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日本若者協議会など複数の若者団体は4月30日、「エネルギー政策の有識者会議への若者委員の参加を考える院内会議」を開催した。野党の議員らや経産省、環境省の担当者、一般の参加者らが参加した。
同日に閉幕したG7でまとめられた共同声明では、石炭火力発電廃止の時期について、初めて「2030年代前半あるいは産業革命前より気温上昇を1.5℃までに抑えられる時間軸」と明記された。時期に幅をもたせた表現ではあるものの、日本政府の「逃げ道」は着実に狭まってきている。
このG7の共同声明が、近々見直しが検討される予定の日本の次期エネルギー基本計画において、どのように影響するか注目が集まっている。
今回の院内会議では、専門家がエネルギー基本計画を議論する委員らの「偏り」などについて指摘。日本の気候変動対策の肝となる基本計画の議論のあり方そのものが問われている。
2015年に採択されたパリ協定では、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ1.5℃以内に抑えることを目指す世界目標が掲げられた。
気候変動に詳しい東京大学未来ビジョン研究センターの江守正多教授は、「2023年の4月から2024年の3月までの平均気温が、 産業革命前に比べて、既に1.5℃以上高くなっています」と指摘した。
「現在のエルニーニョ現象が落ち着くと、直近では1.5℃を下回るかもしれません。ですが世界平均気温の1.5℃上昇に、かなり近づいてきてるということがわかります」
地球温暖化が進むと何が起こるのか。江守教授は、IPCCの報告書の中からいくつかの例を紹介した。
例えば世界平均気温が上がると、死にいたるレベルの熱中症リスクも高まる。4〜5℃上がれば、毎日熱中症の死亡リスクがあるなど、生身の人間が住めないような地域も出てくる可能性が高いという。また3〜4℃上がると、農業や漁業などの食料の生産性が3割以上低下する見込みだ。
「多くの人が想像しているよりも、気候変動が進んだ世界はひどいんです。食料生産への影響も大きいですから、水や食料を奪い合う世界の紛争も、難民も増えます。とても不安定な国際社会になる可能性があります」
そんな未来が見える中、「現在の温室効果ガスの排出削減ペースは全く足りていない」と江守教授は指摘する。
国際研究機関「クライメート・アクション・トラッカー」によると、日本や先進国が宣言した「2050年までにネットゼロ」や新興国らが宣言した「2060〜70年までにネットゼロ」を仮に全て達成し、一番楽観的に見たとしても、世界の平均気温は1.8℃上昇するという。
「この先の時代を生きる人々にとって気候変動は非常に深刻な問題です。今の世代と将来世代が同じ価値を持って同じ世界を目指していければ1番いいですが、もしそうでなかったとするならば、 今の世代と将来世代はシビアな交渉をしなければならないと思います」
気候政策シンクタンク「Climate Integrate(クライメートインテグレート)」代表理事の平田仁子さんは、これまでのエネルギー基本計画の政策決定プロセスを検証した結果、「審議会の構造と委員構成の課題が浮き彫りになった」と指摘した。
2021年に策定された第6次エネルギー基本計画の審議構造を見てみると、総合資源エネルギー調査会の下に4つの分科会が設置されており、その中の基本政策分科会で議論が進むという。
4つの分科会の下にも小委員会等があり、必要性があればワーキンググループなども開かれている他、研究会や検討会といった法に基づかない検討の場なども設けられているようだ。
「実は基本政策分科会は非常に細分化されたテーマごとの議論が吸い上がっていくだけであって、総合的な観点から議論する場にはなかなかなっていない現実が見えてきます」
また、エネルギー基本計画の策定に関わる主要な15の会議体の委員構成を業種、年齢、性別、スタンス別にみてみると、構成に偏りがあることが明らかになったという。
業種別では、大学関係者、シンクタンクが多いほか、エネルギーを多く消費する産業の企業や業界団体が多く参加している。一方、エネルギーの需要側の企業や非営利団体の参加が非常に少ない。
年齢別にみると、50〜70代がほとんどを占めていることがわかる。40代は非常に少なく、30代はほとんどいないという。上位の会議体になればなるほど年齢が上がっていると平田さんは指摘した。
性別を見ても、全体平均の約7割超が男性という偏りがある。エネルギーシステムの転換についてのスタンスを見ても、転換に消極的で現状を維持したい考えの人の割合が目立つ。
平田さんは、1999年に定められた「審議会等の運営に関する指針」で、▼委員構成は「意見、学識経験等が公正かつ均衡の取れた構成であること」▼高齢者は「職責を十分果たしうるよう、原則として選任しない」と定められていると指摘。
「明らかに指針と照らし合わせても公正・均衡に欠けているのではないでしょうか。業種、年代、性別、意見の多様性に配慮した、より民主的な政策決定プロセスが必要です」
日本若者協議会の冨永徹平さんは、「次期エネルギー基本計画を議論する有識者会議に若者を複数入れてください」と訴えた。その根拠の一つとして、トランス・サイエンスの観点を説明した。
トランス・サイエンスとは、政策などの分野において技術的な議論が必要である一方、科学だけでは最終的な答えが出ず、政策によって影響を受ける人たちの価値判断が含まれるべき問題の分野のことだという。
「例えばエネルギー政策で言えば、気候変動対策や安定供給、安全性、経済性などの技術的な部分が議論されていますが、私たちがどういった社会で生きていきたいのか、どんな電気をどういう風に使っていきたいのかなど、一般市民の意思決定が必要な部分もあります」
また、こども家庭庁が「こども・若者は、気候変動の当事者である」と明記していることなどに触れ、若者の意見を気候変動対策の政策に反映させる重要性について指摘した。
「政策を議論する会議体においては、専門家が入るだけでなく、特定の政策の当事者や利害関係者が参加するのは珍しくないと認識しています。当事者が議論に加わることで、その場で利害調整をしたり、合意を取ることで政策をスムーズに実施できたりするメリットがあります。それは、若者が気候変動関連の審議会に参加する際にも変わりはないと思っています」
専門家や若者の意見を聞いた公明党の輿水恵一衆議院議員は、「我々の世代は、しがらみや今までの流れに縛られ難しい」とコメントした。
「若者の意見をしっかり取り入れていかないと、江守教授の話であったように、(気候変動は)もう取り返しのつかないような状況になりつつある。後になってあの時もっとこうすれば良かった、というようなことが起こりうる状況で、そういったことに敏感なのが若者の皆様だと感じています」
経産省の担当者に、エネルギー基本計画に若者の委員が入る道筋はあるのか、どのような検討プロセスが考えられるのか聞くと、「委員に関しては公平性の観点から年齢だけに着目した選定っていうのは行っていません」と回答した。
「第6次エネルギー基本計画の際には、非公式の意見交換の場や、365日24時間誰でも意見が出せる意見箱、パブリックコメントなどを実施しました。このような形で様々な意見をいろんな世代から受けられるようにしていきたいと思っています」
環境省の地球温暖化対策計画の担当者は、「若者の方々も含めて意見を聞いていくことが重要です。公平性の観点を含め、検討会のメンバーと考えていきたいと思っています」と答えた。
「若者はまさに当事者です。今後色々と検討を進めていく中で、専門分野はもちろんですが、年齢層や性別などのバランスも踏まえながら検討を進めていきたいと思っています」
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経産省「公平性の観点から年齢だけに着目した選定はしない」気候変動対策の議論に若者の参加を求める院内集会で