まるで地上絵。河川敷に謎の巨大文字、その正体は?「きつい」「汚い」「危険」な建設業界からの脱却宣言だった

河川敷に出現した巨大文字アート(左の上下)と、制作の模様(右上)、3D設計データ(右下)

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巨大文字アートは、2024年1月19日時点で、関東近辺を流れる一級河川の河川敷3カ所で見ることができる。

一つは山梨県の中心部、甲府盆地を流れる笛吹(ふえふき)川の河川敷に出現した。川にそって横長に「START2024」と記されている。

ほかの二つは埼玉県にある。一つは日本を代表する大河、利根(とね)川の河川敷にあり、加須市の埼玉大橋の近くで見ることができる。もう一つは荒川水系の越辺(おっぺ)川ぞいで、川島町の落合橋のそばで確認できる。どちらも四角い形で、2段で「2024 START」と刻まれている。

いずれも、23年12月から24年初めにかけて次々と出現した。

・笛吹川の巨大文字アートのある場所はこちらに(Googleマップ)

・利根川の巨大文字アートのある場所はこちらに(Googleマップ)

・越辺川の巨大文字アートのある場所はこちらに(Googleマップ)

関東近辺に次々と出現

笛吹川の巨大メッセージは、観光客でにぎわう石和温泉街の近くにあり、堤防上の国道411号から見ることができる。

だが、サイズが大きすぎるため、地上から全貌を見わたすのは容易ではない。まわりには高い建物もない。全長130メートルにわたって文字が刻み込まれていることは、そうと知っていなければ分からないのではないかと思われる。

笛吹川の河川敷に現れた巨大文字
利根川沿いの巨大文字
越辺川沿いにも巨大文字が

DXの技術を駆使「MCバックホウ」活用

巨大文字アートは、「関東建設青年会議」の新プロジェクトで制作された。建設会社の若手経営者らがあつまる組織で、国土交通省関東地方整備局の協力を得て、河川工事のフィールドに建機を使って掘削した。

笛吹川のメッセージは、地元の斎藤建設(甲府市)が制作した。ドローンで上空からフィールドを測量。3Dモデルのソフトで作った設計データを、コンピューターを搭載した建機「MCバックホウ」に出力し、GPSでバケットの先端の位置を制御しながら掘削した。

1文字あたりの大きさは縦15メートル、横14メートルほど。文字のまわりを深さ1メートルほど掘削し、メッセージを浮かび上がらせた。

利根川、越辺川のメッセージは小川工業(埼玉県行田市)が手がけた。利根川のフィールドは横62メートル、縦53メートルほど。

3Dプリンターで模型を作成したり、AR(拡張現実)システムで完成後のイメージを固めたりと、こちらもデジタル技術を駆使して制作した。

笛吹川の巨大文字アートで使われた3次元設計データ
建機にはGPSの位置情報をキャッチする装置が搭載されている

この巨大文字には、どのような意味が込められているのか。

青年会議のメンバーで斎藤建設社長の斎藤啓文さんは「2024年は建設業界にとって出発点となる年。新たな、前向きな気持ちで本年を迎えたことを発信したかった」と話す。

「2024年問題」を乗り越えるために

背景にあるのは「2024年問題」だ。「働き方改革」の一環で19年に施行された改正労働基準法は、時間外労働の規制を罰則付きで定めた。運輸業、建設業などの一部業種は、すぐには難しいとして適用が5年間猶予されていたが、24年4月にはその猶予期間が終わる。

建設業界でも「働き方改革」を強力に推進する必要があるのだ。

厚生労働省によると、建設業界ではコストを下げるために工期を少しでも短くしたいという意向が、発注者にも受注業者にも働きがちで、「工期ダンピング」という言葉もあった。その結果、現場では仕事を詰め込むことになり、時間外労働を増やす要因になっていた。

斎藤社長は41歳。祖父から続く会社の3代目だ。「昔は土日も現場に出ていた。私が入社したころも、土曜日は仕事をするのが当たり前だった」と振り返る。

そうした働き方を改め、休暇が取れるようにするのに、力になると期待されているのがDXだ。担い手不足も深刻化する中で、生産性を大きく向上させる切り札として注目されている。

今回の巨大文字アートには、デジタル技術によって、労力軽減や、施工期間短縮が可能になることをアピールするねらいが込められていた。

巨大文字を従来の技法で掘削する場合、まずは地上で測量を行い、設計図に従って地面に下絵を描く。木杭や水糸を使って目印をつける「丁張り」も必要だ。人手と時間がかかり、完成まで数ヶ月を要すると思われる。

これに対し、MCバックホウではGPSを使い、下絵を描く必要がない。人手も節減できる。笛吹川では本来の護岸工事の合間をみて作業を進め、7日間で完成させたという。

「かっこいい」建設業をめざす斎藤啓文社長
巨大文字アートを制作した小川工業のスタッフ

「新3K」プラス1とは

建設業は「きつい」「汚い」「危険」の「3K」業種の代名詞としてあつかわれてきた歴史がある。

業界ではこれにかわる「新3K」(給料がいい、休暇がとれる、希望がもてる)の実現を掲げ、働き方改革を進めてきた。

斎藤社長はそれに加えて、もう一つの「K」、すなわち「かっこいい」を口にする。「こんなにかっこいい巨大文字アートを、私たちでも制作できるということを世の中に知ってほしい

同じく青年会議のメンバーで、小川工業常務の小川智右さんも「新しい技術の活用によって、働き方はどんどん変わっていくでしょう。巨大文字アートを通じて、業界が新時代に向かっていることを感じてほしい」と話す。

両社が制作した巨大文字アートは、風化にまかせて消えるまで展示が続く。青年会議に加わるほかの会社でもプロジェクトを進めており、今後、他県でも見ることができそうだ。

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