乳児と分離、刑務官から暴言も。女性受刑者の人権侵害、人権団体が報告「子を育てる権利が奪われている」

記者会見を開くHRWの笠井哲平さん(中央)と高遠あゆ子さん(左)

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「刑務所内で多くの女性たちが人として扱われていない」━。

国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)が11月14日、日本外国特派員協会(東京)で記者会見を開き、女性受刑者の収監と処遇に関する調査結果を発表した

HRWは、刑務所などの刑事施設内で乳児の養育がほぼ認められない現状や、刑務官による暴言、トランスジェンダー女性が男性の受刑者と寝室や脱衣所の共有を強いられている実態などを報告。女性受刑者の人権が侵害されているとして、国などに対し改善措置を講じるよう求めた。

「子を養育する権利を否定」

HRWは2017年と2018〜2023年にかけて調査を実施。元受刑者の女性58人と服役中の女性受刑者1人、弁護士や刑事政策の専門家11人にインタビューした。

報告書では、女性受刑者を取り巻く様々な人権課題に言及した。

女性受刑者の中には、乳幼児の親であったり、入所時点で妊娠中だったりする人もいる。「刑事被収容者処遇法」は、女性受刑者が刑事施設内での子どもの養育を申し出た場合、刑事施設長は子が1歳になるまで許可できること、必要な場合にはさらに6カ月の延長を許可できることを定めている。

だが報告書によると、2011〜2017年の間に女性受刑者の出産件数は184件で、このうち刑務所内で子どもの養育が認められたのは3件のみだった。さらに、この3件で女性が乳児と一緒に過ごした日数は8〜12日間という短期間だった。

HRWアジア局プログラムオフィサーの笠井哲平さんは記者会見で、「刑務所側が当事者に対して、法律に基づく権利の説明をしていない。出産後は事実上すぐに子どもと引き離され、親族や児童養護施設に引き渡されている」と現状を報告。

女性受刑者の子を養育する権利が否定されている上、親に養育されるという子どもの権利も奪われているとHRWは指摘している。

また刑事訴訟法は、妊娠、育児や介護、健康状態などの理由に基づき、検察官の裁量による刑の執行停止を認めている。

HRWは、2018〜2022年でこの規定に基づく刑の執行停止がされた女性受刑者は11人にとどまることを踏まえ、「制度がほぼ活用されていない」と強調。受刑者自身が執行停止の規定を知らされず、検察官もその権限を十分に行使していないと指摘している。

高遠あゆ子弁護士は会見で、「子どもを産み育てることは女性にとって限られた時間のこと。その年齢の時に刑務所に入ったからといって、子どもを育てる権利すら奪われてしまっていいのか。国がその権利まで制限することは非常に問題だ」と話した。

男性受刑者と脱衣所の共有を強いられるトランスジェンダー女性

戸籍上の性別を変更していないトランスジェンダー女性の受刑者を取り巻く問題にも報告書で言及した。

HRWの聞き取り調査によると、幼少期から女性としての性自認のあるトランスジェンダー女性S・モトコさんは東京で服役した際、「性同一性障害」との診断を受けるプロセスをまだ開始していなかった。戸籍上の性別を変更しておらず、性別適合手術も受けていなかったという。モトコさんは女性刑務所への収監を希望していたが、男性刑務所に収監された。

矯正医官と刑務官に自身が性同一性障害であると伝え、単独室への収監を願い出たとモトコさんはHRWに対し説明。だが要望は聞き入れられず、男性受刑者と1年以上同じ房で過ごし、寝る場所や脱衣所、シャワーを共有したと証言したという。

HRWは「日本政府がトランスジェンダー女性の性自認(ジェンダー・アイデンティティ)を適切に認定して健康面でのニーズを十分に支援していないため、トランスジェンダー女性は日本の刑事施設制度下で固有の被害を受ける場合が多い」と指摘している。

刑務官からの暴言を訴える声も

HRWによると、複数のインタビュー対象者から刑務官による暴言についての訴えも寄せられたという。

先生(刑務官)の中で自分の好きな人と嫌いな人が分かれてるみたいで、機嫌が悪い人にはばーっと言ったりした。責められるときには「税金払っとるんよ。税金で養っとるんよ。なんやと思っとるん」などといわれた>(元受刑者のY・チサコさん)※

<作業中に、音がすると人間はパッと振り向きますよね。それを作業怠けてるって言われて。俺と目があったやろうが。お前と目があったけん。お前を注意しにきた。って言葉がね、とにかく暴力的なんですよ。無理やり、すみませんでしたって言うまで引き下がらない>(元受刑者のL・マリさん)※

※報告書より引用。発言の一部を省略しています

HRWは、言葉による虐待行為は「国連被拘禁者処遇最低基準規則」(マンデラ・ルールズ)に反する行為だと指摘。さらに、刑務所内で虐待を受けた女性が助けを求める機会が十分に提供されず、苦情申し立ての仕組みも機能していないという課題も挙げた。

軽微な薬物事犯による収監は「心的外傷に拍車をかける」

日本の刑法では、覚醒剤やコカインといった薬物の所持や使用には、懲役刑などの刑罰が科される。

これに関し、HRWは「薬物の単純所持や使用で服役する女性受刑者は、複数回の服役を経験していることも多く、薬物依存症の可能性がある」「軽微な薬物事犯による収監は、既存の心的外傷に拍車をかけるため、逆に再犯の確率を高めかねない」などの問題点を挙げた。

日本薬物政策アドボカシーネットワークの事務局長の古藤吾郎さんは会見で、「刑務所では、薬物依存症の再発防止プログラムが用意されているものの、本人の同意に基づいていないことがあり、特にDVや性虐待といったジェンダーを理由とする心的外傷に十分に対処できていない」と話した。

その上で、「薬物使用者を犯罪者とすることは人権を侵害し有害なものになっている。犯罪者とするのではなく、地域での支援の充実に政府が方針転換することが必要だ」と訴えている。

このほか報告書では、妊娠中や出産後の女性受刑者に対して手錠が使われていること、長期間にわたる独居拘禁による処罰、医療アクセスの不十分さ、カウンセリングなどメンタルヘルスサービスが十分に提供されていないことといった問題も取り上げた。

刑法改正やトランスジェンダーへの対応も要望

女性受刑者に対する人権侵害の実態を踏まえ、HRWは国や国会などに対して改善する措置を講じるよう求めた。

具体的には、

▽薬物の個人的な所持や使用の非犯罪化を目指すこと

▽刑法を改正し、社会奉仕活動命令や保護観察所措置といった服役を必要としない種類の刑罰を導入すること

▽検察官に対して、刑事訴訟法の条文を利用し、妊娠、年齢、健康などを理由とした自由刑(懲役や禁錮など)の執行停止を認めることを奨励する取り組みを進めること

▽あらゆる受刑者について、長期の独居拘禁を止めること。メンタルヘルスの問題がある受刑者の独居拘禁を止めること

▽戸籍上の性別の変更が済んでいるかや性同一性障害の診断を受けているかにかかわらず、トランスジェンダーの受刑者は、自らの性自認に沿った刑務所に収監するものとすると明確に定めること

といった点を要望している。

【取材・執筆=國﨑万智(@machiruda0702・ハフポスト日本版)】

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Machi Kunizaki