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都内で開催中の第36回東京国際映画祭で10月27日、俳優の水川あさみさんやペ・ドゥナさんらが映画界における女性のキャリアやジェンダー平等について語り合うトークイベント「ウーマン・イン・モーション」が行われた。
監督や作品の登場人物における女性の少なさ、そしてMeTooによる変化などが議論され、韓国を代表する俳優の一人であるぺ・ドゥナさんは「不義には声をあげることが大事」だとして、次世代のためにも「男性社会で作られたガラスの天井を打ち破らなくては」などと訴えた。
グッチやサンローランなどのラグジュアリーブランドを展開するケリングが主催する「ウーマン・イン・モーション」は、フランスのカンヌ国際映画祭で発足した、映画業界における女性を取り巻く環境に光を当てるプログラム。東京国際映画祭では今回3回目の開催となった。
登壇したのは、俳優の水川あさみさん、ぺ・ドゥナさん、WOWOWチーフプロデューサーで国際共同制作作品などを手がけてきた鷲尾賀代さんの3人だ。
まず話題にあがったのは、労働環境の改善だ。韓国では近年映画やドラマが海外でも注目されると同時に、働き方改革も進めてきた。たとえば、週の労働時間は52時間までと定められている。
鷲尾さんが2000年代後半に韓国でドラマの仕事をしていた時は「現場は日本より過酷だった印象がある」といい、そこから大きく改善された理由を質問。
20年以上のキャリアがあり、日本やアメリカの作品にも参加してきたペさんはこう答えた。
「韓国も2000年頃は本当に過酷で、2〜3時間しか眠れない日もたくさんありました。そこから変わったのは、アメリカの制作システムを吸収し、応用したから。しかし、俳優にとっては大きくは変わらないかもしれません。スタッフには労働者契約がありますが、俳優には適用されないからです」
「俳優の労働環境は過酷なまま」という指摘には、水川さんも同意。その上で、10月に釜山国際映画祭に参加した時に、韓国の観客の熱量の高さや、質問の着眼点に驚いたと明かした。
ぺさんも、「韓国は映画館に行く文化が日常に溶け込んでいます。韓国のコンテンツが世界で力を発揮できるのは、観客のレベルにあわせて作り手のレベルも上がるという相互作用があるからでは」と話した。
水川さんは制作現場のポジティブな変化の一つとして「技術や撮影監督、チーフも含めて女性のスタッフが増えた」ことをあげた。
その一方で、「女性が年齢を重ねたり、結婚して家庭を持ったりすることと仕事とのバランスがうまくとれていないと感じることは多いです。俳優や登場人物の年齢においても海外の作品では変化を感じますが、日本では20代など若い人主体の印象がある」と指摘した。
ぺさんも「女性の映画人が働く環境は改善されつつある」として、キャリア初期に出演し、チョン・ジェウン監督がオリジナル脚本を執筆した『子猫をお願い』(2001年)を例にあげ、こう話した。
「あの頃は女性の映画監督が本当に少なく、3〜4人しかいなかった。現場にも女性のスタッフはいるのですが、彼女たちは末っ子で最年少だと可愛がられるのに、監督の場合は摩擦が生じる。男性監督だと生じない葛藤が、女性だと生じるのはなぜだろう。それを、ずっと不当だと私は思ってきたんです」
ペさんは、韓国でジェンダー平等の意識が改善された機会の一つとして、MeToo運動をあげ、「私は、MeTooのように不義には声をあげるべきだと考える人間です。権力を利用して誰かの生死を左右するようなことは正常なことではない。過ちを正して映画界もクリーンになってほしい」とも訴えた。
MeTooが起こった2017年当時アメリカに滞在していた鷲尾さんは、現地の映画人たちから学んだことを紹介した。
「当時私は『実力ある人を雇って、それがたまたま全員白人男性でも、黒人女性でもいいのでは』と思っていました。ところがそれを現地の人と伝えると『これまで雇われてきたのがずっと白人男性であり、そこで彼らが経験を積んで身に付けた実力と、スタートラインにも立てていない女性やマイノリティを比べるのは不公平。機会を与えるためにまずは意図的に女性やマイノリティを雇うことで、ようやくスタートとなる。そのあとに平等に実力で比べられる時が来る』と言われ、ハッとしました。日本は変わることがすごく不得意ですが、コピーでもいいからまずは取り入れていくべきではないでしょうか」
水川さんは、MeToo運動が始まった時「日本は静かだった」と振り返り、「今になり問題として上がることが増えました。でも、日本は『変化している』と見せることはできても、実態が変わっていないことはよくあると思う」と指摘した。
日本で変化が難しい状況として、鷲尾さんや水川さんが「日本では出る杭は打たれる」風潮があると明かすと、「出る杭は打たれる」という言葉に衝撃を受けたというペさん。その状況に理解を示しながらも、連帯や助け合いも重要だとして、こう話した。
「『出る杭は打たれる』という言葉があるんですね…。でも、出る杭がたくさん集まっていれば、どこに当てたらいいのか分からなくなるかもしれません」
「男性社会で作られたガラスの天井を打ち破らなくては。若い世代が平等な待遇を受けて能力を発揮できる環境になってほしいです」
ペさんは、『子猫をお願い』の他にも、『私の少女』(2014年)や『あしたの少女』(2023年)などで、若い女性が暴力や搾取の犠牲になる社会の問題を描いたチョン・ジュリ監督らの作品にも出演してきた。
依然から、男性中心的な物語には疑問を持ってきたといい、女性の表象、そして興行成績との関連についても踏み込んで言及した。
「なぜ韓国には男性メインの映画が多いのか、とずっと思っていました。女性の俳優の出演は1〜2人。女性だけで撮られる作品は本当に少ないです。俳優同士でも、男性の俳優には頻繁に会うのに、女性同士が会う機会は稀です。
男性メインの映画のほうが成績がうまくいくのかな?とも思っていました。だったら、魅力的な女性のキャラクターや面白い映画が必要で、そうしたらお客さんも観に来るはず。 女性の監督のほうがいきいきとした女性キャラクターを描けますよね。私は映画人として、女性監督たちがデビューできる機会を心の底から応援していますし、いいキャラクターが描かれることを願っています」
(取材・文=若田悠希)
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「女性が最年少だと可愛がられ、監督だと摩擦が生じる」のはなぜ? 日韓の俳優らが映画界の不平等を指摘