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キャラクターの人種も年齢も性別も曖昧で、敵も倒さない。でも感情が動かされ、人とつながり、美しい世界に癒される。
そんな従来とは異なる「新しいゲーム」が熱烈な支持を得ている。
『Sky 星を紡ぐ子どもたち』は、「星の子ども」たちが地上に落ちた星々を天へ返しながら世界を旅するソーシャルアドベンチャーゲーム。
特筆すべきはファンの多さとコミュニティの強さだ。日本でもファンは多く、公式Xのフォロワーは30万人を超える。
そんな『Sky 星を紡ぐ子どもたち』を制作したアメリカのゲーム開発会社「thatgamecompany」の創立者、ジェノバ・チェンさんは、「性や暴力を使わずに楽しめるゲームを作りたい。ゲームはアートになり得ると信じています」と語る。
チェンさんがゲームを通して実現したい未来とは?
ーー「ゲーム」というコンテンツにおいて、ジェンダーや人種のバイアスや、暴力性が問題視されることもありますが、チェンさんはどのように考えていますか?
ジェノバ・チェンさん(以下チェン):
私は大学で、映画やアニメーションのように、「インタラクティブ・メディア」を使って観客に感動を与えるストーリーテリングについて学びました。
その学びの過程で分かったのは、ゲームはまだ非常に若いメディアであり、感情的なアクセシビリティやあらゆる年齢層への訴求力がまだまだ少ないということです。
映画だって最初は強い衝撃のような感情を引き起こさせる作品が多かったけれど、メディアの成熟とともにニュアンスのある感情が表現できるようになり、より多くの観客が映画ファンになっていきました。
ビデオゲームはその成長の真っ只中にいると思います。だからこそ、より多くの観客が感情移入できるようなゲームをもっと作る必要があると考えています。
ーーSkyは人種や年齢、性別に関わらず、「すべての人」に楽しんでもらえるように設計されているそうですね。他のゲームとは違うこだわりを教えてください。
チェン:
私たちのミッションは、「ゲームがアートメディアになりうることを証明する」です。ゲームは、ピクサーやディズニーのように、エンターテインメントでありながら、セックスや暴力やギャンブルを使わなくても、人々の心を動かし、温かくすることができるんです。
そのためには、どんな人にとっても魅力的なゲームでなければならないと思っています。だから、例えば男性向けのアクションゲームや、女性向けのカジュアルゲームといった既存のゲームジャンルにSkyを当てはめたくありませんでした。
Skyは誰もが感情移入できるような新しいジャンルを探した末に出来上がったゲームで、これがまさに他のゲームとの違いだと思います。
ーー「ゲームはアートになりうる」ことを証明するのがミッションとのことですが、チェンさんにとって「アート」とはなんでしょうか?
チェン:
「アートとは何か」とは、10人に聞けば10個の違う答えが返ってくる難しい質問ですが、私個人の意見としてお伝えしますね。私は、アートは「作品そのもの」のことではないと考えています。
例えば、フィンセント・ファン・ゴッホの「ひまわり」をみた時、その絵そのものは、私にとって「アート」ではありません。私がアートだと感じるのは、鑑賞者としてアートに対峙したときに、その作品から、作者が表現したかった意図や、表現したかったメッセージを感じたとき。その感じるプロセスそのものがアートだと思っています。
ビデオゲームでいえば、ゲームそのものがアートなのではなく、プレイヤーがゲームを遊ぶ過程で、制作者が意図した表現やメッセージや想いを感じ取ったとき、それはアートになり得ると考えています。
ーーチェンさんがゲームを通して伝えたいことはなんですか?
チェン:
アーティストとして「あなたが感じたことがすべてです」と明確な答えを避けたいところですが…(笑)それでは質問に対する敬意を欠いているような気がするので、いくつか作品を作る原動力になったことをお伝えしたいと思います。
人生の中で、自分は一人ではなく、周りのみんなとつながっているという感覚を持つことがあります。それはとてつもなく幸せな経験です。そんな経験をした後は、自然と自分が住んでいる世界や地球上のすべての人に感謝を抱くようになるんです。
ゲームを通して、自分は一人ではない、孤独ではないという感覚をプレイヤーたちと分かち合えたらと思っています。
ーー「あなたは1人じゃない」とゲームを通して伝えたい、原体験はあったのでしょうか?
チェン:
あります。私はコンクリートジャングルの上海で育ちました。アメリカのカリフォルニアにきて、地平線まで続く果てしない野原を見て圧倒されました。その感覚を、都会育ちの友人たちに共有したかった。
絵を描いてみたけれど、絵だけでは、風に吹かれながら見たもの、嗅いだものを完全に表現できなかったんです。ゲームのようなインタラクティブなメディアを使って、自分が感じた感覚をすべて表現する必要がありました。
他にも、アメリカでは僕は移民で、家族も友達もおらず孤独を感じていたある日、一人で旅をしている夢をみたことがあります。
夢の中に、橋の上に立って美しい滝を見つめている人がいた。私は同じ橋の上で立ち止まり、滝を見下ろすことにしました。その瞬間、私とその人はともに「世界の美しさを楽しんでいる」というつながりを感じ、私は一人ではないと思ったんです。
こんな風に、私たちがゲームを作るときは、伝えたい感情から始まって、ゲームを通してその感情を表現し、プレイヤーと分かち合おうとしているんです。
ーーリリースして約4年の間、新型コロナウイルスの流行やウクライナ戦争など、世界が揺らぐことが相次ぎました。Skyの世界にも影響はありましたか?
チェン:
印象的な出来事がありました。ウクライナでの戦争が勃発した直後のことです。Skyの中で、ロシア出身のプレイヤーと、ウクライナ出身のプレイヤーが同じベンチに座って話し始めたんです。周りのプレイヤーたちは、敵国同士で言葉の戦いになってしまうのではないかと心配したそうです。
ところが、2人は親友になったのです。ウクライナのプレイヤーは、地下鉄の駅に潜んで爆撃から逃れていて、爆撃が止んだ合間を縫ってゲームをしている状況を明かしました。ロシアのプレイヤーは経済制裁で生活が苦しく、大学にいけなくなってしまったと吐露しました。
Skyのような「自分の弱さ」を隠さなくてもいい場所では、たとえ正反対の立場であっても、人々はお互いを支え合うことができるんです。
ーー弱さをさらけ出すのは難しいことです。どのようにゲームで実現しているのですか?
チェン:
一人じゃないという感覚を生み出すことを追求する過程で、この感覚を生み出す最善の方法は、人々が感情的につながることだと気づきました。
そのためには、自分の弱い部分を隠さないことが大切です。強がっていたり、自分の方が優れていることを示そうとしていては、心と心はつながらない。
例えば、渋谷やニューヨークの中心に立つと、何千人という人々があなたのそばを通り過ぎます。しかし、誰かにハグをしようと思っても、誰もが忙しそうにしている。成功や名声を追い求めるあまり、気が散ってしまっている状態です。
しかし、もしあなたがあまり人が通らないような山を歩いていて、他の人に出会ったら。2人とも雄大な自然の中で自分がいかに小さく弱い存在か感じるだろうし、だからこそ、つながり合いたい、頼り合いたいという欲求が生まれる可能性が高いんです。そんな体験をゲームの中で表現しています。
ーーSkyでは、人々を繋ぐ海を綺麗にするイベント「自然の日々」や多様性と希望と団結を願うイベント「彩なす日々」など、社会課題とゲームをつなげる取り組みも行われています。どのような意図や想いがあってのことですか?
チェン:
プレイヤーに感謝とつながりをシェアして、自分の人生を幸せだと感じてほしかったんです。
人を助けたり、何かを与えることで、自分自身も幸せを感じると思います。Skyをプレイすることで、プレイヤーがボランティアをしていると感じたり、他の人に貢献していると感じたりするような体験ができないかと考えました。
新型コロナウイルスが流行した時には、プレイヤーからの声に応える形で、国境なき医師団を支援するためのチャリティーイベントを開催したこともあります。結果的に100万ドルを寄付することができました。私はSkyのコミュニティの皆さんを本当に誇りに思っています。
ーーこれからやりたいこと、目指している未来を教えてください。
チェン:
この4年間、Skyのコミュニティからたくさんのインスピレーションをもらいました。皆さんから学んだことを活かすために、来年早々に大型アップデートを予定しています。
また、8月25日には、1万人が同じ仮想空間でコンサートを体験するという、誰もやったことのないギネス世界記録に挑戦する予定です。
将来的には、プレイヤーがより大きなコミュニティとのつながりを感じられるような、より多くの体験や技術を生み出すことができるようにしたいと思っています。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「性や暴力を使わなくても、楽しいゲームは作れる」『Sky 星を紡ぐ子どもたち』制作者が目指すもの