映画業界で、監督などから立場や地位を利用した性暴力を受けたとする告発が相次いでいる問題。加賀賢三さん(映画監督)、睡蓮みどりさん(俳優、文筆家)、早坂伸さん(映画カメラマン)の3人が12月7日、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見を開いた。
映画監督からの性加害を告発した睡蓮みどりさんは、社会全体で被害者を支援する動きがなく「被害当事者が孤立を深めている」と述べ、メディアにも「忖度しないでほしい」と訴えた。
映画業界で、監督やプロデューサー、先輩俳優などから性暴力を受けたとする証言が相次いでいる。その一例として、ワークショップやオーディションなどで、キャスティング(映画等への出演)を条件に性行為を迫られたという訴えなどがある。
会見に出席した3人は、俳優や映画監督ら有志で作る「映像業界における性加害・性暴力をなくす会」に参加している。
睡蓮みどりさんは、2022年4月の『図書新聞』で、映画監督の榊英雄氏から性暴力を受けたと告発。榊氏をめぐっては、文春オンラインが同年3月に、過去に性行為を強要されたとする他の複数人の訴えを報じていた。
この報道を受けて榊氏は、代表取締役を務める「ファミリーツリー」の公式サイト上に掲載した謝罪文で「事実であることと、事実ではない事が含まれて書かれておりますが、過去のことをなかった事には出来ません」などと述べていた。
また、映画監督からの性暴力の訴えは他に、週刊女性PRIMEが2022年4月、園子温氏から性暴力を受けたとする俳優の証言を報道。園氏は「記事の内容は事実と異なる点が多々ございます」として、記事の削除などを求めて発行元の主婦と生活社を提訴したと公式サイトで発表していた。
7日の会見で、睡蓮さんは「今年ジャニーズや歌舞伎界の性暴力も報道され、性加害に関して世間が関心を寄せている。一方で、これだけ声をあげても、映画業界の問題、個人の問題だと矮小化され、被害者は救済されることなく、置き去りにされたまま」だと指摘。さらに「被害当事者が複数人亡くなられているが、このことはほとんど報道されていない」と訴えた。
睡蓮さんは、被害を告発しても「支援者が増えず、被害者が孤立している」状況があると強調。過去の被害などを検証する第三者機関の設置などを求めてきたが、そうした機関は現在に至るまで設置されていないと言い、「国には積極的な関与を求めたい」と要望した。
被害を訴えているのは、女性だけではない。
加賀賢三さんは、2007年に松江哲明監督のドキュメンタリー映画『童貞。をプロデュース』に出演しており、同作の撮影中に「監督の指示のもと、性行為を強要されるという性被害にあった」と証言した。
加賀さんはこれまで複数回、自身のブログなどで同様の証言をしている。一連の訴えに対して2017年、松江氏と配給会社SPOTTED PRODUCTIONS代表取締役の直井卓俊氏が連名で、性的なシーンの強要などについて「存在しません」などと否定する声明文を発表した。
しかし2019年12月に加賀さんが再び撮影の経緯や被害を証言するガジェット通信のインタビューが配信されると、直井氏は、2017年の声明文で「強要などない」「事実無根」と断定したことを謝罪。撮影には参加しておらず「撮影及び制作現場で行われた事を知る由もない状態」だったと明らかにした。
松江氏も2020年1月にnoteに公開した声明文で、加賀さんに謝罪した上で、撮影で強要があったかなどについては、「私自身が『司法』のもと裁かれることで、加賀さんの求める『現にあった事実』が明らかになる最善の策として、私は努力を惜しまずこの問題に取り組むことを誓います」などとコメントした。
加賀さんは会見で、告発後も松江氏を監督やプロデューサーとして起用し続ける動きが映画業界にあると言及し、「(映像関係者から)SNSを通じて二次加害や圧力をかけられた」とも訴えた。
被害者が孤立を深めていく背景には、そうした業界内で起用され続ける動きや、性被害の証言について報じないメディア、SNSでの二次加害などがあるとして、「被害が起きにくい環境の整備と、被害当事者を孤立させない仕組み」を求めた。
また、社会全般に「モラルや常識を踏み越えてこそいい作品を作ることができる」という言説が根付いていることから、「作家や作品の評価を担保にして、加害を擁護する動きも見られる」との見解を述べた。
カメラマンで、同会で支援者として活動してきた早坂伸さんは、映画界で起こる性加害の特徴として「加害者側の社会的地位が高い」という点をあげた。告発者や支援者、その証言を掲載したメディアなどに対する「(口封じや威圧、嫌がらせを目的とした)スラップ訴訟とみられるケースもある」として、スラップ訴訟を規制する法整備の必要性についても強調した。
告発された加害者については「公の場での会見や事実関係の確認をせず、ほとぼりが冷めたと勝手に考え復帰する機会を狙っている」状況があるといい、「加害者復帰の動きには適切に抗議し、議論を重ねていくべきだ」とも述べた。
会見では、性暴力の告発を報じるメディアの責任についても繰り返し言及された。
睡蓮さんは、「個人の問題、ゴシップ的に消費されて、構造の問題という認識が浸透していない」との考えを述べた。「報道するか否かが加害者や被害者の知名度で忖度される。被害の苦しみは、知名度によって左右されるものではなく、痛みは比べられるものではない。きちんと忖度しないで報じてほしい」と訴えた。
さらに、「性加害」が2023年の流行語大賞にノミネートされたことにも触れ、「ニュースをみて愕然とした。ブームとして取り扱っていいことではない。一方で、報道されて広がらないと問題として認識されないのでジレンマもあるが、このまま2023年の一つのブームで終わらせないでほしい」と述べた。
睡蓮さんが性暴力の被害を訴えてからおよそ1年半が経つが、会見を開いた理由については、「メディアのみなさんには、被害にあって業界を去っていった人、亡くなった人たちの声はもう聞くことはできないが、苦しみがあったことに耳を傾けてほしい。ずっと考え続けるのが被害当事者の仕事というのはもうやめにしたい。被害者が声をあげたあとは、メディアや、それを見た人にも考えてほしい」と話した。
この会見後、ハフポスト日本版は榊氏とSPOTTED PRODUCTIONSに対して、メールで質問状を送付した。回答があり次第追記する。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
性暴力を「ブームで終わらせないで」。告発続く映画界、俳優らが「被害者を孤立させない仕組み」訴え【会見詳報】