「プリキュアファンでない人にも届く画を」絵描きとして「壁」にぶつかった板岡錦さんが今、目指すもの【20周年インタビュー】

『映画プリキュアオールスターズF』で、プリキュアたちが対峙することになったのは──。

全国で大ヒット上映中のプリキュア20周年記念映画『映画プリキュアオールスターズF』。

「プリキュアって何?」をテーマに、歴代の全プリキュア78人と映画オリジナルのプリキュアが登場する同作は、興行収入が歴代最高を記録し、評判も上々だ。

シリーズを画の面から長年支え続け、今作でキャラクターデザインと総作画監督を務めた板岡錦さんに、同職を務めることになった経緯や、作品の魅力を聞いた。

(※記事中では、物語のネタバレに踏み込んでいます)

──今回の映画では、総作画監督とキャラクターデザインに立候補したと聞きました。理由は。

監督が田中裕太と聞いたからです。とにかく彼の作品は面白いですから。特に『映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』(2019年)は個人的にプリキュアの映画の中で一番だと思っています。

これまで、彼がシリーズディレクターを務めた『Go!プリンセスプリキュア』のキュアトゥインクルの変身シーンや、他にも重たいアクションシーンや重要な芝居をするシーンを任せてもらってきましたが、それはあくまで一原画マンとして。彼と一緒に、「画の一番偉い人」というポジションで仕事がしたいというのがありました。

小川孝治さん(放送中の『ひろがるスカイ!プリキュア』のシリーズディレクター)や、座古明史くん(『フレッシュプリキュア!』などの同職)など、一緒にやりたい人が何人かいるんです。同じ土俵、じゃないですけれども、彼らのつくり出すものは面白いんですよ。一緒にやるチャンスがありそうなら、言うだけ言っておこうと。

『映画プリキュアオールスターズF』

──板岡さんはプリキュアシリーズで長く原画を担当されてきました。最近では作画監督を務め、『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』(2020年)ではキャラクターデザインも担っています。この変化の理由を教えてください。

単純に絵が上手くなりたいからですよね。数年前、田中監督から「(作画監督をしないと)いつか限界がくる」という言葉があったんですよ。その時はピンと来なかったし、いや、やれるでしょ!くらいに思ってたんだけれど、その後「絵描きとしての幅が広がらない」という葛藤に直面して。

いざ作画監督をやってみると原画とは、使う脳みそや画に対する見方や視点がだいぶ違うんです。原画をやっていると、この後作監がのる(作画修正される)から、キャラなどの画に対して責任感がちょっと薄くなりがちな部分があるというか。

でも作画監督になると、自分の描いたものがそのまま画面にのる。キャラ表に則って忠実に描く必要も出てくるし、自分の絵の癖がマイナスにはたらくことも多々あります。

自分がこういうところ気をつけていなかったな…と気づかざるを得ないし、自分の意識を修正せざるを得ない。周りの作画監督の仕事を見ていると、まあ神経を尖らせてやっているわけですよ。そういう差は、原画だけをやっていると気づかないと思います。

──これまで作画監督をやられて、自分の描いたものに変化を感じることはありますか

そうですね。そうじゃないと作画監督をやっている意味がないですから。まあこのへんで良いか!というハードルが必然的に上がりました。

──このへんで良いか!と思われている想像がつかないんですが、板岡さんでもあるんですね。

多分『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』の画を今自分で見返すと、ゆるく感じてしまう部分もあると思いますよ。まぁ、成長していなかったら困りますけどね。

◆シンプルに「監督がやりたいことを具現化する」

『映画プリキュアオールスターズF』

──プリキュアは20周年を迎えました。長く関わってきた上で感じる、シリーズの魅力を教えてください。

長く続く、日本のオリジナルの一年ものというのが、最大の魅力かなと思います。シリーズの名前は変われど、プリキュアたちは、可愛くてかっこよくて強くて、最高じゃないですか。それだけでみんなが幸せな気分になるというか。

──今作のテーマ「プリキュアって何?」について、板岡さんはどう思いますか。

今回に限らず、監督がやりたいことをどれだけ具現化するかという考えで仕事をしているので、自分自身はそういった意識を強く持っていないというのがありますね。関わり方としては、とにかく可愛くなればいいな〜!みたいなところです。

──今作の見どころを教えてください。ストーリーというよりは画面的なものになると思うんですけれども。

全部見どころです!という、あまり面白くない回答になっちゃうんだよね。

──どこか、一つでも(笑)

歴代プリキュアの登場シーンは、そのシリーズのキャラクターデザインの方が「ちょっとでも手伝いたい!」と作画を担当してくださっています。20周年っぽくて良いですよね。EDのテロップに並ぶ名前は圧巻で、あれ、自分おまけじゃん…と(笑)

あと、最初の虹ヶ丘ましろとローラが出会って、漫才みたいなやり取りをするシーンにも注目してほしいです。東映アニメーションの若手が原画を描いてくれたんだけど、とても元気が良くて。ものづくりをする人って、良いと思ってもあまり他人を褒めない傾向にある気がするのですが、自分は良いなと思ったらなるべく言おうと思っているので、その若手も含め、良い仕事をしてくれた若手達には、「君は将来、すごい大物になるよ」って話をよくしています。

『映画プリキュアオールスターズF』では、プリキュアたちが4チームに分かれ冒険する。

──映画では最後、シュプリームとプーカが「ふたりはプリキュア」を思わせる佇まいになりました。

ラスト3カットだけ、自分で原画描いたんですよ。シュプリームの一番良い顔のところ。

初代を思わせるアイデアはもちろん、田中監督によるものです。自分はキュアシュプリームと妖精の時のプーカのデザインをもとに、「キュアプーカ」のデザインをどうしようと考えました。

田中監督はキュアプーカのシルエットや衣装はキュアシュプリームとほぼそのままで、顔だけ違う双子みたいなものと言っていて。元々のシュプリームから分かれて作ったものだから、というのがビシッと監督の中にあるようでした。

キュアシュプリームを結構シャープな印象で作っているから、キュアプーカは丸っこくて可愛い感じにしました。前髪の向きが逆など、違いは少しだけ。キュアプーカの顔のデザインを出したら、良いじゃないですかと言われて。特に修正はされず、最初に作ったやつからそのまんまになったんじゃないかな。

──可愛くて、希望を感じるデザインだなと思いました。板岡さんは今後、テレビシリーズでもキャラクターデザインをやりたいという思いはありますか。

ええ。最終的な目標はキャラクターデザイナーなんですよ。これまで変身シーンを10回以上描いて、テレビと映画の作画監督もやったので、プリキュアシリーズでやっていないのは、残すところそれだけなんです。

とはいえ、まずはキャラクターデザインのコンペに呼んでもらうところからなんだけど。実はコンペは何回か出したことがあります。ただ毎回、そもそもそのコンペに呼んでもらえるかどうかという問題もあって。ただ、やりたいですという意思は示しておくようにしています。そしてもし任せられた時も、監督が求めているものを具現化できる存在でありたい。

──最後に、板岡さんの名前は今、広く認識されています。SNSの普及とともに、クリエイターの名前や成果物に注目が集まるようになったと感じています。こうした変化をどう思いますか。

時代の変化として必然的であり、SNSをうまく活用できるクリエイターが生き残っていくんじゃないかなと思います。

自分は会社員ではなくフリーランスですから、自分を世の中にどう売り込んでいくかというセルフプロデュースっていう面は考えていかないといけない。真面目に仕事をしていればどっかから仕事が降ってくるという甘い世界ではないと感じます。

プリキュアは多くの人に見てもらえるので、クリエイターとしても嬉しいし、やりがいがある。特に変身シーンは、プリキュアの枠を超えて、アニメファンの人たちも見てくれるので。すごいものを描けば、アニメファンでない人にも届くんじゃないかな。難しいですが、そこまでいくものを毎年描きたいですね。

※ハフポスト日本版では、プリキュア20周年を記念し、『映画プリキュアオールスターズF』のインタビュー記事を4日連続で掲載した。

<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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「プリキュアファンでない人にも届く画を」絵描きとして「壁」にぶつかった板岡錦さんが今、目指すもの【20周年インタビュー】

Takeru Sato