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『キングオブコント2023』(TBS)で映し出された、ある「光景」に批判の声が上がった。
10月21日に放送された同番組の観覧席には揃いの赤い服を着た女性たちが並んでおり、その前でコントを講評する5人の審査員は全員男性だった。
この光景にX上では、ジェンダーバランスが偏っているなど批判の声が広がった。同番組の出演者や観客の男女構成などが波紋を呼ぶのは今回に限った話ではなく、ここ数年、毎年のように同様の指摘が上がっている。
東京大学大学院情報学環の田中東子教授は、「NHK放送文化研究所の調査研究によると、テレビ番組の中で、『お笑い』は出演者の男性比率が突出して高く、今でも『男性中心』と言えます」と指摘する。
一方で、「考えすぎだ」「女性の方がよく笑うから」「実力のあるお笑い芸人の男性割合が高いだけ」など番組側の演出を擁護する意見もある。
女性ばかりの観覧席と、男性だけの出演者。どんな構造的な問題が潜んでいるのか。
2008年から始まったコント日本一を決める番組『キングオブコント』。田中教授は揃いの赤い服を着た女性を背景に男性の出演者を並べた番組の演出について、「物事の配置には権力関係が表れます」と説明した。
「男性が笑わせて女性が笑わせられる、同じ服を着せて女性をりんごか何かのように『匿名』の存在として背景に並べ、男性には肩書きや名前がある。この能動性と受動性の配置は、テレビ番組が男性中心主義で作られてきたことを如実に表しています」
2021年には、お笑いコンビ「博多華丸」の大吉さんがラジオでリスナーから「キングオブコントの審査員の後ろに若い女性を配置する演出って何ですか?」と質問され、「なるべく笑ってもらって雰囲気を良くしてみたいな感じだと思うけどね」「若い女の人の方が笑ってくれるからね」などと答えたと報道された。同様の意見はSNS上などでもよく見られる。
これらの意見に対して、田中教授は「女性に押し付けられた性役割だ」と指摘する。
「会社の会議や大学のグループワークの中でも、男性が『女性がいると場が和む』などと発言するのを聞いたことがあると思います。これは女性に『感情労働』を押し付けているということです。特に若年の女性は『潤滑油』として感情的な調整役やケアワークを押し付けられることが多い。コミュニケーションをとる上で笑うことは良いことでもありますが、それを女性にばかり押し付けているのが問題です」
2023年のキングオブコント決勝戦の審査員は、ダウンタウンの松本人志さん、東京03の飯塚悟志さん、バイきんぐの小峠英二さん、ロバートの秋山竜次さん、かまいたちの山内健司さんの5人だった。
今回の審査員は歴代の優勝者たちが多いが、これまで優勝者に女性は一人もいない。冒頭のNHK放送文化研究所の研究でも、「お笑い」番組の出演者の男性は女性より5倍も多く、他の番組と比べても明らかに高い。
こうしたジェンダーバランスの偏りについては、「面白い男性芸人が多いだけだ」「女性芸人が面白くないのが悪い」などの意見も見られるが、田中教授は「審査する人が誰なのかと、その世界で生き残る人が誰なのかは、密接に関係しています」と言う。
「表現の現場調査団によると、例えば美術賞など『男性が審査し、男性が評価されやすい』業界が多いことが分かっています。逆に女性の審査員が増えれば、受賞者の顔ぶれも変わってきます。お笑いも同じで、なぜ男性芸人ばかり受賞するかと言えば、審査員が男性ばかりだからだと考えられます」
さらに田中教授は、「報道されなければ、人気が出るものも出ません」とメディア側にも問題があると指摘する。
「たとえば男子高校野球の甲子園と同じ時期に女子の高校野球大会もあるのですが、メディアはほとんど報道してきませんでした。人気の有無には、どのメディアがどのくらい集中的に報道してきたかということも関わっています。お笑いも同じで、歴史的に男性芸人をテレビ側が集中的に取り上げてきた結果、男性芸人に人気が集中したと考えられます」
一方で、最近は女性芸人の活躍もめざましい。「審査員席に座る女性芸人が増える日も近いと願いたい」と田中教授は期待を込めた。
ハフポストの日本版は10月31日、『キングオブコント』を放送したTBSテレビに質問状を送付した。どのような方法や条件で観客を募集したか、観客を決定する際の判断基準や、準々決勝、準決勝を含む審査員のジェンダーバランスとSNS上で広がる批判に対しての受け止めについて聞いたが、11月2日に届いた回答は以下の通りだった。
「番組制作の過程については回答を差し控えますが、今回、放送後にSNS上でご指摘のような声が上がった点を番組制作側としても把握しております。今後の番組制作の参考にさせていただきます」(TBSテレビ)
田中教授は、「コンテンツが制作・発表される背景には、その企業の歴史的な蓄積や産業構造があります」と指摘する。
「今、マスメディアの最大の問題は、『内向き』になりすぎていることです。ジェンダーに関わる表現や演出をはじめとして、昭和や平成で『当たり前』とされてきたことが、世の中の常識では受け入れられなくなってきているにも関わらず、上司や上層部の番組作りを再生産してしまっている。そうしてできた番組が、時代と恐ろしく合っていません」
広い視野で世界に目を向ければ、ジェンダーの問題やテレビ番組の表現と向き合うことになり、「観覧席に並ぶ同じ服を着た女性たちを背景に男性出演者のみが座っている」光景のおかしさに気付くはずだと田中教授は言う。
今回の問題では、ジェンダーギャップ解消に対する制作サイドの意識の低さが再び露呈した。
田中教授は「『笑っている女性の観客と男性のお笑い芸人』の構図は、番組制作の歴史の中で蓄積されてきました。多くの人が“見慣れて”しまった光景に、違和感を抱く視聴者の声が広がっていることに、ジェンダー問題への意識の高まりを感じます」とも話した。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「女性の方がよく笑う」は押し付けられた性役割。「観客は女性、審査員は男性」のキングオブコント、何が問題?【解説】