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2035年までにカーボンニュートラルを目指すフィンランド。
同国のカイ・ミュッカネン環境・気候大臣は9月22日、ハフポスト日本版などのインタビューに応じ、「フィンランドでは既に電力の約9割がカーボンフリーです」と説明した。
「私の大臣としての責務は、あと12年でカーボンニュートラルを実現すると同時に(温室効果ガスなどを排出しない)クリーンな産業のより早い成長を目指すことです」(ミュッカネン環境・気候大臣)
ウクライナ戦争によってロシアから燃料輸入が難しくなり、エネルギー危機に直面したこともあったフィンランドは、どのようにしてヨーロッパで最も早くカーボンニュートラルを実現しようと思っているのだろうか。
フィンランドでは、ヘルシンキに残る2つの石炭火力発電所は2年以内に廃止し、2029年から石炭火力による発電と熱生産を禁止する見込みだ。早期にカーボンニュートラルを実現し、かつクリーンな産業を伸ばすためには、「電力生産を倍増させる必要がある」とミュッカネン大臣は言う。
「主な基盤は、カーボンフリーの電力である風力、水力、原子力を十分に確保することです。その後には、蓄電でき、安定した電力の一形態でもある水素も必要になってくるでしょう」
フィンランド風力エネルギー協会(FWPA)によると、フィンランドの風力発電容量は2022年に前年比75%増加し、現在も拡大を続けている。また、2023年4月にヨーロッパ最大の原子力発電所が本格稼働しはじめたのも大きい。
「他のヨーロッパの国々、特にドイツとの一番大きな違いは原子力発電です。ドイツは原子力発電所を閉鎖し、石炭や天然ガスの代わりに風力発電を使おうとしています。一方フィンランドでは既に国内の電力の40%を原子力でまかなっているほか、急成長する風力や林業の副産物であるバイオマスも水力もある。CO2を排出しないクリーンな電力システムが確立されているのです」
日本では福島の原発事故もあり原発の安全性を懸念する声も多いが、フィンランドでは原発がどのように受け止められているのだろうか。ミュッカネン環境・気候大臣は「68%の国民が原発に賛成している」と説明する。
「石炭や石油を減らすために風力発電も増やしていますが、この寒冷地でマイナス25度の時に、太陽の光も差さず、風も吹かず、凍って水力も使えないとなると、やはり原子力が一番現実的ではないかと思います」
ミュッカネン環境・気候大臣が言うように、フィンランドの冬は厳しい。どのように暖房をクリーンエネルギー化するかも重要なトピックだが、暖房による温室効果ガスの排出量は順調に減っているという。
「暖房のための熱生産は、化石燃料の燃焼から、工場規模のヒートポンプやデーターセンターから発生する熱を利用したものへと急速に変化しています。例えばエスポーという街ではマイクロソフトのデーターセンターが建設予定で、完成すれば街の暖房の40%がまかなえる見込みです」
ゼロエミッションに向けてもう一つ乗り越えなければならないのは、CO2の吸収量を増やすことだ。ロシアからの燃料向けの木材の輸入を停止したため、国内の木材の需要が増え、ここ数年で吸収量はグッと減った。
そこでフィンランドでは森林を増やすことに加え、大規模な工場などからの排出を抑え、コンクリートに炭素を結合させて固定し、道路などのインフラに活用するCCSなど、技術的なCO2吸収源も追加する予定だという。
「これらの吸収源を確保するために、カーボンニュートラルの実現まで12年の期間を設けています。過激で不可能な対策を講じなくても、カーボンニュートラルまであと少しというところまで来ています」
フィンランドでは6月に新政権が発足した。現在は、第一党の「国民連合」、反移民で極右ともいわれる第二党の「フィン人党」をはじめとする4党の連立政権だ。環境政策についても一枚岩ではない。
最近では、フィン人党がガソリン価格の値下げを要求し、与党内で意見が割れていた。どうやって気候変動対策の速度を緩めない「落とし所」を見つけ出しているのか?
「いかにして気候変動法に定めたカーボンニュートラルを達成し、同時に市民の日常的なコストを増加させないか、6週間にわたって交渉を主導しました」とミュッカネン環境・気候大臣。
「ガソリン税を下げる代わりに、ガソリンに混ぜなければならないバイオ燃料の割合を増やすことにしました。そうすることで、ガソリンの値段は結果的に『上がらない』、かつ再生可能エネルギーの割合も増やせます」
取材の数日前にはイギリスのスナク首相が、CO2を排出する車の廃止を2030年から2035年に延長すると発表するなど、気候変動対策を「後退」させたと話題になった。EUの気候変動対策のペースは落ち、後退しているのか?
ミュッカネン環境・気候大臣は「今回のイギリスの決定は残念ですが、少なくともEUと同じペースでイギリスが進むことを願っています」とコメントした。
「元々EUの目標では2035年までにCO2を排出する車を廃止することになっていますし、今回のイギリスの決定がEUに大きな影響を与えるとは考えていません。少なくともヨーロッパが、そしておそらく世界中が、化石燃料なしで自動車が動く時代に突入しつつあるのは間違いありません」
なぜフィンランドは野心的な目標を掲げ、実行してこられたのか。大臣は「フィンランドでは、化石燃料を所有していないからだと思います」と話した。
「例えばドイツや中央ヨーロッパと比較すると、多くの国には自国の炭鉱があります。石炭をなくすということは、同時に石炭産業を衰退させ、失業者が出るということです。フィンランドでは化石燃料を所有していないため、違う角度から考えることが容易になりました」
例えば、フィンランドの石油精製会社・ネステ社(Neste)は現在、再生可能燃料の開発で世界をリードしているという。化石燃料から再生可能エネルギーへのトランジション(移行)ができた理由について、「彼らは油田を所有しておらず、ロシアの原油を精製していたため、他の原料へと多様化する可能性を模索するのは自然なことでした」と説明する。
「フィンランドでは、新しい技術を推し進めなければならないという意識が強く、新しい技術を信頼しているのだと思います。それが、化石燃料だけでなく、他のあらゆるエネルギー源からエネルギーを調達してきた理由です」
もう一つ重要なのは、「研究開発と科学に十分な投資」だと大臣は言う。来年には研究開発への公的支援が3億ユーロ近く増額され、今政権末期までに約10億ユーロが投入されることになるという。
「日本の技術者科学も非常に高く評価されていますし、エネルギー技術の分野でも非常に速いスピードで多くのことを行っています。クリーンエネルギーの分野で新しい成功者が日本から出る可能性もあるのではないでしょうか」
気候変動を止めるためには、自国だけでなく世界全体で取り組む必要がある。最後に11月末から開催される第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)で注目しているポイントを聞いた。
「世界的な使用における化石燃料の役割を減少させるために、一定の測定可能な目標に合意することだと思います。特にインドや中国への投資に影響を与えるような何らかの措置が必要でしょう。これが、私が期待している小さな進歩です」
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ハフポスト日本版は、駐日フィンランド大使館より招待を受け、現地の取材ツアーに参加しました。執筆・編集は独自に行っています。
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