神宮外苑再開発とは?>>【5分でわかる】神宮外苑の再開発、何が問題になっているの?知っておきたい5つのこと
スポーツ施設の建て替えや高層ビル建築などの再開発計画が予定されている東京・神宮外苑で、4列のいちょう並木の一部が枯れ始め、衰退が著しいスピードで進んでいることがわかった。
中央大学研究開発機構教授の石川幹子氏は 「100年間1本も枯れなかったいちょう並木が衰退し、息も絶え絶えです。このまま計画通りに再開発を進め、近くに球場をつくれば、枯死への道を歩むでしょう」と危機感を訴える。
石川氏がいちょう並木の異変に気がついたのは2022年秋だ。
その後10月〜11月にかけて146本のいちょうすべてを調査したところ、飲食店に隣接する1本の上部が枯れており、活力度はA〜Dのうち最低で「著しく枯損」を意味するD評価だった。
さらに、そのほか5本のいちょうでも先端部などに枯損が確認され「要注意」のCと評価された。
石川氏は調査後の12月にいちょうの枯損が進んでいることを発表。
事業者が環境影響評価書に記載しているデータは、4年前の2018年12月~2019年1月に調査が行われたものであり、枯損が確認された6本すべてが「健全」を示すA評価であったため、現状を正しく把握しなければならないと申し入れをした。
これに対して、事業者は12月、「一部のいちょうの落葉が早いことは2019年から認識していたが、2022年春には、先端から新芽が出て葉が成育していた」と発表し、いちょうに問題はないという考えを示した。
しかし、石川氏が観察を続けたところ、D評価のいちょうは2023年春に新芽は出たものの、その後成長できず、本格的な夏に入る前の7月時点で上半分が葉を落とした。また、C評価のいちょうでも枯れが確認された。
枯れていたのはすべて、4列の一番西側に位置するいちょうだ。
石川氏は、4年前には健全だったいちょうが何故急速に枯損が進んでいるのか、それを直視しなければ、取返しのつかないことになると警告をする。
また、100年枯れなかったいちょうが衰退しているのは気候変動の影響が大きいと考えており、水不足や場所、土壌条件、日照、地下の埋設物など複数の要因が絡み合っていると指摘する。
神宮外苑の再開発では、新しく建てる神宮球場の壁が、いちょうの樹幹からわずか6メートル(道路から8メートル)の至近距離に迫る計画になっている。
ユネスコの諮問機関で石川氏が理事を務める日本イコモスは、2022年夏から「球場を近くに作れば工事で根が傷つき、水循環が絶たれ、いちょうが衰退する」と警告してきた。
しかし、いちょうの枯れを伝える2022年11月の調査後も、事業者は衰退を認めることはなく、2023年1月に東京都に提出した環境影響評価書でも、日本イコモスが枯れていると指摘したいちょうすべての活力度を「A(正常)」とした。
これに対し、日本イコモスは2度にわたり「評価書では数多くの虚偽の報告や資料の提出が行われている」と訴え、その中で「事業者は、一部のいちょうに顕著な枯損が生じていることを評価書でも一切報告していない」 と指摘した。
この指摘を受け、1月30日に開かれた東京都の環境影響評価審議会では、柳憲一郎会長(明治大学名誉教授)が「このままではゴーサインを出すことは難しい」として、イコモスの指摘した問題に回答するよう事業者に要請。
ところが、事業者が回答をした4月と5月の審議会では、日本イコモスの出席が認められず、事業者のみが説明をする場になった。
事業者はこの時の審議会でも、いちょうの活力度について「2018〜19年に樹木医資格を保有した調査員による調査を実施しており、間違いはない」と述べて、いちょうには問題はないという姿勢を変えなかった。
そして、審議会委員も4年前のデータに基づく事業者の説明を受け入れ「予測評価に変更が生じるような誤りや虚偽はないことが確認された」として、審議を終了させた。
しかし、事業者が活力度Aとしたいちょうは、2023年夏の時点で枯れ始めている。
石川氏は、事業者が調査をした2018~2019年はいちょうは健全だったのかもしれないが、問題は近年の変化の中で起きており、それが環境影響評価書には一斉書かれていない、と指摘する。
「2022年11月と2023年7月の写真から、枯損が著しいスピードで進んでいて、このまま再開発を進めれば、いちょうがさらに悪影響を受けることは明らかです」
「事業者はこれまで一切、いちょうの衰退を認めていません。その間にいちょうが衰弱しています」
「また、日本イコモスがいちょうの衰退を指摘したにも関わらず、環境影響評価審議会は、事業者の説明の不備や誤りを指摘せず、再開発は環境に影響を与えないと結論づけました。これは、科学的調査に基づく、環境アセスメントの基本を揺るがす重大事です」
事業者は、4列のいちょう並木を守るための対策として「既存建築物よりもセットバックして計画建築物を配置し、いちょう並木から離隔をとることにより、生育に配慮する」としている。
しかし石川氏は、いちょうを守ることができるという科学的根拠が示されていない説明だ、と指摘する。また、野球場は、地下に40メートルの杭を打ち込むと記載されているのみで、地下に建設される構造物については、何も明らかにされていない。
石川氏は2022年8月、地下構造物がいちょうに与える影響を調べるため、1980年代に地下でトンネル工事が行われた新宿御苑の樹木を調査した。
その結果、地下構造物(トンネル)から、15メートル以内で保存した樹木は33%しか残っておらず、そのうち10メートル以内にあった樹木はほぼ残っていなかった。
石川氏は、「この調査からいちょうを守るためには少なくとも15メートルは必要だということが推測され、6メートルの場所に球場を作る現計画では、いちょうは守ることは不可能だろう」と強調する。御苑トンネル建設時には、5メートル以内にあったいちょうは、たて引きという手法で移動し、すべて枯れることがなく、江戸より300年の巨木として継承されているという。
神宮外苑の再開発では、4列のいちょう並木を守ることが前提となっており、小池百合子都知事も保全に万全を期すように求めてきた。
石川氏は「いちょう並木を守ることは、再開発の約束になっています。現状では守ることができないのですから、開発計画はストップすべきだと思います。その上で、いちょう並木の将来について、科学的な検証に基づく総合的調査を行うことが必要です」と述べる。
枯れが確認されているいちょうの一部では、地下まで水が集中的が供給される仕組みを取り入れている。
ただ、衰退が最も深刻なD評価のいちょうは飲食店が屋外に設置したテーブルに囲まれており、同様の対策は取られていない 。
いちょう並木の枯れを食い止めることはできるのだろうか?石川氏はさまざまな保全策を講じる必要があると話す。
「完全に枯れない前に、まず、水環境を早急に改善し、いちょうの保護のため、土壌改良や隣接地の環境改善等の対策が早急に必要です。炎天下の中で、いちょうが身を削って訴えています」
「枯れ始めているいちょうも、まだ、なんとかなると思います。先端部はあきらめて、中段以下をいかしていく道もあります。しかし、野球場が建設された場合は、新宿御苑の事例のように、将来的には枯死への道を歩み、いちょう並木は消滅します」
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
神宮外苑のいちょうが枯れ始めている。再開発を続ければ「枯死への道を歩む」