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日本を代表する演劇やミュージカルの聖地である帝国劇場(東京・丸の内)が、老朽化による建て替えのため、2025年を目処に一時休館する。
この建て替え計画をめぐり、聴覚や視覚などに障害のある舞台ファンや支援者らでつくる団体が、建物のバリアフリーや、字幕・音声ガイドなどの情報保障をはじめとしたアクセシビリティの向上を求めて、5月10日に都内で記者会見を開いた。
会見に登壇した障害のある当事者は、障害のあり方や、それに伴う観劇のサポートの方法は多様であると言及。事業者に対し、マニュアル化にこだわらず、障害のある人それぞれの実態に適した対応の重要性を強調した。
帝国劇場などが入る「帝劇ビル」と、隣接する複合ビル「国際ビル」は、東宝と三菱地所と出光美術館が3社共同で一体的に建て替える計画が公表されている。
障害のある舞台ファンや手話通訳、舞台関係者らが集まった市民団体「We Need Accessible Theatre!(ウィー・ニード・アクセシブル・シアター)」は、障害のあるなしにかかわらず帝国劇場での舞台鑑賞を楽しめるよう、「劇場をアクセシブルに」を掲げて2023年10月からオンライン署名を開始した。
この署名では、帝国劇場を運営する東宝に対しては「建て替えに際し、観劇経験のある障害当事者の声を聞くこと」、国に対しては、「劇場のアクセシビリティに関連する横断的な法令の整備と、具体的な指針」および「観劇サポートを実施するための費用等の助成や支援の補強」を求めている。約2万1000人の賛同が集まり、10日に東宝に署名を提出し、面会を行なった。
同団体は、障害のある当事者へのヒアリングをした上での建て替えを求めているが、面会で東宝は「現段階では予定していない」と回答した一方で、建て替えを共同で進めている他の2社と「署名を受け取ったという情報を共有したい」とコメントしたという。
聴覚障害がある演劇ファンの山崎有紀子さんは会見で、署名活動を発起した理由について、「障害のあるなしにかかわず、文化芸術を気兼ねなく楽しみたい」からだと話した。普段から多くの舞台を見に行くが、字幕がない公演も多く、台本などを表示したタブレットの貸し出しなどを求めているが、「こちらから要望しなければアクセシビリティは何もない」と、情報保障が不十分な実態を明かした。
山崎さんは、舞台関係者から「本当は(字幕や手話・文字通訳などに)対応したいが、費用や人手がない、対応方法がわからない」とも聞いたと述べ、「舞台制作者もこの数年のコロナ禍で疲弊しており、自助努力には限界がある。国の支援が必要」だと訴えた。
「バリアフリー演劇結社ばっかりばっかり」に所属する、視覚障害のある俳優の美月めぐみさんは、帝国劇場には舞台ファンとして40年ほど通っているといい、駅からのアクセス環境が整っているため「視覚障害者が一人でも行ける劇場」だと評価。一方で、「建物が老朽化しており、スタッフの人たちの対応は良いが、席によっては通路の階段が狭く急で怖い」とし、建物構造におけるバリアフリー化を要望した。
美月さんは、東宝との面会については、「『帝国劇場は世界一の劇場を目指す』とも話されていて、『誰にとっても世界一の劇場』というニュアンスだったように思う。現時点では、障害の専門家へのリサーチを検討しているようだが、今日届けた署名を見て、当事者へのヒアリングも前向きに検討してくださるのではないかという大きな期待がある」と述べた。
山崎さんや美月さんによると、日本の劇場では、アクセシビリティの向上が進んでいるのは中小規模の劇場が多く、帝国劇場などの大きな劇場では、対応で遅れをとっているのが現状だという。
山崎さんは「(字幕や舞台手話通訳などの)働きかけは、劇場や演劇団体の規模が小さい場合は、即決していただけることもある。しかし、組織が大きい場合は、海外の作品を上演することも多いため関係者が多岐に渡り、確認や予算の承認などに時間がかかる場合が多いのではないか」と話した。また、大きな劇場の場合は、障害のある人への対応は車椅子ユーザーのみに限られることが多く、「多様な観客が観劇に来ていると理解していただくことが重要」だと指摘した。
同団体では、署名活動のほか、障害のある舞台ファンなどを対象にアンケートも実施。障害のある当事者にヒアリングしたり直接関わったりして制作され、アクセシビリティが評価されている建物・団体として、「東京芸術劇場」や「宝塚歌劇団」などが挙がった。同団体は、「設備の充実・ホスピタリティに限らず、当事者とともに伴走する、作り上げていく姿勢も大事」だと強調した。
障害を理由にした差別を禁じ、障害のある人への合理的配慮の提供を行政や企業に求める障害者差別解消法は、4月に改正され、合理的配慮の提供は民間事業者の法的義務となった。
帝国劇場は1911年に日本初の本格的な西洋式大劇場として誕生した長い歴史を持ち、国内外の名作を上演してきた。
NPO法人「シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)」理事長の廣川麻子さんは、「できた後に当事者が残念に感じることがないよう、当事者の意見を聞いてより素晴らしい劇場を作ってほしい」とし、「帝国劇場という伝統ある劇場で要望を実現したら、モデルとして他の劇場にも広がっていくのではないか」と期待を述べた。
同団体は今後、三菱地所と出光美術館、さらに文化庁、国土交通省、厚生労働省、経済産業省などに対しても署名を提出し、劇場のアクセシビリティ向上に向けて働きかけを続けていくという。
ハフポストは記者会見後、東宝に対して、2万1000筆の署名の受け止めや今後の対応の方針などについて、書面で尋ねている。回答があり次第、その内容についても報じる。
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障害のある人を排除しない「世界一の劇場」を。帝国劇場の建て替え、バリアフリーや情報保障を求める署名に2万超の賛同