ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍が、ウクライナ軍の大規模反撃を食い止めるため、占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発に爆発物を設置したとの情報が流れている。欧州最大級の同原発が爆発すれば、「チェルノブイリ原発事故の10倍の被害」との指摘もある。「ワグネルの乱」を受け、プーチン氏の求心力低下や、ロシア軍の内部分裂が顕在化してきた。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、敗色濃厚となってきたロシアの将来に迫った。「中国の子分」か、「国家大分裂」か…。わが国にとっては北方領土奪還の歴史的チャンスもあり得そうだ。
米国のウィリアム・バーンズ中央情報局(CIA)長官が1日、英国で講演し、「ロシアは中国の経済的植民地になる」と語った。欧米の識者たちの間では、ほぼ一致した見解だったが、CIA長官が語った点に説得力がある。
一方、かつてのソ連崩壊のように、「ロシアが再び、多くの共和国に大分裂する」という中国リオもささやかれている。いずれにせよ、目先の戦況はともかく、中長期的に見れば、ロシアが「敗北国家」に転落するのは避けられない。
ロシアの将来はどうなるのか。整理しよう。
バーンズ長官は「ロシアが中国の弟分、経済的植民地になるのはプーチンの失敗の結果だ」「戦争に対する不満は、CIAに100年に1度のチャンスをもたらした。われわれは、これを無駄にしない」などと語った。スパイをリクルートする絶好のチャンスとみているのだ。長官は4月の講演でも同様に語っていた。
ロシアは西側の経済制裁を受けて、原油や天然ガスの輸出先を中国に振り向けざるを得なくなった。中国は足元をみて昨年9月、代金支払いの半分を人民元建てにした。その結果、「ロシア経済の人民元化」が急速に進んでいる。
中国と国境を接するシベリアでは、ロシア女性が中国人ビジネスマンと結婚する例が相次いでいる。相手を紹介する結婚相談所は大繁盛だ。若い女性たちは、中国とロシアのどちらが将来有望なのかを、肌で理解しているのだ。
ロシアの若者は、戦争で死傷者が続出しているのに加えて、徴兵逃れで100万人単位で国外に脱出した。半導体など西側の先端部品は、制裁で入手できない。これでは、中国に頼る以外に経済が回っていかないのは自明である。
ロシアが中国の風下に立っているのは、3月の中露首脳会談で、プーチン大統領が、習近平総書記(国家主席)の言葉を聞き漏らさまいと、懸命にメモをとっている姿に示された。その様子は中国の国営テレビで放送され、国民は「プーチンは習主席の子分になった」と大喜びした。植民地化は事実上、始まっている。
■ロシア敗北後に民主化の可能性も
ただ、別の中国リオもある。「ロシアの大分裂」だ。
亡命したロシア人政治家やジャーナリストらによる団体「ポストロシアの自由国家フォーラム」は1月、欧州で開かれた会議で、ロシアが41の共和国に分裂する地図(1面)を公開した。それによれば、米国の星条旗そっくりの旗を掲げた「シベリア合衆国」や「バルチック共和国」「ウラル共和国」などが描かれている。
ロシアの辺境では「資源はオレたちの地下に眠っているのに、モスクワの一部の人間が富を独占している」という不満が強まっているのだ。
いま獄中にいる反体制活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏は昨年9月、米ワシントン・ポストに寄稿し、「ロシアが議会制共和国に生まれ変わらない限り、欧州に真の平和は訪れない」と訴えた。「戦争の根本原因は独裁体制だ」という主張である。
ロシアが民主化されない限り、西側は経済制裁を解除しない。かつての日本やドイツが戦争に負けた後、民主化された歴史も踏まえれば、敗北後のロシアが民主化に向かう可能性もゼロとはいえない。そうなれば、北方領土返還の可能性も出てきて、日本には大チャンスである。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ)
https://news.yahoo.co.jp/articles/7c0ce42acd7227b2a0c07956576e84ceb52b2665
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