東京・明治神宮外苑の再開発計画に、坂本龍一さんや村上春樹さんら著名人が反対の声を上げ、見直しを求める署名が21万筆を超えるなど、抗議活動が続いています。
そもそもどんな計画なのか。何が問題視され、反対の声が上がっているのか。5つポイントで解説します。
神宮外苑は、東京都新宿区と港区にまたがる緑豊かな公園です。
東京六大学野球の開催地として知られる神宮球場、日本ラグビーの聖地・秩父宮ラグビー場、聖徳記念絵画館など、さまざまなスポーツ・文化施設があり、大部分が「風致地区」(自然的景観を維持するために定められたエリア)に指定されています。
明治神宮と日本スポーツ振興センター(JSC)、そして三井不動産と伊藤忠商事が、事業者としてこの地の再開発計画を主導。宿泊施設や商業施設、オフィス、広場などを建設し、「にぎわい溢れるスポーツの拠点」にするとしています。
具体的な計画は次のとおり(図を参照)
・神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所の入れ替えて建て替え
・高さ約185メートルと80メートルの高層ビル2棟を新設
・新神宮球場併設のホテルを新設
・伊藤忠の東京本社ビルの建て替え(今のものより100メートルほど高い約190メートルの高層ビル)
・神宮球場と軟式野球場の跡地に2か所の芝生広場を整備
一方で、次の施設が廃止となり、市民が利用できるスポーツ施設の数が減ることになります。
・神宮第二球場
・軟式野球場
・ゴルフ練習場
・バッティングセンター
・フットサルコート
東京都が2010年に外苑を再整備する構想を発表。さらに2015年に球場とラグビー場を入れ替える現行計画の構想を発表し、JSC、伊藤忠、三井不動産などと覚書を締結。小池百合子都知事が2023年2月に事業を認可しました。
工事は2023年3月に始まり、2036年に全体が完成する予定です。総事業費は約3500億円です。
再開発への見直しの声が高まるきっかけになったのは2022年2月。約1000本の樹木の伐採される計画が判明したことです。
計画見直しを求める署名活動が始まり、子どもや高校生ら若い世代も、未来の世代のためにも樹木を切らないで欲しいと訴えています。
著名人も反対を表明しています。
音楽家の坂本龍一さんが生前「貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではない」という手紙を小池都知事ら宛てに送ったほか、小説家の村上春樹さんも「一度壊したものは、もう元には戻りません」と、自身のラジオ番組で語りました。
また、小池知事が計画を承認した後、地域住民を含む市民や専門家、環境活動家らが認可取り消しを求める裁判を起こしています。
神宮外苑の樹木保全に関しては、さまざまな問題が指摘されています。
その一つが、神宮外苑のシンボルとも言える4列のいちょう並木。
事業者は、再開発で「いちょう並木は切らない」と約束しています。しかし専門家は、新しく作る野球場の壁がいちょう並木間近まで迫るため「根が傷つけられ、衰退する恐れがある」と警告しています。
神宮外苑は約100年前に、「永遠の杜」である神宮内苑の対になる「開かれた庭園」として、国民の寄付や奉仕活動によって作られました。
1926年には明治神宮に奉献され、その後「風致地区」に指定されて、良好な自然的景観が守られてきました。
今回の再開発では、風致地区の規制を緩和し、大正時代に植えられた歴史ある樹木も含む多くの木々が伐採や移植されるため、100年かけて作られてきた「日本を代表する文化的景観」が破壊されると専門家は危機感を示しています。
樹木に加えて争点となっているのが、歴史あるスポーツ施設の保存を巡る問題です。
神宮球場は1926年、秩父宮ラグビー場は1947年に完成しました。いずれもスポーツファンなら誰しもが知る、日本を代表する歴史あるスタジアムです。
事業者は「神宮球場は老朽化などの問題を抱えており、試合開催を中断せずに同じ場所で建て替えるのは難しい」として、この2つを取り壊し、場所を入れ替えて建て替える計画です。
これに対し、野球愛好家らが「神宮球場は100年の歴史ある球場であり、取り壊せば、歴史的・建築的価値が失われる」として改修を求めているほか、建築家の団体は「球場はすでに耐震補強を終え、歴史的価値があり、活用を続けるべきだ」として、このまま現地で改修する案を提案しています。
秩父宮ラグビー場は建て替えで全面屋根付きの人工芝スタジアムとなります。ラグビーの試合開催だけでなく、コンサートなど多目的利用を前提にしています。一方、ラグビーを行うときの観客の収容人数は、現状のスタジアムより約1万人減る予定です。
移転反対の署名を立ち上げた元ラグビー日本代表の平尾剛さんは「屋根付きのため青空の下で試合ができなくなる」「人工芝のグラウンドになる」「観客席が4割減る」と訴えています。
事業者は、再開発で緑の割合を25%から30%に、樹木の数は1904本から1998本に増やすとしています。
しかし、環境や都市計画の専門家は、「100年の大木と、新たに植える若木では緑のボリュームレベルが全然違う。緑の持つ効果は損なわれる」「オフィスビルのデッキの緑化や屋上緑化なども含めたもので、実際は緑の質・量ともに低下する」と指摘しています。
また、神宮外苑の再開発ではCO2排出量は、年間約4万7000トンと試算されています。
近年、木を増やすことでヒートアイランドによる死者数を大幅に減らせる可能性があるなど、都市部の樹木の重要性が研究からわかっています。
神宮外苑で調査を実施した環境保護団体は、気温上昇を抑制するためにも、神宮外苑の樹木保存が重要だと訴えています。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
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