失敗しない「出会い」をAIがサポートしてくれるという頼もしい婚活サービス「Aill goen」が誕生した。その秘密は、AIによる「キューピッド」機能だ。
例えば、まだ機が熟していない段階でデートに誘うメッセージをAさんが送ろうとすると、「まだデートに誘わない方がいいかも」とチャットにAIが介入してくる。
そしてAIはさらに、「Bさんの一番好きな映画が何か聞いてみてね」と話の糸口に関するアドバイスもしてくれた。交際に漕ぎ着けるまでを自然な形で導いてくれる頼もしいキューピッドとして、アプリの中で利用者をアシストしてくれる。
この斬新なサービスを手がけているのは、株式会社Aillの豊嶋千奈さん。
豊嶋さんは「恋愛に消極的」と言われる若者の気持ちをこう捉えているという。
「若い人が恋愛をしなくなったのは、『失敗したくない』という理由です。だったら行動すれば恋愛がうまくいく、そういうものを作ろうということでAIのキューピッドを開発しました」
「一度デートを断られると、次に誘うのが怖くなる」
このような恋愛の負の連鎖を無くそうと働くのが、AIキューピッドだ。
キューピッドは、コミュニケーションだけではなく、マッチングの段階でも大活躍してくれる。例えば、家事育児の分担割合や、転勤に対する考え方、そんな生活の価値観が合うパートナー同士を結びつけてくれるのだ。
また、やり取りを元に、相手の自分に対する好感度を客観的に可視化する機能も実装されており、利用者は効果的に安心してアプローチすることができるようになる。こうしたAIキューピッドの活躍によって、AI機能を利用している組のデート実施率は56%、告白成功率はなんと98.6%となっている。
「Aill goen」のもうひとつの特徴は、特定の企業の独身従業員だけに限定されたサービスであるということ。
しかも、利用できるのは女性活躍推進企業や子育てサポート企業、官公庁など一定の条件を満たした組織のみだ。不特定多数が使えるサービスではないことから、利用者が安心して真剣な婚活に取り組めるというわけだ。
「子育て中の従業員や介護をする人などの支援を充実させる企業は増えています。一方で取り残されているのは、独身者向けの支援ではないでしょうか」(豊嶋さん)
こんな狙いから、独身の従業員に対する福利厚生のサービスとして導入する企業や官公庁が増えており、現在では1100社以上の組織が利用している。
利用料は1人月額4000円で、従業員の利用料を全額負担している企業もある。
オフィス家具や空間デザインを手掛ける株式会社イトーキは3年前に導入した。
「現在は様々なマッチングアプリなどのサービスがありますが、初心者にとっては戸惑う部分もあるようです。その点、Aillであれば、どの企業が使っているかわかっている状態で、利用者にとって安心感がある、ということで、導入を決めました」
そう話すのは、イトーキ人事本部 人事企画室長(取材当時)の一階 裕美子さん。
イトーキでは、2024年1月時点で利用者数は300人を超えており、60組以上のカップルが誕生しているそうだ。
また、利用料はすべて会社が負担している。結婚は従業員のプライベートな領域ではある。一方で、ウェルビーイングな生活を送ることで仕事での生産性も高まり、仕事へのエンゲージメントも向上することが期待できる。
そんな、組織の成長のために従業員の幸せを目指すという人的資本経営の考え方から、同社では導入を決めたのだという。
厚生労働省によると、2023年の出生数は前年比5.1%減の75万8631人と8年連続で減少し、過去最少となった。
少子化の要因の一つは婚姻件数が48万9281組で、前年から3万組以上減少していることでもある。
一方で、内閣府の調査によると、20代男女の半数以上が結婚を希望しているとされている。このような未婚化、晩婚化の進行を背景に、国や自治体が少子化対策の一環として婚活を支援する動きも広がっている。
豊嶋さんがこのサービスを開発した背景には、自身の経験が大きく影響しているのだという。
豊嶋さんは、2009年に大学を卒業後、武田薬品工業株式会社に入社し、薬剤の営業、企画立案、地域戦略やマーケティングを担当した。
相手の心を動かすため、営業パーソンとしてどんな話をし、ほしい情報をどうやって引き出すか。自分のトークを振り返りながら、改善を重ねていった。
そうして仕事に打ち込んだ結果、5年連続で社内表彰され、豊嶋さんは女性幹部候補生に。
しかし、同じように仕事に取り組んで結果を出している女性の中には、独身者が多いことも気になっていた。「仕事はできるのに、恋愛の相手が探せず、心が満たされていない女性が多くいる」。
婚活というサービスで、働く人の心身の総合的な幸福度を向上させることを目指して、2016年に退社、起業の道を目指すことになった。
退社後は、まず知人に出会いの場を提供してみたが、なかなか付き合うまでには至らなかった。
双方の意見を聞くと、良かれと思ってやっていることが相手に響いていないなど、思った以上に、コミュニケーションにはすれ違いがあることが判明した。
そこで、誰かが間に入れば人間関係はうまくいくのでは無いかと考え、AIキューピッドのアイデアを閃いた。
さらに、「営業と恋愛は紙一重」という言葉を思い出し、AIに読み込ませる「教師データ」に、営業ノウハウを転用することを思いついたという。
その後は、東京大学の松原仁教授や北海道大学の川村秀憲教授など、著名な専門家と共に、人と人のコミュニケーションにおける感情の変化をアルゴリズム化した。
「皆のコミュニケーションがうまく行って人生が豊かになれば、もっと人に対して優しくなる。そんな世の中に貢献したい」
「Aill goen」のサービスは現在は交際までの利用だが、今後は交際後や、結婚後などにも利用シーンを広げていく予定だ。
また、恋愛だけでなく、会社の上司部下などのコミュニケーションも支援することで、セクハラやパワハラなど人間関係に起因する問題をなくすという夢も掲げている。
「私が抱いてきた疑問が、社会課題として認識され始め、企業や行政機関の目にもとまり始めています。今後はビジネスをもっと成長させることで世の中に好循環を生み出し、幸福な人々が増える社会を目指していきたいと考えています」
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