国会、江戸時代に戻る〜萎縮を狙った「見せしめ」としての懲罰

入管法改正/取材に応じるワヨミさんとポールニマさん=2023年6月8日

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6月9日、入管法の改悪が参議院本会議で可決、成立した。 

この連載でも触れてきたように、そもそも立法の根拠が崩壊していることが明らかになったにもかかわらず、外国人を見殺しにするような恥ずべき法案が、である。

私の知る外国人の中には、「この法案が成立して強制送還されるなら自殺する」と口にする人もいる。すでに難民申請は3回目が却下されている彼は今、どれほどの恐怖の中にいるだろう。 

日本にいる多くの人にとって、この法案が成立しても生活にはなんの影響もないかもしれない。しかし、コロナ禍の3年間、多くの外国人困窮者と出会う中で、彼ら彼女らは私にとって「ともに活動する仲間」になっていった。

最初は「支援される側」だった外国人が、今や相談会や現場には欠かせない存在になっているのだ。通訳をしてくれたり、料理やお茶を振る舞ってくれたり、最近では出張「難民・移民フェス」で毎月のように一緒に時間を過ごす。

彼らと過ごすようになって、私はニュースで見る国際情勢や教科書で読んだような歴史の話が一気に身近になった。軍事政権や独裁、民族差別といった問題が、報道で知る遠い国のものではなく、「昨日一緒にご飯を食べた〇〇さん」の話になった。そしてその人が今日本にいるのは、まさにそういう理由によってなのだ。

そんな彼ら彼女らの命を危険に晒す入管法改悪。

多くの人が反対の声を上げ、全国にアクションが広まり、再び廃案になることを期待していた。しかし、それは叶わなかった。

そんな入管法改悪が成立する過程で、ある国会議員に懲罰動議が出ている。

それはれいわ新選組の山本太郎議員。

6月8日、参議院法務委員会での採決を阻止しようとダイブした映像は多くの人が見ているだろう。これまでの強行採決の現場でも幾度も目にしてきた光景だ。しかし、これで打撲したと自民党の二人の議員が主張。このことによって懲罰動議が出されたのだ。

懲罰動議を提出したのは、自民、公明、維新、国民民主、そして立憲民主党。

現在、この懲罰動議にはいくつかの反対声明が出されているが、懲罰と聞いて思い出すのは先日逮捕されたガーシー議員だ。2月、国会欠席を続けるガーシー議員に対する「議場での陳謝」を科す懲罰が与野党の賛成多数で可決したわけだが、れいわ新選組は棄権している。そのことについて、れいわは声明で以下のように述べている。

「今回のことをきっかけに近い将来、国会の大きな政党間の恣意的な運用で、気に入らない議員や党を処分、排除など行える入り口となることを危惧するからである。私たちは、国会の多数決で排除する行為には最大限の慎重さを求める」

この声明から3ヶ月後、れいわのくしぶち議員は衆議院本会議で「与党も野党も茶番!」というプラカードを掲げたことで懲罰の対象となり、登院停止10日間という重い処分を受けている。

そして4ヶ月後にはれいわ代表である山本太郎議員への懲罰動議というわけだ。

声明で危惧した通りのことが起きているではないか。そしてその懲罰動議に立憲民主党までもが参加していることに、私は疑問を禁じ得ない。こんなことがまかり通れば、どんな無法な強行採決がされようとも野党は手も足も出ない、ということになっていくのではないか。

自らの首を絞めるようなことを、なぜ率先して進めようとしているのか。これこそまさに「新しい戦前」を象徴するような光景と思うのは私だけではないだろう。

それでも法務委員会に所属していない山本太郎があんなことをするなんてトンデモないという声もあるだろう。それでは、あの場で人間かまくらを作っていた自民党議員たちはどうなのか。法務委員会に所属していない自民党議員が大勢あの場に乗り込み、強行採決のために委員長を囲むバリケードを作っていたことは問題ないのだろうか。

いや、そもそも立法根拠がここまで崩れている法案を成立させることの方がよほど問題だ。そして法案が成立したことで、強制送還される人々は打撲どころではなく、命を奪われる可能性に直面しているのだ。

このような懲罰をまかり通らせて与党側が狙うのは萎縮だろう。でも、「気にくわないものは見せしめとして懲罰」って、なんか江戸時代とかそういう昔の話じゃなかったっけ?

と思ってネットで検索してみると、田中優子さんの「見せしめと萎縮」という記事が出てきた(「田中優子の江戸から見ると」)。
市中引き回し、斬首のあとその首をさらしておくなど江戸時代の処刑の一部は「見せしめ」刑で、見せしめの効果は「もちろん萎縮である」ということだ。なんか、入管法だけでなくLGBTや同性婚に対する風当たりの強さなども含め、最近、著しく時代が逆戻りしてないか?

一方、与党が太郎氏を気にくわないのはよくわかる。

この強行採決の前日、6月7日の憲法審査会で、太郎氏は緊急事態条項は火事場泥棒的行為としつつ、歴代の自民党政権幹部の危機意識がいかに低いものであったかを露呈した。以下、質問からの引用だ。

「例えば、歴代自民党政権の幹部は、災害、ミサイル発射という危機時に自らの選挙運動を優先、さらにはゴルフや酒盛りで遊びほうける常習犯であった。
一昨年10月19日、衆議院選挙中、北朝鮮がミサイル発射。岸田総理と官房長官は選挙応援で都内不在。危機管理よりも選挙を重視していると批判される。特に岸田首相は、第一報を受けた後、さらにもう一ヶ所、仙台の演説会へ。すぐ電車に飛び乗れば、あと2時間早く東京に帰れた。
安倍首相は、2019年7月25日から29日まで夏休みを取得。その初日、北朝鮮がミサイル発射。その約1時間後に別荘を出発、ゴルフ場へ。
2018年6月28日から7月8日にかけての西日本豪雨真っ只中の7月5日、議員宿舎で開かれた酒盛り、赤坂自民亭には、安倍首相、岸田政調会長、小野寺防衛相も参加。官邸で関係省庁の情報を集め指示を飛ばすべき役割の西村官房副長官は、5日の午後10時過ぎ、宴会の写真をツイッターに添付。和気あいあいの中、若手議員も気さくな写真を撮り放題、まさに自由民主党とツイート。
2014年8月20日、広島市集中豪雨への迅速な対応が求められる状況で、安倍総理は午前8時頃からゴルフを始め、午後9時20分頃までプレー、東京の官邸に到着したのは11時頃。緊張感、責任感、危機管理という言葉とは無縁の者たちのオンパレード」

まぁ、こういう「事実」を口にするから潰したいのだろう。

そんな自民党の危機管理のなさと言えば、統一教会とズブズブという点で言わずもがなだ。が、現在も統一教会と関係ある議員が大勢、何事もなかったような顔をして議員の席に座り続けている。 

そんな人々が、自分の気に入らない者にどんどん懲罰を科すような世界。それが社会に対してどんな波紋を及ぼすのか、それが回り回って自分の首を絞めるものになりはしないか、懲罰に賛成という人にこそ、今一度、考えて欲しい。

(2023年6月14日の雨宮処凛がゆく!掲載記事『第638回:国会、江戸時代に戻る〜萎縮を狙った「見せしめ」としての懲罰〜の巻(雨宮処凛)』より転載)

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