育児で転職する男性は「あなただけではない」。ワーキングペアレンツ特化のコンサルタントが見た「時代の変化」とは【続報】

本記事の初報>>妻のキャリアを犠牲にしたくない…「共働き子育て世帯」向け転職サービス、男性の利用が5倍に増加。そのワケとは?

共働き子育て世帯に特化した転職サービス「withwork(ウィズワーク)」では、この半年で男性の利用が約5倍に増えた。

共働きが当たり前の時代となり、家事や育児が女性に偏る現状に疑問を持った男性が、柔軟に働ける企業を求めているとみられる。

転職の現場で聞かれる共働き子育て世代の本音とは。そして、企業側の認識はどう変わってきているのか。

ハフポスト日本版は、withworkを運営する「XTalent(クロスタレント)」の上原達也代表を取材し、サービス提供側から見た「変化」について聞いた。

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withwork立ち上げは自身の経験から

ーーwithworkの概要を教えてください。「共働きの子育て世帯」に焦点を当てた転職サービスということでよろしかったでしょうか。

「ワーキングペアレンツ」に特化した転職サービスです。

子育てをしながらもキャリアへの意欲を高く持っていたいという人はとても多く、そういった方々にキャリアとライフをトレードオフにしなくてもいいような取り組みを進めている企業を紹介しています。

例えば、柔軟な働き方ができたり、DEI(ダイバーシティ⦅多様性⦆・エクイティ⦅公平性⦆・インクルージョン⦅包括性⦆)という考え方が浸透している企業となります。

ーートレードオフしたくない、つまりキャリアと生活を両立させたいという共働き子育て世帯が利用しているのですね。サービスが生まれたのは、上原さん自身の経験が背景にあると伺いました。

そうなんです。

私は子どもが二人いて、妻も働いています。ワーキングペアレンツですね。

2014年に長女が生まれたのですが、その時に在籍していたベンチャー企業はハードワークが当たり前でした。

私もそれを好んで働いていたのですが、子どもが誕生した後、様々な壁にぶつかりました。

家庭、子どもとの時間、妻の仕事。まさにトレードオフにならざるを得ない状況になったんです。

自分のキャリアに対しても、家庭に対しても、何かを犠牲にしているなという感覚がありました。

一方、外の世界を見た時に、働き方が変わり始めているな、とも感じていました。

その頃急成長していた「メルカリ」(フリマサービス)は、当時としては画期的な福利厚生を打ち出していました。

産休・育休中の給与保証、男性育休の推進、不妊治療の支援などを行い、従業員が挑戦する文化をつくるため、会社がサポートしていたんです。

それを見て、「優秀な人材を集め、成長していくためには、従業員のライフイベントに企業が寄り添うことが大事なんだな」と思いました。

そして、この変化を加速させるためにも、そんな会社に良い人材が集まる仕組みを作れないかと。

withworkを思いついた原体験はそこにあります。

上原達也代表

「キャリアとライフをトレードオフしない」

ーー壁にぶつかったというお話がありました。具体的にはどのようなものだったのでしょうか。

当時、私はハードワークを前提に仕事をしてきたので、家庭を優先して仕事ができなくなるということをなんとなく認められなかったんです。

キャリアを降りることに自分の中で抵抗があって…。

妻も育休後、時短勤務で復帰したいと会社に伝えた際、「時短ならパートか派遣になるよ」と言われたみたいで、本当に様々な壁がありました。

それから転職し、2018年に次女が生まれた際に1週間の休暇をとりました。しかし、長期で取ることはできませんでした。

今ならそんな選択はしなかったと思います。

やはり、男性でも育休を取れる環境が増えつつある社会的な風潮や後押しはとても重要です。

ーー仕事に穴を開けたくないという思いがあったんですね。

そうですね。

どちらかというと、仕事は私がメインで、家庭は妻がメインという感覚が夫婦にあって、それも含めてバイアスだったと思います。

そして、自分の中で一番解決したい課題はなんだろう、と考えた結果が、キャリアと子育てだったんです。

やはりこのままではいけないと思い、withworkを創業しました。

今は私が在宅勤務なので、学童から帰ってくる長女の面倒を見て、毎日食事を準備して、買い出しをして、保育園からの呼び出しに対応して、掃除をして…とやることは盛りだくさんです。

ーーwithworkを運営していて、男性の子育てに対する自覚は変わってきたと思いますか?

変わってきたと実感しています。

最近、ある利用者の男性から相談を受けました。

キャリアを見ると、いわゆるエリート街道を歩んできたような人ですが、転職したいということでした。

「明日育休から復帰するのですが、子どもができて価値観が変わった」「今までは長時間労働が当たり前でしたが、家族を大事にしたい」

こんな話をされて、「ただそれでも自分の叶えたいキャリアがある。可能な選択肢はありますか?」ということでした。

それは、「いわゆる『ワークライフバランス』に振り切る」ということではありません。こういった声は、利用者からも多く聞かれるようになりました。

それは、皆さんが求めていることでもありますし、こちらもそれが実現できる企業を厳選して紹介しています。

withwork

「2.0世代」「3.0世代」が入り混じる分岐点

ーー重要だと思います。私も子育てを機に転職した経験がありますが、キャリアを捨てた感覚はありません。ただ、いまだに「仕事から逃げた」「『嫁さん』の尻に敷かれている」と言われることがあります…。

いくら働き方や男女平等に向けて進んできたと言っても、やはりそこに対してはまだまだバイアスがあると感じています。

男性から転職の相談を受けていると、「育児を優先していると『キャリアはほどほどでいいの?』と言われた」というような話はたくさんあります。

あと、女性社員が育児に関わっていくことは応援されるけど、男性社員の場合はあまり歓迎されないとか。

表面的には良い方向に向かっているように見えても、やはりこのような見えづらい部分は変わってない。 

男性はこう、女性はこう、みたいな固定観念が残っているという話はよく聞きます。

ーーーーwithworkを始めてから、どのような変化がありましたか?

withworkは2019年10月から始まりました。

サービスを開始して半年後にコロナウイルスで緊急事態宣言になったりと、大変なことはいろいろありましたが、利用者はどんどん増えてきています。

特に変わった点としては、男性の登録者が増えているということです。

以前はサービスを利用する人の9割が女性でした。

それが、2022年10〜12月に比べ、23年1〜3月の男性の新規登録者数は4.24倍に。そして、23年4〜6月は半年前の4.7倍となりました。

これからも男性の利用者はますます増えていくと予想していますし、利用者の半分が男性になってもおかしくないと思います。

ーーここ1年で増えたというのは実感できます。私が転職した2022年、新聞業界では子育てで転職する男性はほとんどいませんでした。しかし、最近は「子育てをきっかけに転職した」とよく連絡がきます。

女性のキャリアが広がってきているのは、当然、男性が変わるタイミングになってきているということです。

家事や育児、介護といったケアが女性に偏るという構造は、専業主婦世帯を前提としたモデルがあります。

それが「1.0世代」だとすると、共働きだけど男女の役割分担に偏りがある「2.0世代」、共働きで役割分担もフェアなあり方を目指す「3.0世代」と分けられます。

これは、withworkを利用する方々と話して思ったのですが、2.0世代は主に女性が仕事とケアの責任を背負ってしまっています。

3.0世代は男女ともにフルタイムで働きたい意向が強いのですが、社会や企業が追いついていなくて、それぞれが働き方や上司のステレオタイプの壁に直面するという課題がまだあります。

今は、この2.0世代と3.0世代が入り混じる分岐点にあると思っています。

ただ、そんな変化の時代にあるにもかかわらず、社会に蔓延するステレオタイプは1.0世代のままという構造もまだありますね。

ーーちなみに、withworkを利用している男性の年齢で多いのはやはり30歳代ですか?

男性は30歳代後半が多いですね。

子どもが保育園に通い始めたり、育休が終わってしばらく働いた後だったりするタイミングが顕著です。

女性の場合は、いわゆる「小1の壁」の前後で転職したいという方が多いです。

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「子育て層」の比率を公開する企業も

ーーただ、大企業に新卒で入った場合、転職を決意するのにハードルもあると思います。

確かに、勇気のいることだと思います。

ただ、子育てを機に転職するというのは、決してキャリアを諦めるわけでもないし、いわゆる「ワークライフバランス」に全振りするというものでもありません。

withworkというサービスには、仕事も家庭もという視点があります。

あと、不安を抱える理由として、周囲に子育てを理由に転職したという同僚がいないケースがあります。

転職サービスを利用し始めた時に、「周りに子育てがしたくて転職した男性がいない」や「育児を理由に転職する男性っているんですか?」とよく聞かれます。

私は「めちゃくちゃいます」と答えていますが、それを知ると、「そっか、そういう考え方で転職するのはありなんだ」と言っていただけます。

ーーなるほど。上原さん自身、ハードワークだった昔には気づかなかった視点はありますか。または、現在の企業の考え方などがあれば教えてください。

例えば、夜の会合は男性の比率が大きいと気づきました。

企業の採用イベントも昔は夜開催が多かったんですけど、例えば午後7時以降は子育てのピークの時間ですよね。

それが今、ウェビナー中心になってきたのもあって、昼の開催にシフトしてきたのは良かったなと思います。

ただ、こういう変化は自分が変わらなければ気づかなかったかもしれません。

そして、このような視点を入れている企業には優秀な人材が集まってきています。

今まではいわゆる「ワーキングマザー」だけの問題として捉えられていたのが、男性の問題としても認識されるようになってきました。

子育てだけではなく、介護、不妊治療、様々な問題があります。

人材を多様化しよう、従業員の個々の事情を考慮しよう、それができない会社は自然と淘汰されていくのだと思います。

withworkの紹介先としてはIT業界が多いのですが、最近は企業が自ら情報発信する傾向にあります。

ウェブ上に社内資料をアップしている企業も多く、従業員の平均年齢や男女比率だけでなく、社員の子育て層の比率まで公開するような企業も出てきました。

今まではこんなことなかったですね。

男性育休の取得率だけでなく、平均取得期間を公開する企業もあります。これはものすごい象徴的な出来事だと思います。

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「子育てと仕事を両立」事例を増やしていく

ーー会社の子育て層の比率まで公開している企業があるんですね。驚きです。

良い人材を採用するためには、このような要素が大事だと認識している企業が増えたということです。

ダイバーシティを進めるためには、育児、介護といったケアに取り組む社員が活躍できる環境かどうかが大事で、この壁を越えられなければダイバーシティを進めるというのは無理だと思います。

子育てや介護があると何かを諦めなければならず、子育て中の女性は時短勤務になり、「マミートラック」に悩む。

これは今も続いていますが、マミートラックの問題を訴える当事者も増えてきていますし、男性もそこに加わることによって、企業に良い人材が集まり、成長していくのだろうと思っています。

ーー国もしきりに子育て改革の良い面を発信していますが、やはり民間の認識と差があるなと感じています。例えば、9月の内閣改造で副大臣・政務官に起用された女性は0人でした。

今、業界の著名人が登壇するカンファレンスなどでも、登壇者に男性しかいないとツッコミが入ります。

それに対し、「良い人がいたら男女関わらず登壇させるんだけど、良い人がいないんだよ」と返す人もまだまだいますが、徐々にそういう論理は受け入れられなくなってきています。

構造上の問題ですからね。その構造を変えていくには、何かアクションが必要です。

良い人材を獲得するために意識的に動いている企業は増えていますし、そういう意識が必要なのだと思います。

ーー利用者から感謝されたなど、withworkを開始して良かったことはありますか?

たくさんあります。

最近も、「家族と過ごす時間が増えた」や「自分の妻の転職支援もお願いします」といった言葉をかけていただきました。

例えば、ある利用者は上場を目的としている同じベンチャー業界に転職したのですが、残業して長時間働くことが当たり前だった環境から、リモートワーク中心で残業も減ったそうなんです。 

つまり、企業の意識の問題なんですよね。このような転職者の成功体験を発信していけばいくほど、より良い社会になっていくと思います。

まだまだ男性が子育てを理由に転職するというのはマイノリティなので、事例を増やしていく必要があります。

育児とキャリアを両立させるのに、「こんなこと言うのは自分だけではないのか」や「わがままじゃないか」と思っている男性は多いので、「あなただけではないよ」と声をかけ続ける必要があります。

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「うちって育休取れるんだな」と言われた男性も

ーー確かに子育てに関して相談できる人が誰もいないというのは辛いですね。私の場合、転職して新聞業界から外に出ると、こんなに周りは変わっていたんだと驚きました。

最近も大手金融業に勤めている男性から相談を受けたのですが、育休に入るタイミングで各所に挨拶回りをしていた時、先輩社員から「うちって育休なんて取れるんだな」とちくっと言われたみたいなんです。

大きい企業なので、「あの会社でも…」と、正直驚きましたね。

「なんで奥さんが保育園の迎えにいかないの?」と言われたり、出張ありきの働き方を断ったら評価されなくなったり、そんな話はよく聞きます。

やはり上の世代であればあるほど、パートナーが専業主婦だったという男性は多いので、組織の上を見上げた時に「この人たちと同じ感覚で働けない」と感じ、withworkを利用する人も多いです。

ーーwithworkをどのようにして広めていきたいですか?

「ワーキングペアレンツのための」という表記は、特に女性から「良いですね」と言ってもらえます。

つまり、男性側も子育てで転職するという視点が入っているからです。

withworkを通じて、子育て中の人に限らず、介護をしている人や、将来は子どものことを考えている人など、多様な人材を採用する企業が競争に勝って生き残っていく環境をつくっていきたいです。

そういう意味では、withworkは責任重大ですね。

ーー最後に、さまざまな転職サービスがある中、なぜwithworkを選ぶ人が増えているのだと思いますか?

プライベートやライフのことも含めて相談していいんだ、という心理的安全性だと思います。

例えば、他の転職サービスのエージェントに相談した際、「子どもが3人いるんです」と言うと、嫌な顔されたという方もいました。

自分が相談した際、そんなことをされたら傷つきますよね。

ある男性は「家族との時間を大事にしたい」と言うと、「いわゆる『ワークライフバランス』に全振りした求人を紹介された」と言っていました。

それもまた違う話だと思います。

withworkでは、キャリアのこともライフのことも両方話せるという安心感があります。

キャリアを諦めず、ライフも充実させる。そんな企業を紹介していきたいと思っています。

【情報提供をお待ちしています】

「子育てがきっかけで転職しました」

ここ最近、こんな連絡が頻繁にくるようになりました。

私が子育てを機に転職した頃(2022年)、業界ではこのような理由で会社を退職する人はほとんどいませんでした(下記記事参照)。

「もったいない」や「『嫁さん』の尻に敷かれている」と言われたこともありますが、withworkで男性の利用が増えているように、徐々に潮目が変わりつつあるのかもしれません。

しかし、子育てを理由に転職する男性は、社会全体で見るとまだまだマイノリティです。

家事や育児、介護などが女性に偏るジェンダー不平等が社会に蔓延する中、キャリアと家庭の両立に悩んでいる男性も多いのではないでしょうか。

上司が子育てに理解がない、育児休暇を取れなかった、悩んだ結果ついに転職したーー。

こんな体験を社会に伝えたいという方がいましたら、ぜひお話を聞かせてください。

当事者のどんな声が伝わっていないのか。そして、どのように会社が変われば両立して働けるのか。

一緒に考えていきましょう。

情報提供は、以下に記載した相本の連絡先までお願いします。

Mail:keita.aimoto@huffpost.jp

Twitter:@AIMOTO8989

(記事)

「妻の育休期間が終わればどうすれば……」私が新聞記者を辞めた理由は「子育て」だった

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育児で転職する男性は「あなただけではない」。ワーキングペアレンツ特化のコンサルタントが見た「時代の変化」とは【続報】

Keita Aimoto