深刻な雪不足に「日本の冬山から雪が消えてしまう」。気候変動から「冬を守る」、行動し続ける理由とは

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東北などで、「雪不足」のためスキー場の営業を断念したり、雪まつりを中止・規模縮小したりという影響がでている。 

自分たちが愛する日本の冬山から、雪が消えてしまうかもしれないーー。

そんな危機感を抱き、気候変動から雪山や自然を守るために活動するスキーヤーやスノーボーダーのグループがある。

そこにあるのは、「日本の冬を守りたい、後世にも豊かな地球環境を残したい」という思いだ。

(初出:BuzzFeed Japan News 2022年11月16日)

気候変動から「冬を守る」活動をする、スキーヤーやスノーボーダーの団体「POW(Protect Our Winters Japan)」
行動するのは「自分ごと」だから

「変わらずに滑りつづけられる冬を選ぶのも、雪のない長く暗い冬を選ぶのも、全ては私たちの行動しだいです」

そう呼びかけるのは、一般社団法人「Protect Our Winters Japan」(POW)。

長野県を拠点に、日本各地のスキーヤーやスノーボーダーがつくる団体だ。

ウインタースポーツを楽しむ人たちやプロのスキーヤー、スノーボーダーが連携し、地球温暖化対策で行動を呼びかけている。

2019年に東京で開かれた気候マーチに参加するPOWのメンバー

スキー場関係者や学生向けの講演や、スキー場に対する再生可能エネルギー切り替えの働きかけなど、活動は多岐にわたるが、その原動力となっているのは「冬を守る」という思いだ。

事務局長の髙田翔太郎さんは、「原動力」についてこう語った。

「社会問題って世の中にたくさんあって、皆さん『良くないな』『どうにかしなきゃ』と思っていても、なかなか『自分ごと』にできずに行動がとれないという部分はあると思います」

「それが、スキーヤーやスノーボーダーにとって気候変動の問題は、最初から『自分ごと』。だからこそ、行動できるし、実体験を持って伝えられるストーリーがあるんです。自分にとって大切な雪山や自然を、その未来に繋いでいきたいという思いがあって行動しています」

POW事務局の髙田翔太郎さん(左)と鈴木瞳さん

POWはアメリカで2007年、気候変動の雪山への影響に危機感を持ったプロスノーボーダーが立ち上げた団体だ。

その後、カナダ、フランス、ニュージーランドなど世界13カ国に活動の輪が広がり、日本でも2019年に活動がスタートした。

POW Japanの事務局で活動する鈴木瞳さんは、「自分の好きなフィールドを自分たちの手で守るって、すごくポジティブな行動」と話す。

「私たちは科学者でもないし専門家でもないです。ただスキーやスノボ、自然で遊ぶことが好きな人たち。でも、だからこそ本当に気候変動が『自分ごと』で、そんな私たちだからこそ、できることがあると実感しています」

POW(Protect Our Winters Japan)
雪不足に苦しむスキー場。足音が聞こえる温暖化の影響

2019年12月〜2020年2月には「暖冬」で雪不足が顕著となり、西日本や北陸を中心に、スキー場がオープンを大幅に遅らせたり、営業できなかったりという問題に直面した。

スキーブームの終焉によるスキー人口減など様々な課題を抱える中、暖冬による雪不足が追い打ちをかけ、島根、福井、長野各県などでは、閉鎖に追い込まれた中小規模のスキー場が相次いでいる。

気象庁の発表によると、日本の冬の平均気温は、様々な変動を繰り返しながら上がっており、100年あたり1.19℃の割合で上昇している。

気温上昇は降雪にも影響を与え、特に日本海側で積雪量が減っている。

専門家も、暖冬は「地球温暖化に伴う気候変動と異常気象の両方の影響」と説明している。

将来、地球温暖化が進行すると、北陸の標高が低いスキー場のあたりでかなり雪が減り、影響を受けやすいという。

2020年の暖冬の影響で、地面が露出した富山市内のスキー場(2020年2月)
降雪は年ごとの変動が大きく、数年単位でも降雪量に上下があるが、日本でも世界でも、気温上昇の影響は少しずつ出てきている。

長期的な気候変動、つまり気温の上昇や気象パターンの長期変化は、19世紀の工業化以降に、人類が石炭、石油、ガスなどの化石燃料を燃やし、温室効果ガスを発生させることで、引き起こしてきた。

エジプトでは、気候変動対策について各国間で話し合う、COP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)が11月6日から開かれている。

温室効果ガス排出をどう削減していけるかが、将来の地球環境に大きく関わってくる。

9割が、雪山や自然での気候変動の影響を「実感」

POWが今年3月に行ったオンライン調査からは、ウインタースポーツやアウトドアスポーツを趣味とする人たちは、気候変動の影響を肌で感じ、行動の必要性を感じていることがわかった。

スキーやスノボ、アウトドアスポーツをする日本各地の人たちを対象にした調査では、有効回答者数1986人のうち、93.0%が「気候変動の影響を実感している」と答えていた。

うち、78.8%は「アウトドアスポーツのフィールドで」(複数回答あり)、76.8%は「日々の暮らしの中で」その影響を実感しているとしていた。

また、90.6%が「将来世代に大きな影響を及ぼす」として、温室効果ガス排出を減らすなどの行動の必要性を感じていた。

スキー場では、再生可能エネルギーの導入などの対策を導入しているところも増えており、そのようなスキー場の対策に対し、73.9%が「非常に良い」と答えていた。

気候変動やその影響に関するオンライン調査

髙田さんも、実感として感じる「変化」についてはこう語った。 

「西日本のスキー場では雪不足で滑ることができなかったり、スキー場が営業できなかったりということが起きている。滑るエリアも昔と比べると、もっと北上し、標高が高いところでないと滑れないという状況があります」

「入り口は『雪山を守りたい』という思いなんですけど、気候危機を理解すればするほど雪の問題だけじゃなくて、世界中で将来、本当につらいことが起きてしまうということが分かってきます。活動を継続している今は、次世代が経験することへの『危機感』の方がまさっているかもしれません」

「確かに『雪は必要』『雪を守りたい』という思いで活動していて、そこを入り口にして共感を広げていきたいんですが、本当に問題視してるのは、もっと先の将来、世界的に出てきてしまう気候変動の影響です」

ウインタースポーツをする人たちにとって、気候危機は「自分ごと」。しかし、その先の行動につなげることに関しては、少し難しさを感じる人もいるという。

「スキーヤーなどでの間では、肌で危機感を感じていて、活動に共感してくれ、自分もがんばりたいという声も多く聞きます」

「一方で、共感してるけど、『自分一人が何かやっても変わらない問題だ』という捉え方をしている人もまだまだ多いです。そこの意識の変化や、個人レベルでもできることがあると伝えていくのがPOWの役割でもあるかなと思います」

スキー場とも連携。再エネでの運営へ切り替え

POWでは、拠点とする長野県を中心に、スキー場や地方自治体とも連携し、活動の輪を広げている。

2020年には、10のスキー場が集まる長野県のHAKUBA VALLEYに対し、「再生可能エネルギーの使用を応援する」声を集めた署名を提出。4ヶ月で1万4500筆が集まった。

HAKUBA VALLEYでは、2025年までの中期目標として、エリア内の全てのスキー場が再生可能エネルギーへの切り替えを進めることを掲げた。

白馬八方尾根スキー場やエイブル白馬五竜スキー場では、再エネを使用してリフトを運営している。

髙田さんは、スキー場や自治体単位でのエネルギー問題政策に取り組む理由をこう話す。

「スキー場がよりサステナブルなビジネスを進めるよう働きかけを行う中で、やはり気候変動の問題では、エネルギーという文脈がかなり重要になってきます。そのため、スキー場に再生可能エネルギーへの切り替えを呼びかけています」 

「町自体も気候変動への対策を進められるように、自治体ぐるみでの取り組みも重要です。やはり寒い地域では、真冬の暖房を含めてたくさんのエネルギーを使います。だからこそ、町自体もより気候変動の対策をしっかり進められるように働きかけたり、一緒に伴走しながら考えたりという活動を続けていきたいと考えています」

再生可能エネルギーのさらなる推進と脱原発・脱石炭火力発電を呼びかける署名には、計27万筆が集まった。2021年6月、環境NGOらは署名を環境省や内閣府の担当者らに手渡した。

2021年のエネルギー基本計画の見直しの際には、他の環境NGOなどと連携し、再エ推進と脱原発・脱石炭火力発電を呼びかける署名も集めた

署名や行政が行うパブリックコメントなどで、市民側から意見を出していくことで、「社会が気候変動を問題視している」と伝え、会話を増やしていくことを目指している。

気候変動の影響を最小限に食い止めるために。鈴木さんは、取れるアクションについてこう語った。

「1人1人にできることは、小さなことから本当にいっぱいあると思いますし、個人の取り組みも大切です。しかしそれと同時に、気候変動の影響を抑えていくためには、やはり『社会の仕組み』を大きく変えていく必要があります」

「社会の仕組みを変えるためには、声を上げること。それも1人じゃなくて、コミュニティ全体で大きな声を上げていくことが大切だと考えています」

(取材・文=冨田すみれ子)

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Sumireko Tomita