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(※社会で起きている性暴力の実態を報じるため、性被害に関する表現が含まれています)
「どんな服装だったの?」
「挑発的な服を着ていた方が悪いのでは」
これらは、性暴力の被害者たちに向けられてきた言葉だ。
20人の服が並ぶ上智大の展示会「そのとき、あなたは、何を着てた?〜What Were You Wearing?〜」は、「性的な服を着た若い女性が性被害に遭う」といった認識が誤りであり、どんな服装でも性暴力は起こり得ること、そして被害者を非難する二次加害がいかに不当であるかを突きつけている。
ブルーのニットにデニムパンツ。
エプロンドレス風の子どもの花柄ワンピース。
白い半袖ブレザーに紺色の無地のスカートを合わせた学生服。
ピンクの長袖・長ズボンの子ども用パジャマ。
展示スペースに掛けられているこれらの服装は、18歳〜50代の性暴力サバイバー20人の証言を基に、被害に遭った時の着衣を古着で再現したものだ。
どれも「特別さ」は感じられない。あるベージュのニットは、筆者の自宅のクローゼットにあるものとよく似ていた。
各展示服に、被害に遭った時の年齢や当時の状況、加害者との関係性などの説明書きが添えられている。
「母が2時間ミシンを踏んで手作りしてくれた大のお気に入りのワンピースにイヤな薄汚い記憶が結びついてしまったことが、一番嫌で許せなかった」
「加害者が実兄であることが誰にも信じてもらえず、家が安全なところではなくなりました。誰でも被害者になることを知ってほしいです」
「痴漢がこれほど頻繁に発生するのは単なる力の不均衡の問題ではなく、痴漢が犯罪として認知されないまま『許される』状況が長く続いているからだと思います」
「ただ悲しみ、怒り、無力感。子どものうちから同じような経験をすることが、どんな気持ちか」
加害者が家族のケースは多く、他にも高校や大学の友人、制服を着た警察官、大学院の指導教員、交際相手など様々だった。子ども時代の被害も目立ち、「当時は被害だと認識できなかった」という訴えもあった。
展示会は、上智大学グローバル・コンサーン研究所(IGC)が主催した。服装の再現にあたっては、毎年国際女性デー(3月8日)に合わせてジェンダーに関するイベントを開催している渋谷のセレクトブティック「Sister」の協力を得た。
同店代表の長尾悠美さんは、「今回の企画展で初めて性被害を語ることができたという声も複数届き、表に出てこない被害の多さを感じました」と語る。
「テレビなどのメディアで性的ハラスメントや性暴力が笑いのネタとして扱われることがいまだにあり、それが被害の軽視につながっているのではと危惧しています。同意のない性的行為は全て性暴力です。被害者を萎縮させる社会ではなく、性暴力を許さない社会にするためのきっかけを提供したい」(長尾さん)
「What Were You Wearing?(WWYW)」のプロジェクトは、アメリカの倫理学者メリー・シマリングさんが、性暴力被害に遭った自身の体験を基にした詩「What I was wearing(私が着ていたもの)」から着想を得たアート・インスタレーションだ。
性暴力サバイバーに被害時の着衣を記述してもらい、そのイメージに近い服装を再現する。性暴力と二次被害を防ぎ、サバイバーに連帯して「あなたは悪くない」というメッセージを届けることを目的としている。
2014年に米アルカンザス大学(アーカンソー大学)で初めて開催されてから、全米の大学やヨーロッパ、アジアなどに広がっている。IGCによると、アメリカ発のWWYWプロジェクトが日本で実施されるのは今回が初めてという。
2022年にはニューヨークの国連本部でも行われた。関連イベントでは、性暴力サバイバーたちが周囲から受けた二次被害についても証言した。
「『何を着ていたか?お酒は飲んでいたか?踊っていたか?笑顔を多数に振り撒いたか?』。このような質問をした後、警察は私に『起こったことはお気の毒ではありますが何も力にはなれません』と言ったのです」
国連広報センターは2023年8月、Xの投稿で展示会の映像を共有した。「性的暴力のサバイバーが襲われた時、何を着ていたかは関係ありません」と強調し、こうしたアート展が「性的暴力のサバイバーが直面する汚名、非難が間違っているものであることを訴えています」と紹介している。
毎年11月25日の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」から12月10日の「国際人権デー」は、世界各地で「ジェンダー暴力と闘う16日間キャンペーン」が行われている。上智学院ダイバーシティ推進室は、この期間に「ダイバーシティ・ウィーク」を実施。今回の展示はその一環でもある。
同大総合グローバル学部で「ジェンダーと開発」を教えるIGC所員の田中雅子教授は、「ジェンダーの授業では、少なからぬ学生が『性被害を受けないために自分が気をつけます』とか、『暴力をふるう相手を選んだ人自身が悪い』といった意見を述べます。性暴力の被害者を非難するメッセージが社会に溢れていて、『被害に遭ったあなたは悪くない』と教わる機会がほとんどないまま育ってきたからです」と指摘する。
「『性被害に遭うのは挑発的な服装の若い女性』という先入観が現実に即していないことは、子どものワンピースや学生の制服、男性サバイバーの長袖・長ズボンなどの展示品からも明らかです。固定観念の『学び落とし』をするためにも、展示を見てほしいです。『被害を受けないよう気をつけなさい。被害を受けたらそれは自己責任だ』と被害者を責めることの理不尽さが伝わるはずです」
SNS発信を担当した運営スタッフの一人で上智大学2年の宿里日奈子さんは、「大学生の性暴力事件が学生の間で話題に上った時、『被害者にも非があった』という反応をされることは今もあります」と明かす。
「被害者の服装や行動は、性暴力を正当化する理由にはなりません。被害を訴えた時に、真っ先に被害者側の非を探る社会でいいのか?多くの人がそういった偏見を持って物事を見ているのではないか?ということを、展示を通じて考えてもらえたら」(宿里さん)
【開催概要】
「そのとき、あなたは、何を着てた?〜What Were You Wearing?〜」
会期:2023年11月25日(土)14:00~12月8日(金)14:00
※平日8:00〜22:00・土日祝10:00〜18:00(11月25日・26日は入試日のため学外の人は入構不可)
場所:上智大学2号館 1階エントランス
料金:入場無料
主催:上智大学グローバル・コンサーン研究所
共催:上智学院ダイバーシティ推進室
協力:NPO法人mimosas、Sister
ワンストップセンター、性犯罪・性暴力に関する相談窓口の全国共通短縮番号
#8891
警察庁の性犯罪被害相談電話全国共通番号
#8103
内閣府「性暴力に関するSNS相談支援促進調査研究事業」 Curetime
相談時間:24時間365日(17~21時はチャット、それ以外の時間はメールで相談可能です)
チャットのみ、外国語での相談も受け付けています。
これらの相談機関は性暴力専門の相談員が対応しており、状況や本人の意思に応じてどのような対応が良いか考え、一緒に警察へ行くなどの支援もしています。
性被害に遭った際、すぐに身体を洗いたいと思う人もいるかもしれません。
しかし、証拠採取のため以下2つのことが重要になります。
1. 被害に遭った時の衣服を洗わない
2. 身体を洗わないでおく
また、薬物の使用が疑われる場合は、尿検査や血液検査をしておく必要もあります。
そして、なるべく早く警察やワンストップセンターに相談することが大切です。
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性被害に遭った時「あなたは何を着ていた」?20人の服が映し出す現実