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こども連れの帰省客が多く搭乗していた日航機と海保機が衝突した、2024年1月2日に発生した羽田空港での航空機事故。
日本防災教育訓練センター代表理事のサニー カミヤさんは、「緊急時にこどもの健康と安全を守ることができるのは大人だけ」と話します。
いつ起こるか誰にもわからない緊急事態の際の対処方法、そして、こどもと一緒の大人が忘れてはならないこととは。
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2024年1月2日に発生した、羽田空港での日航機と海保機の衝突事故。元日に発生した能登半島地震に続くセンセーショナルな出来事は、社会に大きな衝撃を与えました。
年始だったこともあり、こども連れの帰省客も多く搭乗していました。緊急事態の場合、大人ひとりだけでも安全に脱出することは困難を極めますが、こども連れの場合はそのハードルがさらに高まります。
「緊急時にこどもの健康と安全を守ることができるのは大人だけ」と話すのは、元消防士で、日本防災教育訓練センター代表理事のサニー カミヤさんです。
「緊急事態はいつ起こるかわかりません。さらに、状況はどんどん悪化していくことがほとんど。考えている時間はないに等しいんです。有事の際は、具体的にどのように安全行動に移すかをあらかじめ知っておくことが、生死を分けると言っても過言ではありません」
では、航空機のような狭い空間から脱出する際にこどもを連れていた場合、大人はどのように行動すべきなのでしょうか。
「2歳以下の乳幼児や自力で歩くことが困難なこどもの場合、抱っこするような形でホールドし、こどもにも自分の首をしっかりとつかませて避難しましょう。また2歳以上のこどもの場合は手をつなぐか、おんぶするなどの方法で一緒に移動しましょう。横向きに抱えると足が座席やカーテンなどに引っかかり、身動きが取れなくなったりして思わぬけがをする可能性があり危険です。
避難時はプロであるCA(客室乗務員)の指示に必ず従い、少しずつでもいいのでとにかく非常口に向かって歩を進めましょう」
避難する際、ポイントとなるのはこどもをパニック状態にさせないこと。そのことがスムーズな避難にもつながるといいます。
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)の予防の観点から、頭にブランケットをかぶせるなどして、なるべく悲惨な状況をこどもに見せない・聞かせない方がいいでしょう。
また、火の手や充満する煙、負傷した人や泣き叫ぶ人など、普段接しない光景にこどもがパニックになってしまうと、緊張により体が動かなくなってしまうことも考えられます。
そうすると避難の難しさもさらに上がってしまうので、『大丈夫』と繰り返し声かけをしながらこどもを落ち着かせ、大人自身もまずは冷静になることを心がけましょう」
今回の事故では、航空機の翼だけが焼け残るという、火災の規模の大きさも注目されました。学校や職場などで行われる避難訓練では、火災の際は身をかがめ、鼻と口を覆いながら避難すると教わりますが…。
「もちろん、火災時に発生する有毒ガスの人体への影響は無視できません。しかし、今回のような狭い場所からの避難の場合、しゃがんだりしてしまうと通路を塞いで邪魔になり、最悪の場合は後続の人に踏み潰されてしまうことも。
また、口元を覆うために片手を使ってしまうと、こどもをしっかりと抱き抱えられなくなり、そのぶん避難のスピードも遅くなります。1分1秒を争う緊急事態の場合、ましてやこどもを連れて避難する場合はなりふり構っていられません。
そして、避難するのは自分たちだけではないと覚えておくことも大切です。自分とこどもが滞りなく避難することが、結果的に他の乗客の命を救うことにもつながるのです」
少しでも早く脱出するために欠かせないのは、脱出時の行動手順や機内にある非常口の事前確認です。
「航空機では、離陸前に必ず機内安全ビデオが放映されます。ここでは脱出時の行動手順や、荷物は持たないなどの禁止事項が示されているため、必ず事前に確認するようにしましょう。
また、座席のシートポケットには『安全のしおり』があり、搭乗する機種ごとの非常口位置などが図解されているので、こちらも事前の確認をおすすめします。こうした事前確認を航空機に搭乗する際の習慣にしておくことが、万が一の際のスムーズな行動にもつながります」
緊急事態に備えた事前確認が役立つのは、航空機からの脱出時だけではありません。さまざまな災害や事故から生き延びるためにも大切なことであると、サニー カミヤさんは話します。
「例えば、こどもの年齢や性格、障害の有無などによっても、とるべき行動は異なります。そのため、こどもと一緒にいる大人が緊急時にどのように行動するかを、日頃からイメージしておくことがとても大切です。
また、緊急時には自己判断能力も求められます。何も考えずに周りの行動を真似て命を落とすというケースもあるため、自身の納得性と必要性に基づいて、スピーディに状況を判断することが重要です」
そのために欠かせないのは、事故や災害に備えたセルフ・リスクコミュニケーション。緊急時にどのように対応・行動するかを普段から自問自答することです。日頃から頭のなかでイメージを繰り返しておくことが大切だといいます。
「そうすると、『こどもが動けないので周囲に助けを求める』など、いくつかの行動パターンが出てくるため、実際の緊急時における”想定外”も減ります。
こうした最低限の選択肢を、日頃からイメージしておくことが有効です」
現実とは思えない悲惨な出来事を目の前にすると、こどもだけではなく大人がパニックになっても不思議ではありません。
日常生活では実感しづらいシチュエーションでもありますが、緊急事態に遭遇してしまった場合に考えるべきこととは。
「とにかく、『絶対に助かるんだ』と強く考えることです。守る側の大人がパニックになってしまっては、一緒のこどもを助けることはできません。
まずは『助かる』ということを第一に考えて自分を落ち着かせ、こどもも安心させる。緊急時には冷静な対応によって、自分とこども、そして多くの人の命を救うことができるのです」
サニー カミヤ/ 防災・危機管理コンサルタント、日本防災教育訓練センター代表理事
福岡市消防局でレスキュー隊員、救急隊員、消防士として、ニューヨーク州ウェスチェスターで救急隊員として活動。また、国際消防情報協会企画調査員として、計34カ国、約5000件のさまざまな災害現場(火災、交通事故、水難事故、山岳救助、工場等機械事故救助、特殊施設救助、火山噴火災害など)で消防活動し、人命救助した人数は約1500名以上。台風下の韓国船沈没事故で乗組員4名を救助し、内閣総理大臣表彰も受賞。数々の現場で体験した実際の災害事情や災害地域の特性に応じた経験豊富な内容で防災教育・危機管理講演や防災教育を行う。
取材・文/難波寛彦
(2024年2月13日のOTEMOTO「こどもと『生きて助かる』ことだけを考える。防災のプロに聞く、子連れ緊急避難の心得」より転載)
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
こどもと「生きて助かる」ことだけを考える。防災のプロに聞く、子連れ緊急避難の心得