らは言っていて、私たちも同じことをしたいと思っています」
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ハフポスト日本版は、駐日スイス大使館より招待を受け、現地の取材ツアーに参加しました。執筆・編集は独自に行っています。
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「はやぶさの挑戦は、アメリカではできなかった」。元NASAのキーパーソン「Dr. Z」が語る日本のスタートアップへの期待