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ぼんやりしていたら8月も終わりが見えてきて、焦るような気持ちで今季初の冷やし中華を作った。食い初めならぬ「冷やし中華初め」はやっぱり8月までにしておきたい。いくら暑くても9月じゃなんとなく違うよなあ……なんて、妙なこだわりだけれども。
ニュースでは「まだまだ暑さは続く模様、10月にも真夏日の可能性が」とか言っていて、ふざけちゃいけないよと思いつつ薄焼き玉子を作る。きゅうりとハムを刻み、もやしを蒸す。のせる具材は4つが私のお決まりだ。高校生の頃、学食でよく食べた冷やし中華がこのスタイルで、ずっと真似してしまう。
溶き卵に水溶き片栗粉をちょい混ぜてから(こうすると破れにくくなる)、よく油をなじませたフライパンで焼く。キッチンペーパーに油をつけて、しっかり全体を拭くようにしてから、さらに油をひいて焼くときれいに仕上がりやすい。
薄焼き玉子は冷ましてから重ねて切る。昔、とある料理研究家さんに「糸のように細切りにするから錦糸玉子なんですよ」と言われて以来、頑張って細切りにしてきたが、最近は幅があってもそれはそれでおいしいなと思い、8㎜幅ぐらいに切っている。ちなみにこの料理研究家さん、アシスタントが太く切ってしまった錦糸玉子を見るなり「それじゃ綱(つな)玉子ね」と言ったのが忘れられない。
ハムは食感をしっかりさせたいから厚めに切る。きゅうりは繊細な食感にしたいので、なるたけ細切りに。そのほうが独特の青い香りが気にならずに楽しめると思う。もやしはざっとひげ根を取ってから水でよくすすぎ、容器に入れてレンジに90秒ぐらいかけて蒸しておく。粗熱が取れたらボウルに入れて、酢、薄口醤油、いりごま、少々のごま油で和える。薄い味つけのもやしナムルが学食の冷やし中華のポイントだった。これがないとどうにも食べた気がしない。
麺とタレは今回市販のものに頼った。そうそう、作り始める前にうつわを冷蔵庫に入れておくと冷え冷えで食べられるのがいい。あと、夏場は空いたペットボトルをよく洗ってから水道水を詰め、ゆでた麺を冷やす用として冷蔵常備している。麺がキンキンに冷えているとおいしさも際立ち、達成感も違うものだ。
と、ここで話は変わる。前回の西森路代さんのコラム、調味料のくだりが特に熱くて印象的だった ……!いろいろ試されているんだなあ。そして私は調味料といえば、冷やし中華にラー油をかけるのが好きでね。冷やし中華のタレは総じて甘め、途中で辛系のアクセントをつけて味変するのが楽しい。
ごく一般的に買えるラー油なら、『四川風辣油』(エスビー食品)は長いことリピートしているお気に入り。花椒の実が入って、あのしびれる感じがちゃんとある。担々麵や麻婆豆腐にひとかけでより本格的な風味にも。
毎度読むたび笑ってしまうのだが、『辛そうで辛くない少し辛いラー油』(桃屋)は名前のとおり穏やかな辛さで使いやすく、ガーリックチップがたっぷり入って、カリカリ感がいい。さっき作った蒸しもやしと和えるといいつまみにもなるし、納豆と合わせてごはんのおかずにするのもたまらない。
東京・松陰神社前にある『タビラコ』の「ツブラーユ」はしょうがのフレイバーと食感が実に魅力的なラー油。後味でふわっと唐辛子が効いてくる感じが上品で、小さじ1半ぐらいを冷やし中華に和えると完成度が1グレード上がる感じに。菜種油のほどよいコクもおいしさのポイントだ。
鹿児島県阿久根市『下園薩男商店』の「焼海老辣油」はごちそうラー油、香ばしいエビにコチュジャンやテンメンジャンのうま味、そしてアーモンドやごまのコクと食感がなんともにぎやか。単体でクリームチーズと一緒にカナッペにすると強力なアテになる。こちらも使われているのは菜種油だ。
油を調味料と考えるのは抵抗があるかもしれないけれど、良質な油は本当によい風味やコクを料理に与えてくれる。炒めもののレベルがグンと上がるし、揚げものも仕上がりがまったく違う。
料理研究家のウー・ウェンさんは著書『料理の意味とその手立て』で、油は「中国ではうま味を出すための大事な素材」と書かれていた。上質な油の良さをもっと知ってほしい、日本人はミネラルウォーターをよく買うけれど、総じて水道水の質がよいから必要ないようにも思える。その分のお金を少し普段使う油にまわしてもいいのでは……的なくだりには特に共感した。
日本人は油というとイコール「体に悪いもの」と考えすぎじゃないかな……と思うときがある(もちろん摂り過ぎはよくないけれども)。生野菜や豆腐、あるいはお刺身に高品質の油をちょっとふりかけ、塩ぱらりなんて食べ方は実においしい。オリーブオイルはわりによいものを体験されたことのある方が多いと思う。ごま油や米油、菜種油などの上質なものも、料理好きの方なら一度は体験してみてほしい。
一般的なスーパーでわりに手に入りやすいのは、愛知県蒲郡市が本社の『マルホン』が製造する「太白胡麻油」「太香胡麻油」だろうか。太白のほうは香りがなく使いやすい油で、太香はいわゆるごま油。前者はシンプルな青菜の塩炒めなどにまず、普段よりも気持ち多めの量で使ってみてほしい。ほどよいコクとしつこくない仕上がり、食欲をそそる香りが楽しめるはず。後者は刻んだトマト、あるいは温野菜にからめて塩ぱらりなんてのもおいしい。
いい油をもっと風味づけの味方にしていこう。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
夏の終わりの冷やし中華は“アレ”で味変。いい油を風味づけの味方にしていこう