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2023年上半期に反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:4月27日)
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4月23日に投票があった統一地方選で、選挙カーから大音量での連呼をせずに当選した女性がいる。
候補者名を連呼して住宅街を走る選挙カーには、以前から批判的な声が有権者から出ている。
しかし、この手法が集票につながると考える陣営がほとんどだ。
なぜ、女性は当選への大きな武器を自ら封印したのか。そこには、自身の子育て経験から導き出した理由があった。
「初めての選挙で不安はありました。音を出さないことについては、支援者の方もとても心配していたと思います」
立憲民主党の新人・宮崎けい子さん(33)は26日、取材にこう話した。
東京都豊島区出身の宮崎さんは、23日に投票が行われた豊島区議選で3029票を集め、初当選した。
早稲田大学を卒業後、大手航空会社やOA機器メーカーなどで勤務し、2022年9月に政治の世界に足を踏み入れた。
きっかけはポストに入っていた議員募集のチラシだ。
定年後に区議を目指していた父が志半ばで亡くなったことが頭によぎり、思い切って電話した。
ただ、当初は「話を聞いて帰ろう」と思っていた。2019年1月に長男が生まれ、子育てと仕事の両立にも悩んでいたためだ。
しかし、面接で「子育てなど経験に基づく悩みを解決できる」「お父さんの思いを引き継いでほしい」と背中を押され、決心した。
「家族は第一。その上で、子育てをしながらでも選挙を戦えることを証明したい」
それから半年後に控えた豊島区議選に向け、朝の駅前に立ち、通勤する人々に挨拶を繰り返した。
区議選の場合、自らに投票を呼びかけることができるのは、選挙が始まることを公式に知らせる「告示日」から7日間(=選挙期間)だけ、と公職選挙法で定められている。
それ以外の期間は、「投票をお願いします」という言葉は封印し、有権者に顔と名前を覚えてもらったり、自分の主張を知ってもらったりするために活動するのだ。
12月、1月、2月……。選挙期間が近づくにつれ、顔を覚えてもらったり、有権者から声をかけられたりすることも増えた。
支援者らも「ウグイス嬢を2人は雇わないと」「選挙カーで回る地区はここで」と、お祭りムードのように色めき立ち、期待の大きさを感じた。
しかし宮崎さんはここで、ある決断を伝える。「選挙カーによる『音出し』は、しません」
「音出し」とは、選挙カーから大音量で候補者名を連呼し、「がんばっております」「よろしくおねがいします」「ありがとうございます」などと有権者に呼びかけることをいう。
ほとんどの候補者が行う、選挙の基本といえる。当然、支援者らは反対した。
「新人だから名前を覚えてもらわないと」「あなたの音が全く聞こえないのはどうなのか」
それでも宮崎さんは意見を曲げなかった。
生活空間である住宅街を走る機会が多い選挙カーからは、一切の音を出さない。
繁華街や駅前など、もともと人通りが多くにぎやかな場所では、自ら拡声器を使って演説する。
今回の区議選では、こういう手法で行きたい、と支援者らを説得し、「名前の連呼ではなく、政策で有権者に判断してもらいます」と伝えた。
宮崎さんは、なぜこのような決断をしたのだろうか。それは、4年前に行われた前回の豊島区議選がきっかけだった。
3か月前の2019年1月に長男が生まれた宮崎さんは、自宅で初めての育児に追われていた。
昼夜問わず2、3時間おきに起き、起きている間は立った状態で抱っこしなければ泣いてしまう。寝ている間も小さな命が心配で気持ちが休まらない。
「子育てがこんなにきついとは思わなかった」。睡眠不足に陥り、手首はけんしょう炎になった。
体力、精神的にも限界だったが、豊島区議選が始まった。選挙カーが大きな音で候補者の名前を連呼し、自宅前を通り過ぎていく。
その度に、ようやく寝かしつけた長男が起きてしまい、自分も寝られなくなった。
「早く選挙終わってくれ。頼むから」。これまで欠かさず投票に行っていた宮崎さんだったが、この時だけは投票に行くことができなかった。
宮崎さんは今回、選挙カーの側面に「生活に配慮し選挙カーから音を出しません」という文字を貼り付けた。
支援者から「音が鳴らなければベランダから手も振れないよ」と電話もあったが、選挙カーが信号で止まるたびに「いいね!」と道行く人から声をかけられた。
SNSでも、子育て世代や家族の介護をしている人などから「投票したよ」「気にかけてくれて感動した」とDMが届いたという。
名前を連呼する別の候補者の選挙カーを見ると、やはり不安はあったが、街を徒歩や自転車で歩き回り、戦い抜いた。
4歳の子育て中の自らも「子どもファースト」を掲げ、選挙期間最終日とその前日を除く5日間は午後6時半までに選挙活動を終えた。
それでも定数36人中7位という好成績で当選した。父の墓参りにも行き、議員になることを報告した。
宮崎さんは「選挙カーから音を出さない決断は勇気のいるものでしたが、街を歩いて対話したり、政策に共感したりしてくれた人が選んでくれたのだと思う」と話した。
その上で、次のように語った。
「根性論のような古い選挙の手法ではなく、工夫をすれば、女性でも、子育て中の人でも、選挙に立候補できることを証明できました」
「産後に辛いこともありましたが、自身の経験から導き出した政策を提案し、より良い地元をつくっていきたいです」
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
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