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新規事業、何かやらなくちゃいけないけれど、アイディアも出ないし3年後を見据えた事業計画もたてられない。一体どうすればーー。
森永製菓の新領域創造事業部に配属された金丸美樹さんは2014年頃、そう悩んでいた。とある人に相談すると、「じゃあAmazonって革新的なアイディアなんですか?違いますよね?やった人だけが勝つんですよ」と一笑されたという。
「確かにそうだなと。最初からどんな種が芽吹くか分からない世界だから、とにかく一歩踏み出して実行するしかない!と手当たり次第やってみることにしたんです」(金丸さん)
「自分は『普通』の会社員」だという金丸さんが、サステナビリティへの興味を食の事業へつなげた方法とは?
※ハフポスト日本版では日建設計とのコラボで金丸美樹さんによるワークショップを企画しています。9月29日(金)午後6時半より。詳細は記事の末尾で。
金丸さんが「とにかく行動」して道を切り開いたのは、新領域創造事業部が初めてではなかった。1人で中国からの観光客向けのアンテナショップを東京駅で立ち上げた時もそうだった。
「新規事業に取り組む時、『いきなり自由になってほったらかしになり、孤独を感じる』ってあるあるなんですよね。期待も指示もなくどうしたらいいか分からなくなる時期があって、当時は私も泣いていました」
とにかく目の前のできることをやろう。そう思った金丸さんは、ターゲットの中国からの観光客のことを知るために中国好きの人におすすめされた本を読んでみたり、中国人観光客に混ざって「はとバスツアー」に参加したり…。ターゲットに同行して買い物の時間を測ったこともあった。会話に聞き耳をたててどんなことを考えているか知る手法は、かつてマーケティング部にいた時に培ったものだった。
そうやって手当たり次第やっていくうちに、中国人観光客の需要などが見えてきて、企画して動くのが楽しくなっていったという。
「私ってそれまで、『会社の上層部がテーマ設定できていない』とか『この落とし込み方はダメだよね』とか、会社や上司から明確な目的の提示や指示がないことに対して不満を言っていたんです。でもアンテナショップ企画では、前例がなく上司だって分からないことが多かった。不満を言ってもしょうがない状況だったからこそ、『何かテーマがなくても自分が作って逆に提案すればいいんだ。自分がやりたい方向に仕向けていけるかもしれないなんてラッキーじゃん』って思えるようになっていきました」
2017年に創業した森永製菓発のベンチャー企業「SEE THE SUN」も、行動する中で生まれた。きっかけは、新領域創造事業部で支援をしていた、学童保育向けのおやつサービスを提供しているベンチャー企業から、「アレルギーの子どもが食べられるおやつを開発できないか」と相談されたことだった。
だが、アレルギーがある子もない子も一緒に食べられるおやつだったとしても、商品を生産する際の最小単位である「ロット」を満たす数は見込めなかったそうだ。それなら、当時海外で流行していた「グルテンフリー」の商品にして、大人も美味しく食べられるようにして、ロットを満たしていくのはどうか。
そう思いグルテンフリーの可能性を探るため工場や農家を訪ねると、想像をはるかに超え、未来のために情熱をもった素敵な方ばかりに出会ったという。
「美味しいものを届けてみんなを笑顔にしたいと一生懸命な人たちばかりで、未来の子どものことを考えている人も多かった。けれど、気候危機や人口減少、働き手不足などで食産業はどんどん疲弊していっていることにも気付かされて、何かしたい気持ちが湧き上がってきました」
思い返せば、滋賀県の田舎で育った金丸さんは、小学校の頃から新聞の社会欄を読むのが好きで、「女性が長く働けないのは嫌だな」と思っていた。家の目の前には琵琶湖があって、自然環境の悪化も、みんなの努力で綺麗になっていく琵琶湖も肌で感じてきた。
「育った環境から、自分の根本的なテーマがダイバーシティやサステナビリティになったのは自然なことだったと思います」
流行を追うだけではビジネスとしても疲弊してしまう。どうせなら、アレルギーを持っている人もヴィーガンもハラールの人も同じテーブルで、安心して美味しく食べられるようにしたい。一つの相談事は、「食を通じたダイバーシティを実現したい」というブランドの思想へ昇華していった。
そうして生まれたのが「SEE THE SUN」だ。「テーブルを創るすべての人を幸せに」をテーマに、プラントベースの商品の開発から始まった同社は現在、持続可能な食の未来を作るために、会社の垣根を越えライバル社同士で共創するコミュニティの運営や、新規事業の伴走、開発者と消費者をつなぐ事業などに取り組んでいる。
2022年10月には神奈川県葉山町にあるSEE THE SUNの敷地で開いたマルシェでで米麹をベースとしたリフレッシュドリンク「米麹とスパイス」をテスト販売し、確かな手応えを得た。
「米麹とスパイスは、森永製菓の若手研究員が開発した商品です。彼はエナジードリンク等を飲んで無理してがんばるのではなく、麹やかぼすや山椒といった和の素材を使用し、自然体で自分らしくがんばれるためのリフレッシュドリンクを開発したものの、商品化に苦戦していました。そんな彼の熱意を受けて、弊社がテスト販売のお手伝いすることになりました」
実際に販売してみると、お客さんからは「おしゃれでかっこいい」「甘くなくて、新しい」など好評で、マルシェでは毎日完売、その後、ECサイトでも販売したところ、数日で完売した。商品は軌道に乗り始めた。
米麹とスパイスには、国産のかぼすを使っている。近年、高齢化や人手不足でかぼすが廃棄されており、少しでも力になれたらという思いからだ。米麹もサイズ的に食用にならなかった米から作るなど、食の課題解決にもつながっている商品だ。
「ここ数年の変化で、みんながサステナブルをベースに考えるようになりました。今はどんな形でアウトプットできるか模索している時期だと思います」
思わぬ異動がきっかけで、「普通の会社員」だった金丸さんは、できることからひたすら行動して道を切り開いていった。金丸さんにバイタリティや行動力があったからのように聞こえるが、最初からそうだったわけではないという。
「『ブルドーザー』なんてあだ名で呼ばれることもありますが、そういう環境を経験させてもらったからこそ身についた行動力だと思います。思わぬ異動は自分の幅を広げることもありますし、別の経験をして視座を上げていくことで、新しい課題に気づいていけるんだと思います」
数多くの社会課題とその解決策の実践を発信してきたハフポストと、都市課題を共に解く「関係づくり」をしていきたい日建設計イノベーションデザインセンターがコラボして「未来を作る×ピントとミカタ」ワークショップシリーズを始めました。
「未来を作る×ピントとミカタ」第3回は9月29日(金)、金丸さんによるトークショー&ワークショップを開催。1、2回目では「自分とつながる」がテーマでしたが、さらに一歩進んで「自分と仕事と社会とつながる」をテーマに、参加者がアクションするヒントをお届けします。
「1人以上を笑顔にできたら、それは社会課題の解決です」と話す金丸さん。ワークショップでは、どうやって自分が感じている「モヤモヤ(課題)」を「ワクワク」する方法で解決できるか考えながら、自分と仕事と社会をつなげる糸口を探ります。
また、金丸さん自身の経験や数々の新規事業に伴走して見えてきた「頓挫あるあるパターン」と「一歩を踏み出すヒント」を通して、皆さんのアクションを応援。「ロジックで勝負できない上司をどうやって仲間にできるか」「アイデアはあるけど自分の担当ではない時の考え方」など、具体的に役立つ情報が盛りだくさんです。
申し込みはこちらから。
日時:9月29日(金)18:30〜(希望者には、イベント前に日建設計の共創スペース「PYNT(ピント)」の簡単な案内ツアーを18:00から開催します)
場所:日建設計東京オフィス(本店)3F PYNT
〒102-8117 東京都千代田区飯田橋2-18-3
参加費無料。応募者多数の場合抽選となります。
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