政治デモを扱った吉住のR-1ネタに賛否両論。専門家「90年代を引きずっている」若者から「アップデートも必要」という声も

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『R-1グランプリ2024』決勝でお笑い芸人の吉住が披露したネタに、長年ポピュラー文化を取材してきたジャーナリストの松谷創一郎さんは「時代を捉えられていない。あの吉住さんでさえこれなのか」と批評した。

2024年3月9日に放映された『R-1グランプリ2024』(フジテレビ系)決勝の1stステージで、吉住は政治デモ活動をする女性が婚約者の家に行き、結婚の挨拶をするネタを披露。

活動後に直接婚約者の家に来たという吉住は、「絶対に許さない」と書かれたプラカードを持ち、「政治家の汚職ニュースを見て、辞職させないとと思って」と話し始める。

相手の両親が結婚に反対すると、「大丈夫ですか?私を敵に回して。私、自分の意見を押し通すプロなんですよ」などと迫る吉住。ネタの中で火炎瓶が投げ込まれ、「警察とやり合った」と返り血がついた服を見せるくだりもあった。

X上では「『デモ参加者=ヤバい奴』というイメージを増幅するネタ」「今の日本の政治の現状で冷笑とかしてる場合じゃない」などと批判する声が上がった。

一方、「吉住のネタは風刺が入ってる感じは確かにしたが、それは過激派に対してであり、あらゆるデモを指してはいないだろう」「吉住のネタは『そんな奴いねぇよww』っていう笑い。『あるある』じゃないんだよ」など擁護する声も多くあった。

松谷さんは「今の社会は、30年間経済が停滞し、少子化が進み、日本が行き詰まっていることにいよいよ多くの人が実感しているところです」と指摘する。

「そんな社会の状況の中、技術力の高い吉住さんでさえ、未だに90年代の古い表現を続けているのか、と思いました。あの吉住さんでもこれなのか、と」

R-1グランプリ2024

停滞する芸能界

芸能界の「政治性」の歴史を振り返ると、70年代の学生運動の失敗の記憶から、80年代はお笑いに限らず、「政治性をとにかく表に出さない」ことが一つの作法になったという。

「80年代は、あえておふざけをする、あえて馬鹿なことをするインテリジェンスな人たちが多くいました。その中心にいたのはビートたけしさんやフジテレビです」

この80年代の「非政治性(ノンポリ)」自体が、前時代の政治性に対しての「対抗戦略」だった。「つまり、80年代の非政治性はすごく『政治的』だったんです」と松谷さんは言う。

「ところが90年代以降、『非政治的な政治性』は失われ、単に政治性を排除しただけのネタになっていきました。吉住さんのネタはここ30年くらい続いてきた90年代の延長線上にあるだけです」

吉住のネタは、「あるあるで共感を呼ぶものではなく、『いるいる』と冷笑するネタだ」と松谷さん。このデモのネタで吉住は470点の高得点を獲得しR-1ファイナルステージに進んだが、吉住も、審査員も、制作側も、そしてそれを笑う視聴者も、「90年代を引きずっている」と松谷さんは指摘する。

「70年代という『前時代』がもはやない状態での『非政治的』な振る舞いが30年間ずっと続いているわけですから、本人たちはそれが表層的だとすら考えていないでしょう。本来は次の展開を模索しなければいけない時期ですが、まだそこに留まっているなと感じます」

https://twitter.com/R1GRANDPRIX/status/1766416572334436745?ref_src=twsrc%5Etfw

「風刺ネタ」だという声もあるが、松谷さんは「風刺は下から上を批評するものですから、これは風刺ではないでしょう」と言う。

「右にも左にも上にも下にも、ネット上でいろんな正義が可視化される時代において、 そこであえてその古いタイプの政治運動の人たちをモデルとして取り入れて冷笑するのはセンスがないと思います。例えば今の時代を捉えるネタにするなら、トランプ支持者やN党(みんなでつくる党)、参政党のような、ネット発の政治の動きを捉えるのもいいかもしれません。あるいは、プラカードに書かれた『絶対に許さない』の元ネタであろう『アベ政治を許さない』の標語をしっかりそのまま書いて、それを旗印としていたリベラルを『ちゃんと冷笑』すればいいのではないでしょうか。でも、そうした覚悟がないからああいうネタになったのでしょう」

現代のデモに参加する若者はどう思ったか

R-1前日の3月8日に2つのデモに参加していた大学生のあおいさんは、吉住のネタを見て「悲しい気持ちになった」と言う。

「ネタではすごく昔の過激なデモが織り交ぜられていて、今のデモと全然違います。デモに対する解像度が低くて、きっと実際のデモに行ったことがないんだろうなと思ってしまいます」

一方で、これまで様々なデモに参加したことがあるあおいさんは、デモのアップデートの必要性も感じているという。

「デモによっては、参加しているのに逃げ出したくなるようなしんどいデモと、疲れたけどやって良かったと思えるデモがあるんです」

その違いについて、「同じ志を持った人たちが団結してお互いをエンパワーメントするだけではなく、全然知らない人がデモを見てどう思うかの視点がしっかりあるかどうか」だと指摘する。

「例えばProtest Raveのデモは、EDM系の音楽を使ったりDJがいたり、スモークでライブのような雰囲気にしたり、外から見てもすごくカッコいいんです。デモのことを全然知らない人がいつの間にか隣で音楽にノって参加してくれていました」

本来は「声を上げることを冷笑する人たちに気を使う必要はない」とあおいさん。しかし、「民主主義が成熟していない今の日本では、全然知らない人が飛び入り参加できるくらいのハードルの低さと、デモを見て『忌避感』を感じさせないことが分断を解消するために重要になってくる」と言う。

「音楽を上手く使ったり、『参加している自分たちはカッコいい』と思えたりするようなデモも生まれてきています。多くの人に参加してもらえるように私もできることをしたいなと思います!」

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Maya Nakata