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プリキュアシリーズの20周年を記念した『映画プリキュアオールスターズF』が全国の映画館で大ヒット上映中だ。
キャラクターデザインと総作画監督を務めたのは、長年にわたりプリキュアの多くの原画を手がけ、中でも2013年から11年連続でプリキュアの変身シーンの原画を担当してきたことで知られるアニメーター・板岡錦さんだ。
カメラ(視聴者の視点)を360度回転させながら、プリキュアが空間を縦横無尽に飛び回ったり、その子ならではの凛々しく生き生きとした表情を見せたり──。
毎年担当した変身シーンがお披露目されるたびに、大きな反響を巻き起こす「変身バンク職人」の板岡さんに、自分自身のことやプリキュア、原画への思いを聞いた。
──「変身バンク職人」として注目を集める板岡さん。アニメーターになろうと思ったきっかけを教えてください。
自分の気質上、絶対にネクタイを締めて営業は無理!というのがあって。一つの技術を極める方が合っているなと。その中で漠然と、絵を描いてごはんを食べられるようになったら良いなというのがありました。
最初からアニメーターを目指していたわけではなくて。だけど、自分は絵を描いてきたわけではなかったので、どうやったら上手くなるかなと考えた時に、普段から描き続ける職業につけば良いんじゃないかと。専門学校(東映アニメーション研究所)でいろんな課題をやる中で、絵を動かすのって面白い!というのもあり、アニメーターもアリかな、と思うようになりました。
──アニメーターになることを決めたのは、専門学校生の頃だったんですね。
そう。自分がアニメーターになるにあたって、2つ、プロとしてまずはここを目指そうという目標があって。
一つがクレヨンしんちゃんの劇場版の原画をやること。もう一つが、セーラームーンなどのいわゆる「変身バンク」をやること。後者の思いがプリキュアにつながっています。
──なぜその2つなのでしょうか。
当時ね、自分の中でその2つが、アニメーションにおける一つの頂点だと思っていたんですよ。簡単なキャラクターをめちゃくちゃ動かすとか、毎週繰り返し使うようなものを作れるだけの技術を持つとか。それはレベルが高くないとできないでしょうから。
当時は専門学校生からプロになる頃でしたし、作画監督をやれるとは思っていなかった。作監やキャラクターデザインよりは、原画でいっぱい動かそう、みたいなことを考えていたんだと思います。
──プリキュアに携わることになった経緯を具体的に教えてください。
『ふたりはプリキュア Max Heart』(2005年)の31話で、専門学校の同期だった座古明史君が演出を務めるということで、「自分も手伝うよ」みたいな感じで参加したのが始まりでした。
初めて「バンク」を担当したのは、座古君がシリーズディレクターを務めた『フレッシュプリキュア!』(2009年)の「ラッキークローバー・グランドフィナーレ」という技かな。
最終的にね、プリキュアを主軸にしたいというのは、頭のどこかで考えていたことではあるんですよ。やるならオリジナルが良いし、長く続いている1年ものが良い。深夜アニメで人気の作品もあるけれど、1クールで終わっちゃうじゃないですか。
そう考えると、日本にはプリキュアしかない。自分がやりたい「変身バンク」もあるし、プリキュアたちは可愛いし。これじゃね?っていう。どうやってパイプを繋いでいくか考えた時に、丁度、劇場版『トリコ』の原画で東映(アニメーション)に席を置かせてもらっていたので、これが終わってもここに席を作って居続けられないかなと(笑)
──そこからずっと、プリキュアに席に置いている理由は。
見ている人が多いからじゃないかな。プリキュアはタイトルが変われどずっと続いているものだから、固定のファンや見ている人の母数が多くて。これまで関わった作品の何倍も、視聴者からのリアクションがでかいんです。
クリエイターとしては、自分がやったものが多くの人に喜んでもらえていると感じた時、一番モチベーションが上がるので。
──変身シーンを担当することになった経緯は。
『スイートプリキュア♪』(2011年)の担当者から、キュアミューズの変身シーンをやってくださいと言われたのが始まりでした。
その時は複数人で担当したんだけど、その後立候補みたいなものをして、1人で全部担当させてもらったのは『ドキドキ!プリキュア』(2013年)のキュアロゼッタが初めてです。
──以来、現在放送中の『ひろがるスカイ!プリキュア』のキュアスカイまで、11作品連続で毎年担当しています。
やるからには10年やろう!というのが個人的にはあって。やっぱりフリーランスだし、名前を覚えてもらってナンボなので。1回だけだとあの変身良いよね!で終わるけれど、10回続けたら流石に覚えてもらえるんじゃないかなと。
──『トロピカル~ジュ!プリキュア』(2021年)では初めて、主人公のプリキュア(キュアサマー)の変身を担当しました。
これは制作側の事情です。スケジュール的に、はまるところがそこだったのかなと。自分はこの子がやりたいと言ったことがないですし、指定された子に向き合うだけです。
ただ担当するとなるといっぱい描きますから、どのシリーズも変身を描いたプリキュアが推しにはなります。放送される変身シーン、毎週この子でいいじゃん!って思うくらいには(笑)
──板岡さんの変身シーンは求められていることを超えるような情熱があるように感じています。板岡さんをそう突き動かす思いを知りたいです。
いわゆる「神作画」と呼ばれるものを作る人たちはみんなそうじゃないですかねえ。提示されたものの斜め上を作ってやろう!みたいな。「すげえ!」って喜んでもらえるようなものを作ろうと常にしてしまうというか、それがデフォルトみたいになっているんじゃないですかね。
変身シーンも、絵コンテをもらって作画の打ち合わせをして、こういう上がりを想像しているんだろうなってものを把握した上で、そのさらに斜め上のものを出して、「うおお!」と思わせたい!みたいな。
良い作画をする人は、多かれ少なかれ、そういうふうに考えていると思いますよ。だってそれは視聴者にも届くと思いますし。……うん、届けば良いなあ(笑)
──毎年、キャラの魅力がより伝わるように、絵コンテからアレンジを加えているような印象を持っています。
そうですね。1を100にする作業みたいな感じです。それは面倒なことではあるのですが、大変なことではないんですよ。本当に難しいのは、0から1を作り出すことだと思っているので。
──原画の枚数の制限はあるのでしょうか。
何枚で作ってねというのは基本的に、アニメーター側には言われないですね。特に変身や見せ場のシーンについては演出も腹を括っているでしょうから。それにアニメーターが魂込めて描いてきたものをおいそれとは抜けないんじゃないかな。
アニメーター側もそれは半分くらいわかっていて、抜くなよ…!という思いが絵から滲み出ることもあると思いますね。結果、演出が制作側から「枚数使いすぎ」と怒られるみたいなことは、水面下で起こっているのかもしれません。
──目標だった10回を超えてもなお、変身シーンを担当し続けているのはなぜですか。
やっていて楽しいというのもあるし、見てもらえるありがたさもあるから。依頼がくれば、そりゃやりますよ。最近はもう、頭数に入れられている感覚があります(笑)言わなくても「板岡、今年もやるんでしょ?」みたいな。
東映アニメーションの若手とかから、「変身バンク、俺がやります!」という勢いや熱量がある子たちが出てきて、世間の評価的にも「あいつの時代は終わった…」みたいになったら引退します!!!「これからは君らが頑張ってくれ!」って言って。
──おおお…。衝撃的で少し言葉を失っています(笑)そういう未来はあまり想像がつかないのですが、そうなった時は悔しさと嬉しさ、どちらが勝つんですか?
いやもう10回やったから良いよ(笑)いい加減、下から突き上げてきなさいよ!と。
でも、簡単には越えられない壁ではありたいですけどね。
最後に板岡さんに、これまで担当した5つの変身シーンに込めたこだわりを語ってもらった。
キュアスカイは、流れている音楽と映像をどこまでリンクさせるかというのがあって。それは自分ではなく、小川孝治シリーズディレクターがものすごくこだわって、計算して作っています。
ウインクの瞬間や、下の円盤が光って曲調が変わるタイミングなどは全部、コマ単位でビシッと合わせて作っていて。それがすごく効果的に出ているなあと思いますね。結構大変だったのですが。マントを翻す前の一瞬の表情にも力を入れています。
小川シリーズディレクターはカットの頭やお尻を編集で切って、ぴったり曲と合わせることを想定していたと思うんだけど、自分はそれを1カットに繋げて切れないように作ったんですよ。もちろん編集の時に事故らないように1コマ単位でタイムシートを調整して、ここでぴったりいきます!みたいな。
サマーはリップを塗るシーンを、自分の中では夏海まなつっぽくないと思う表情にして描いてみました。リップをつける時特有の雰囲気ってあると思っていて。
キャラの意外な一面というか、ギャップを見た時に印象残るんじゃないかな。普段見せない表情が一瞬垣間見える、みたいなものをどこかでねじ込めたら良いなというのは常に考えていることです。
メイクのシーンはインターネットを見て研究してました。そんなに難しい作画ではないとは思うのですが、手間がかかるというか、丁寧にやっていく仕事かな。
歌って踊る変身シーンと言われて、「言うのは簡単だけど、どれだけ大変だと思ってるんだ!」と思いましたね(笑)。口もダンスも曲のリズムにぴったり合わせないといけないですし。
打ち合わせの時に、振り付けの先生が踊った参考動画をもらって。実際はこれをこのまま作画でやると大変だから、こんな雰囲気のステップっぽいものを踏んでくれたら良いですと言われたんですが、そこは逃げずにダンスをそのまんま描きました!しかも360度回転して、天地が逆になりながら。
最後のぷくっとする表情はアドリブです。ミルキーならああなりそうな気がするなと思って。キャラデザの高橋晃さんの修正が、あの顔には載ってなかったのは嬉しかったですね。
シリーズディレクターの貝澤幸男さんのコンテって、解読が結構難しくて。何をどう解釈するかを結構考えました。ジェラートも元気なキャラだけれど、一瞬憂いのある表情を入れたら面白いんじゃないかとか考えながら描いてました。
ファンからは、ジェラートの人生の物語が詰め込まれていると言われることもあるんだけれど、自分は想定はしてませんでしたね。みんなそういうふうに言ってくれるから、じゃあそれでいいかな!ありがとうございます!みたいな。
ラストのメロイック・サインは自分がアドリブで入れました。ロッカーだからやるだろうと。そしたら声を担当した村中知さんも、キャラクターと一緒にやってくれて。やった!みたいな(笑)ああいうのすごく嬉しいですよね。
あと、絵コンテ段階では最後、エアギターをかき鳴らすような仕草で決めポーズと書いてあって、じゃあギターつけちゃえ!と思って、勝手にフライングVというギターを描きました。最終的に本編ではテレキャスターが使われていて、フライングVだったら面白かったのに!とは思いました(笑)
キュアトゥインクルは『Go!プリンセスプリキュア』の中で、直球ではなく変化球のキャラクターというのかな。田中(裕太)シリーズディレクターは自分のことを、直球の主人公みたいな変身を描くタイプではないと認識していたみたいで。ちょっと気だるい感じというオーダーがありました。
自分は毎回、変身シーンの中に見た人が絶対に引っ掛かるだろうというキーポイントをどこかに入れたいと思っていて。表情だったり仕草だったり。キュアトゥインクルは指をリズムに合わせて動かしながら、頭に髪の毛の束がポンポンと出るところ。確か、自分で芝居をつけたんじゃなかったかなあ。
(動画では1個だが)ドレスアップキーが最終的に4つ揺れるシーンは我ながら、動きの細やかさと線の密度に衝撃を受けますよね(笑)トゥインクルをはじめ、『Go!プリンセスプリキュア』のキャラクターは皆ゴージャスな感じとか、絵や芝居とうまくはまってる感じがしますね。
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※ハフポスト日本版では、プリキュア20周年を記念し、『映画プリキュアオールスターズF』のインタビュー記事を4日連続で掲載する。
スケジュールは以下の通り。
14日 田中裕太監督インタビュー(前編)
15日 板岡錦さんインタビュー(前編)※本記事
16日 田中裕太監督インタビュー(後編)
17日 板岡錦さんインタビュー(後編)
17日公開の板岡さんへのインタビュー後編では、ネタバレを含む映画の内容に踏み込み、作品に込めた思いを聞いた。
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>
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「簡単に崩れない壁でありたい」プリキュアのすごい「変身シーン」が生まれるまで。職人・板岡錦さんに聞いた【20周年インタビュー】