障害のある人たちに依存する。イメージを変容するビジネスモデル

知的障害のある作家たちと契約を結び、アートデータの著作権管理を軸としたIP(知的財産)ビジネスで、右肩上がりの成長を続ける、福祉実験カンパニー「ヘラルボニー」。2027年のIPO(新規株式公開)を視野に入れ、描く未来とは──。松田崇弥社長へのインタビュー、後編です。

「かっこいいものを、ただかっこよく」知的障害へのまなざしを変える 「痛快な物語」から続きます>

創作する作家

──8月に、会社のバリュー(ミッション実現のための行動指針)を「誠実謙虚」に刷新しました。

私たちの仕事は、作家がいるから成り立っています。障害のある人たちに依存するビジネスモデルで、資本主義経済のど真ん中で勝負して成功する。そうして存在感を示すことで、障害へのイメージを変えていこうとしています。会社が大きくなっていくにあたって、これまで以上に、誠実謙虚に社会に向き合いたい。

ヘラルボニーはアートデータを保管しているけれど、著作権は作家に帰属しています。著作権を買い取ればビジネスのスピードは上がるだろうけれど、それは自分の求める世界ではありません。本人が望まないのにどんどん使われてしまう、みたいなことはしたくない。作品化するときの最終決定権は本人にあるのが健全だと思っています。

作家さんには、アートデータを使用した商品販売で小売価格の3%、常設展示では使用料の30%、原画販売では販売額の3〜4割をお支払いしています。

確定申告をするほど売上のある作家さんもおられます。一方で、売上が上がって喜ぶのは、親御さんだったり福祉施設のスタッフだったり、作家さんを支えている人たちだと思うんです。

もし私の(知的障害を伴う自閉症の)兄が絵を描いて50万円貰えます、と言われたら、両親は喜ぶだろうけれど、兄は違う。兄が喜ぶのは、人が会いに来て、自分が求められている、ということを対面のコミュニケーションで把握できた時です。

障害のある人たちのアートがさまざまな場所を彩る

だから企業との共創が決まって作品にするたびに、企業には1〜2週間、待ってもらう。作家本人にOKかどうか確認する。

コミュニケーションには、時間というコストがかかるけれど、何のためにこの仕事をしているのか、本人の幸せに立ち返って考えたとき、とても大切なことだと思っています。

当事者と世の中の関心ごとをつないで、社会を変えていく

──今後について教えてください

私が中高生の頃は、ブルガリの香水をつけるとか、SupremeのTシャツを着ていたら「お、いいなぁ」と羨望を集めました。あの感じ──ヘラルボニーといえば誰もが知っていて、それはかっこいいものだ、という共通認識がある会社にしたい。そうなれば、クラスメイトに障害のある人がいた時に向けられる眼差しは、変わってきます。

「障害」や「福祉」に引っ張られず、ただアートとして評価されて、知的障害のある人たちの作品が世界中を彩る。ブランディングをしっかりと立てて、そんな痛快な物語をつくりたい。

株式市場で自分たちのビジネスモデルの価値を証明して、さらには、障害福祉全般にアプローチする企業になっていけたら、と思っています。

雇用契約に基づく就労が難しい人たちに向けた就労継続支援B型事業所(※)の運営を手がけたいし、後継者のいない福祉施設にグループインしてもらって一緒に成長していくなど、障害のある人やその周りの人たちが直面している困りごとに、もっと関わっていきたい。

作家たちとともに

目指しているのは、兄が幸せに暮らせる社会です。障害があっても当たり前に地域に住んで、働けて、親が亡くなったあとも安心で安全に暮らしていける社会。

当事者側の関心ごとは、世の中からあまり興味を持たれません。

私たちは、多くの人が興味を持ちやすいアートやクリエイティブで知的障害のイメージを変えて、資本主義経済のど真ん中で勝って注目を集める。そんなヘラルボニーが当事者側の関心ごとに携わることで、世の中も興味を持つようになっていく。そんなふうに繋がればいいな、と思っています。

将来的にはホールディングス化して、ブランド事業部、福祉施設の運営事業部、障害のある人の「親なきあと問題」にコミットする事業部など、さまざまな分野で障害福祉に関わっていきたい。

上場してある程度の企業価値がついたら、財団をつくりたいとも思っています。会社の資産が生まれるごとに、経済性はなくても障害福祉にとって大切なことにお金を分配していく仕組みです。

なぜチャレンジし続けられるのかといえば、自分自身がウェルビーイングな状態だから。でも障害があると、健常者前提の社会には、いろんなハードルがあります。

障害は社会の側にある。障害があってもありのままで、当たり前に本人の意思が尊重されたり、活動を評価されたりする、フェアな状態をつくり出したい。

ビジネスは社会を変える手段。その考えは起業時からぶれていません。売り上げが上がるごとに社会へのインパクトも増えるのか、常に問い続けなければいけない。

ビジネス的においしいよね、という話が来たときに、本質的に社会が良くなることにつながるのかを見極める。違うとしたら、どうすれば良くなるのかを提案して軌道修正していく。

その意思決定をしていくのが、私と(ヘラルボニー副社長で双子の)文登の役割です。

兄弟3人で

※就労継続支援B型事業所…障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスのうち、一般企業に雇用されることや雇用契約に基づく就労が困難な人に対して、就労機会の提供及び生産活動機会の提供を行う事業所

(取材・文=川村直子/ハフポスト日本版)

…クリックして全文を読む

オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
障害のある人たちに依存する。イメージを変容するビジネスモデル

Naoko Kawamura