そんな年越しそばの具材に込められた“意味”について、歳時記×食文化研究所代表の北野智子さんに伺いました。
そばが縁起物とされる理由は?
「年越しそばを食べる理由には、いくつもの説が伝えられています。
細く長いそばは寿命を延ばして家運を伸ばす、栽培中のソバは風雨に当たっても起き直るために捲土重来(けんどじゅうらい=物事に一度失敗した者が再起を果たす)の象徴とされたこと。
さらに、ほかの麺類に比べて切れやすいことから、苦労や借金を年内に切り捨てて翌年に持ち越さないようにとするために食するといわれています。
また、そばには五臓六腑の滓(かす)を取り去る効能があるとされ、健康効果を期待してともいわれます。年越しそばを食することで新陳代謝を高めて体内をきれいにしてから、新しい年を迎えたいとする考えです。
金銀細工に由来するという説もあります。細工師は練ったソバ粉を使って金粉を集めたため、そばは“金を集める”縁起物とされたから。金箔師が金を延ばす台をソバ粉で拭うとよく延びたなどの理由で、“金を延ばす(蓄財する)”ための縁起がいい食べ物とされたともいいます」(北野さん)
年越しそばの風習はいつ頃始まったのでしょうか。
「江戸時代の前~中期とみられています。元禄年間(1688~1703年)に大店(おおだな)だった江戸日本橋の越後屋呉服店(いまの三越日本橋本店)を詠んだ『百人のそば食う音や大晦日』の句があり、1750(寛延3)年の服部嵐雪の句にも『蕎麦うちて鬢髭(びんし)白し年の暮』とあります。
ほかに鎌倉時代、年の瀬をしのげない貧しい人々に博多(福岡市)の商人・謝国明(しゃこくめい)が、寺で『世直しそば』と称してソバ餅をふるまったところ、翌年からみんなに運が向いてきたことが始まりという説も伝わっています」(北野さん)