食の多様性が進む現代、飲食店やスーパーでも肉や魚が使用されていない「プラントベース」の商品が身近になりつつある。
自身の健康や体調と向き合い続けた結果として、プラントベースに辿り着く人も少なくないという。体力勝負のスポーツ界でも、その傾向は加速しているというから驚きだ。
しかし、ヴィーガンやベジタリアンなど、プラントベースには漠然と「我慢」というイメージを持っている人も多いのではないだろうか。
「お肉や魚を使っていなくても、美味しいものがたくさんあるんですよ!」
そう語るのは、ビオトープ(株)代表で、 アスリートフード研究家・プラントベースフードアドバイザーの池田清子さん。今回、プロアスリートのパートナーを持つ池田さんが、10年にわたってプラントベースの食生活を実践してきた個人としての視点も交えながら、肉食・菜食の垣根を超えた食の多様性、重要性、そして楽しさについて話してくれた。
─── 早速ですが、西洋ではアスリートの世界でもプラントベースの食生活を選択する人が増えているそうですね。
そうですね。ここ10年ほど、私はアメリカを中心に海外と日本を行き来する生活をしており、その中でたくさんの変化を見てきました。
プラントベースの食生活は、地球環境の持続可能性と結びつけて話されることが多いですが、アスリートの世界では「選手寿命の持続可能性」の観点から選ぶ人も増えています。
表彰台に上がるような「現役」の選手寿命を伸ばすために、近年は生活リズムや食生活などの運動以外のケアの時間にも関心が高まっているんです。その中で、結果としてプラントベースの食生活に辿り着く人が増えているのだと思います。
私のパートナーは昨年、44歳で国内最大の長距離マウンテンバイクレースで優勝し、20代のときの自己記録を更新しました。本人は「まだ伸び盛りでこれからが楽しみ」と言っています。
─── 体力勝負のスポーツ界、漠然と「お肉を食べた方がパワーがつきそう」と思ってしまいます。
私も以前はそう思っていました。アスリートにはパワフルなイメージがありますが、強度の高い運動をするぶん、免疫システムが下がっていることが多く風邪をひきやすいんですよ。
野菜には風邪予防に欠かせないビタミンやミネラルなどに加え、食物繊維や抗酸化作用物質も豊富に含まれています。お肉よりもカロリーが低いのでたくさん食べられますし、植物性のタンパク質は動物性のタンパク質よりも消化が良いため、体への負担を最小限にとどめながら「選手寿命の持続可能性」の向上を目指せるんです。
また、栄養学は「全体の3割しか解明されていない」とも言われているので、これからも色々なことがわかってくるのではないでしょうか。Netflixで配信されている『ゲームチェンジャーズ 〜スポーツ栄養学の真実〜』も勉強になりますよ。
─── 選手だけでなく、大会を開催する側にも変化は起きているのでしょうか?
はい。例えばマウンテンバイクの世界では、数日かけて行われるステージレースには食事が用意されることが多く、事前に食べない、食べられないものを申告することがあります。レースによっては「ヴィーガン優先ゾーン」もあって、選手の声に開催側が応える素晴らしい取り組みだなと思います。
プラントベースを社会全体にとってより身近な存在にしていくためには、スポーツ界に限らず、多方面の企業の積極的な取り組みが求められます。私はアメリカに行くたびに、スーパーで新しいプラントベースの商品を見つけては「こんなものもできたの?」と驚かされています。美味しいプラントベースの商品が手に入りやすい環境は大切ですよね。
─── 日本ではプラントベースの食品は、値段が張るイメージがあります。やはりお金がかかる選択なのでしょうか?
消費者が増えないと商品単価を下げることは難しいので、誰でも手を伸ばしやすい価格のプラントベースの商品がアメリカほど充実していないことは、現時点では仕方ないのかもしれません。
しかし、10年以上プラントベースの食生活を実践してきた身としては、「特別にお金がかかる」と感じたことはありません。自炊では旬の野菜がメインですし、タンパク質源で比較しても、豆類、豆腐などの大豆製品はむしろ肉魚よりリーズナブルな傾向にあるでしょう。冷凍食品を活用したり、外食に行ったり、他の人と同じように食事を楽しんでいます。
例えば、プラントベースの冷凍食品なら、おからこんにゃくで作ったからあげがあります。味はもちろん、食べ応えもありますし、冷凍庫にあると安心しますね。
─── 「おからこんにゃくで作ったカツ」を食べたことがあります。プラントベースにありがちな濃い味付けではなく、且つ本物のお肉のような食感でとても美味しかったです。
そうなんです。プラントベースの食生活は「我慢してる」と思われることもありますが、実は手の届く範囲内で美味しい選択肢もたくさんあるので、ぜひ多くの人に知ってほしいです。私自身、食生活において「美味しいものを食べること」は特に大切にしています。
──── 日本社会では、そもそも「色々な食事のスタイルの人がいるかもしれない」という前提がないことがほとんどだと感じます。
周囲に言いづらかったり、お店に対応がなかったりすることはまだまだ多いですよね。私は「何なら食べれるの?」と周囲に気を遣わせたくないので、「食べられるものもあるぞ!」と食べる姿を積極的に見せてアピールするようにしています(笑)。お酒を飲まない・飲めない人に、飲む人が「楽しんでる?」と心配してくれるときの心情に似ているかもしれませんね。あとは積極的に幹事をやることで、選択肢のあるお店を自分で選べるようにしておくのも手ですよね。
ベジタリアン、ヴィーガン、ペスカタリアン(植物性食品、卵、乳製品、魚介類を食べ、肉を食べない食生活を送る人のこと)など、言葉によって色々な線引きがされていますが、そもそも食事は自由で楽しいものです。
週に1日にだけお肉を食べない日を作ったり、体調を観察しながら食べるものを調節したり、柔軟な姿勢で、自分ならではのスタイルを見つけていくことが大切だと思います。
私はプラントベースの食生活を始めて、心から「メリットばかり」「自分が持っている機能を最大限に活かすための選択」だと感じているので、個人的には多くの人に実践してほしいと思っていますが、プラントベースの食生活は目的ではなくて、あくまでも心身ともに健康で幸せであるため、ウェルビーイングのための手段です。個人の健康や食の多様性を考えることは、誰にとってもより居心地の良い社会を考えることなのかもしれませんね。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
なぜ、プラントベースを選ぶアスリートが増えているのか。食の多様性から考える「健康の持続可能性」