嵐のような出来事の最中にあっても、自分の軸が揺るがない人。
初エッセイ『My Life』(祥伝社)を読むと、pecoさんにそんな印象を抱かずにはいられない。
インタビュー第3回では、そんなpecoさんの軸がどのようにしてつくられてきたのか、そして多様性へのスタンスについて聞いた。
◾️第1回インタビューはこちら「pecoさんが振り返る、新しい家族のかたちを模索した日々『奇跡のような出会いだった』」
◾️第2回インタビューはこちら「pecoさんは喪失をどう受け止めたのか『息子の優しい部分はryuchellがいてくれたからつくられたもの』」
エッセイ『My Life』では、人とは違う自分だけの個性を出す方法を試行錯誤していた10代のエピソードもたっぷり詰め込まれている。
中学生の頃からずっとアメリカの映画やドラマが大好きで、自然とファッションの好みも90年代前後のアメリカンカルチャーに。流行にはまったく興味が湧かず、ひたすらブレずに自分の「好き」を大切にしてきた。
2023年に立ち上げた「Tostalgic Clothing」も、その延長線上で生まれた。「これを着ると痩せて見える」ようなスタイルアップは目指さない。80~90年代のアメリカのファッションをベースに、太っていても痩せていても、お尻が大きくても小さくても、その人のままで素敵に見える服をつくりたい。そんなpecoさんの思いを形にしたファッションブランドだ。
「昔からずっと、人と比べるのも、人から比べられるのも嫌いなんです。そもそも何もかもまったく同じ人間なんていないのに、なんで比べるんだろうと思いませんか?
私は4歳から高校1年までバレエを続けていたのですが、バレエって比べる世界なんですよ。あの子のほうが足が上がってる、あの子のほうが細い。そういうことがすぐにわかってしまう。
でも本当は、誰だってそれぞれにちゃんといいところがある。例えば『でも私、お芝居はめっちゃ上手だから』と思えたら落ち込む必要なんてないですよね。同じように、競争で1位になることにもまったく興味がないんです。自分が思いっきり頑張れたのであれば、順位なんて本当にどうでもいいことだから」
誰かと比べなくてもいい。まっすぐにそう思えるのは、自分への信頼感があるからだ。
「もうダメだと思うようなことがあっても、『大丈夫、自分は絶対なんとかできるし、なんとかなる』というマインドを常に持っています。それは決して私がポジティブだからではなくて、本来はネガティブな考え方をするからなんです。
『この先、もっと大変なことが絶対にある。だからまだ大丈夫』と自分に言い聞かせることで、なんとか乗り越えられるから。
もうひとつ、ちっちゃなことですが私が自分を好きでいられるのは、自分で自分にお礼を言うことが多いからかもしれません。
これここに置いといた5分前の自分、天才!
寝る前にお茶を淹れといたおかげで、朝がラク。昨日の自分ありがとう!
そんな風に自分で自分を褒めていると、自分のことがもっと好きになれます。自分に自信を持つって、そういうちっちゃなことの積み重ねだと思います」
一方で、ryuchellさんの苦しみを一番近くで見てきたからこそ、「多様性」と呼ばれるものがそう簡単に割り切れるわけではないことも理解している。
「今の時代は、多様性を認めることが素敵なこととされていますよね。でも私は、多様性と呼ばれるものをよしとすることだけが正解ではないと考えています。
『そんな性のあり方は受け入れられない』と主張する人に『間違っている』と否定して価値観を押し付けるのではなく、『あなたの考えはそうなんですね』と私は受け入れたい。人はみんな違う。だからこそ、考え方やあり方だって違って当たり前ですよね。わかってほしい気持ちはあるけれど、『わからせよう』とは思いません。
性に関することのカミングアウトも同じで、伝えることが正解で、伝えないことが間違っているわけじゃないですよね。どちらを選ぶのもその人の自由で、最後の最後に自分で決められたらいい。その勇気がきっと一番素敵なことなんじゃないかな。ryuchellの勇気を近くで見てきたからこそ、心からそう思います」
pecoさんと子どもの日々の中には、今も確かにryuchellさんの愛が息づいている。
『My Life』の次の一節を読むと、この本はpecoさんの半生記であると同時に、ryuchellさんへの手紙にも思えてくる。
<ryuchellからあふれるくらいに注がれた愛は、今もわたしの中に十分すぎるほど残っています。「新しい家族のかたち」をいっしょに模索していたときも、亡くなってからも、それまでもらっていた愛をわたしは少しずつ少しずつ、返しているだけのこと>『My Life』33ページより引用
「自分が好きな人と、自分を好きだと言ってくれる人。どっちを選べば幸せになれる? なんて問いがありますけど、私は絶対に愛されるよりも愛するほうが素敵だと思っています。
好きになった人に愛を渡せることは、すごく素敵で尊いこと。
さらに、その相手からも愛をもらうことができて、愛の矢印が双方向になることは、本当に本当に奇跡。そんな奇跡を経験させてくれたryuchellにはやっぱり感謝しかありません」
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
pecoさんが考える「自分の軸」のつくり方。比べない、自分を信じる、愛する【インタビュー】