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防衛省が、イスラエル製の攻撃用ドローンの導入を検討していることが、3月12日の参議院外交防衛委員会で明らかになった。
運用実証が決定した機体の製造元には、エルビット・システムズやイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)など、イスラエルの軍需産業の代表格である企業が名を連ねる。
イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃で多くの民間人が殺害される中、イスラエルとの関係を見直す動きが国内外で相次いでいる。
国際司法裁判所(ICJ)は2月、イスラエルに対し、ジェノサイド行為を防ぐあらゆる手段を講じることなどを求める暫定措置命令を出した。ICJの決定などを踏まえ、伊藤忠商事が子会社を通じてエルビット社と結んでいた協力覚書を終了するなど、複数の日本企業がイスラエル企業との契約終了を発表している。
さらにオランダの高等裁判所は2月、同国政府に対し、イスラエルへのF35戦闘機の部品輸出を停止するよう命じた。コロンビアでは同月末、ガザで支援物資を受け取ろうと集まった人々がイスラエル軍に殺害されたことへの抗議として、ペトロ大統領がイスラエルからの武器購入を停止すると表明している。
カナダ政府も3月、イスラエルへの武器輸出を無期限で停止していることを明らかにした。
防衛省が打ち出している計画は、こうした国内外の動向に逆行するものだ。
国際法の専門家は、「ガザでの虐殺行為が続くこのタイミングで、イスラエルの軍事産業の筆頭格である企業と手を組むことは、れっきとしたジェノサイドへの加担だ」と批判。計画を見直すよう訴えている。
防衛省は、「無人アセット防衛能力」の強化を目的として、2023年度予算に「小型攻撃用UAV(無人航空機、ドローン)」30億円、「多用途/攻撃用UAV」69億円をそれぞれ計上している。
同省によると、攻撃型無人機の事業で実証が決定した機種と製造企業は以下の通り。( )内は製造企業名。
▽多用途/攻撃用UAV
Heron MKⅡ(Israel Aerospace Industries)※
VTOL機(SUBARU)
▽小型攻撃用UAV
ROTEM L(Israel Aerospace Industries)※
Point Blank(同)※
Drone81(DefendTex)
HERO-120(Uvision)※
SkyStriker(Elbit Systems)※
※印はイスラエル企業で、7機中5機に上ることがわかる。これらの無人機はミサイルを積めるドローンや自爆型ドローンであり、自然災害時での活用は想定されていない。
なぜイスラエル製が大半を占めるのか。
3月12日の参院外交防衛委員会で、共産党の山添拓議員の質問に対し、防衛装備庁の久澤洋・調達事業部長は「いずれも実証で求める機能・性能を満たす機体であり、一般競争入札を経て競争性を担保し、最低価格で入札した企業と契約を締結した」と説明した。防衛省によると、日本の商社「海外物産」(東京都港区)からの落札価格が1円の機体も含まれているという。
ICJの暫定措置命令などを踏まえ、山添議員が「日本政府はイスラエル製の攻撃型ドローンの購入をやめるべきではないか」と問うと、木原稔・防衛相は「要求性能や経費、維持整備など様々な要素を勘案した上で、我が国の今後の防衛に必要な装備品を総合的に検討する。現時点で特定の国の装備品を予断するものではない」として、計画を維持する姿勢を示した。
イスラエル軍のガザ地区への攻撃で、3万2000人以上の人々が殺害されたと報告されている。こうした中、イスラエル企業から武器を購入しようとする日本政府の動きを、専門家はどう見るのか。
2009年から5年間にわたって国連人権高等弁務官事務所・パレスチナ副代表を務め、国際法を専門とする髙橋宗瑠(そうる)・大阪女学院大学大学院教授は、イスラエル企業と取引することは「あまりにも国際社会の動きが見えておらず、あり得ない判断」だと批判する。
「伊藤忠が子会社を通じて(イスラエル軍事大手の)エルビット・システムズと契約を締結していたこと自体は問題ですが、少なくともICJの命令を受け、きちんとした判断がされたのは評価できます。
それなのに民間企業とは異なり、税金で全てが賄われている日本政府が、よりにもよって多くのパレスチナ人が殺害されている今、イスラエルの軍事企業と手を組み、莫大な資金を与えようとしている。武器を渡す行為ではなくても、これはジェノサイドへの露骨な加担に当たります」
髙橋さんは、攻撃型ドローンを巡る日本政府とイスラエル企業の取引が「商品を売買するだけで終わり、という単純なビジネスの話ではない」とみる。どういうことか。
「武器の取引というのは、使い方を訓練してもらったり、機体の動きが悪くなったら部品の提供を受けたりと、長期的な関係を築くことを意味します。その上、『ガザに対する虐殺行為には目をつぶります』というメッセージを、イスラエルだけではなく国際社会に対して送ることにもなる。
イスラエルの政府や企業と手を組んではいけないという機運が国際的に高まっている現状を無視しており、大きな問題です。今回の判断が、いかに日本という国のレジティマシー(正当性)を傷つけることかに気づいていません」
イスラエル企業から武器を購入する計画に向けられる批判の声を、どう受け止めているのか。
防衛省は「国民の生命と財産を守り抜くためには、防衛力の抜本的強化を図る必要があり、そのためには自衛隊の運用ニーズを満たす優れた装備品を導入していくことが重要です」とハフポスト日本版の取材に回答した。
こうした主張を、髙橋さんは「受け入れられない論理」だと一蹴する。
「日本を守るためなら、人権侵害を続ける相手とだって手を組むという、あたかも二者択一であるかのような言い分です。ですがこれでは、『防衛という大義名分が立てば、国際社会のルールなど無視して良い』と言っているようなもの。
政府の決定のつけは私たち自身に降りかかります。イスラエルの軍事産業と手を組むことは、日本政府のみならず市民の国際社会における評判を貶める行為なのです。決して『国民のため』にはなりません」
イスラエル製の攻撃用ドローンの実証事業に関わるのは、防衛省だけではない。輸入代理店として、海外物産、日本エヤークラフトサプライ、住商エアロシステム、川崎重工業の4社が契約先の企業に決定している。
髙橋さんは「企業が自ら判断して輸入の役割を引き受け、それによって利益を得ようとしているのです。『政府に頼まれたから』という言い逃れは通用せず、企業もジェノサイドに加担しない責任があります」と強調する。
防衛省は小型攻撃用UAVについて、3月末までに各製造企業から実証試験の成果報告書の提出を受け、2024年度以降に本格導入の機種などを決定する方針。多用途UAVも同様に、同年度中の実証試験を経て報告書を受け取るとしている。
髙橋さんは、イスラエル企業との取引を見直すことに加え、日本政府がすべきこととして国際刑事裁判所(ICC)への働きかけも挙げる。
ICCは、集団虐殺や戦争犯罪などに関する捜査を行い、政治や軍部の指導者個人を国際法に基づき訴追・処罰する役割を担う。3月11日には、ICCの新たな所長に赤根智子氏が日本人として初めて選出された。
「パレスチナに関してICCは極めて腰が重いと言わざるを得ません。パレスチナは2015年にICCに加盟したものの、本捜査が開始されるまで約7年かかりました。ロシアがウクライナに侵攻した際、本捜査が始まったのは4日後で、1年以内にプーチン大統領は起訴されています。
病院や民間人への意図的な攻撃、飢餓状態の利用といった、イスラエルの戦争犯罪は歴然としているのに、起訴状はまだ一つも出されず、嵐が通り過ぎるのを待っているかのようです。イスラエルへの対応で、国際システムの二重基準や偽善があらわになっている。それが端的に現れているのがICCです」
120を超える締約国・地域のうち、日本はICCに最大の分担金を拠出し、2023年には37億5000万円に上った。髙橋さんは、「日本は主要ドナー国としての影響力を行使し、イスラエルの戦争犯罪を一刻も早く裁くようICCに働きかけるべきです」と提言する。
【髙橋宗瑠(そうる)氏】
大阪女学院大学・大学院教授。アムネスティ・インターナショナル職員などを経て、2009年〜14年に国連人権高等弁務官事務所パレスチナ副代表を務める。同年に帰国後、ビジネス・人権資料センターの初代駐日代表に就任。2019年から現職。専門は国際法。単著に『パレスチナ人は苦しみ続ける なぜ国連は解決できないのか』(現代人文社)。『現代思想2024年2月号 特集=パレスチナから問う━100年の暴力を考える━』(青土社)にも寄稿。
<取材・執筆=國﨑万智(@machiruda0702)>
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「虐殺に目をつぶるというメッセージ」防衛省のイスラエル製「攻撃用ドローン」購入検討、専門家が警告