「自分に自信がない」不安とどう付き合う?前へ進むには?ジェーン・スーさんに聞く

ジェーン・スーさん

自分に自信がないーー。    

この心許なさを飼いならす女性は、少なくないのではないだろうか。 

コラムニスト、ラジオパーソナリティとして女性たちから絶大な信頼があるジェーン・スーさんの最新刊となるインタビュー集『闘いの庭 咲く女  彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)でも、この感情がありながらも、目の前の仕事と向き合い、自らを鼓舞し、一生懸命コツコツとやり続ける女性たちが登場する。

たとえば、田中みな実さん。

「自分から発信したい情報はひとつもない。(中略)自分という人間にそこまで自信を持てないし、自己評価は低めです」と自身を評し、「人に評価されている状態が、自分の好きな自分なんです」と語る。活躍の場の1つである俳優業で芝居をしている最中だけが、自身を俯瞰する視点が消え、解放できる感情があるようだとジェーン・スーさんは観察する。

あるいは、吉田羊さんも、凛とした佇まいからは想像のできない、緊張しやすい性格と自己肯定感の低さを吐露している。

役者を離れたときの本名のほうの彼女は、「自分はごまかして、だまして生きている」と自身の優れた能力に懐疑的。手ごたえのある仕事を成しても、それが払拭されることはないと明かす。そうやってネガティブになる自分自身に自信を与えている唯一の存在が、演劇に携わる吉田羊であるという不思議な構造も、彼女が紡ぐ言葉から浮かび上がってくる。

「自らの夢をつかみ取った女性たちのサンプルを増やし、それが世間の目に触れることで女性たちの当たり前を変えられる」。

本書を出版した経緯をそう語ってくれた前編に続き、ジェーン・スーさんに、女性が自らの人生の舵を手放さないためのヒントを聞いた。 

ジェーン・スーさん

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。コラムニスト、作詞家、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ『ジェーン・スーの生活は踊る』、Podcast番組『ジェーン・スーと堀井美香のOVER THE SUN』『となりの雑談』などのパーソナリティとして活躍中。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で第31回講談社エッセイ賞を受賞。『おつかれ、今日の私。』など著書多数。

ジェーン・スーさん

やりたいことをやるために、人の期待に200%応える

田中みな美さん、吉田羊さんが、自分に自信がないところからどのようにして、道をつくり、いまの場所に辿り着いたか。それは彼女たちの言葉で語れるところでしかなく、代弁することはできません。本に書いたことが、私に見えた一側面であるというだけです。  

ただ、自分自身を自分の手でつかみ取ったおふたりも含めて、みなさんに共通しているのは、自身のやりたいことをやるために、人の期待に200%応えてきたということ。200%で打ち返し成果を上げるために、十分な準備をし、手を抜かない。そうやって次の扉を開いていらっしゃったんですね。

そのためには、人が自分に期待していることは何かを、きちんと察知して分析する能力が必要なのだと思いました。この能力はもともと持っていたというよりも、鍛えたのでしょう。お話をうかがった13人の方は接点もないのに、通底していることがあるのだなと、感慨深いものがありました。  

ーー誰かの期待に応える先に、自分の人生をつかむ未来がある? 

説明がとても難しいのですが、「誰かの期待に応えること」だけに自分の価値を見出してしまうと、人に好かれないといけないとか、人の機嫌を損ねないように振る舞うほうに、いってしまいます。そうではなくて、やりたいことを選択できるようになるために、仕事では相手のニーズに応える。

つまり、発注してきた相手がなにを欲しているかを正確に察知し、求められる以上に相手が満足できるものを提供するということです。これは、やりたくないことに「NO」と言えるようになるためにも必要なことなんです。

他者の時間やお金と、自分が提供できるものとを交換するのが仕事ですから、自分がどれだけ相手想いになれるかどうかは、すべての仕事において求められる力です。お話をうかがったみなさんは共通して、そこに長けていると感じました。 

ーーどれだけ相手想いになれるかが、自分の居場所を見出すことにつながるとは、おもしろいですね。

「自分の人生を生きる」と言っても、そこには常に他者の存在があります。他者がいないところで成功する人なんて、一人もいない。自分のやりたいことをやるにあたって、協力してくれるのも、無視をするのも、道を阻むのも他者。他者が介在していない人というのは、ありえないんですよね。

ーー13人に共通して投げた質問はあったのですか?

ありませんでした。個々に合わせて、お話をうかがいました。インタビューの準備としては、編集者に協力してもらい、雑誌等のインタビュー記事を多く集めてもらいました。加えて、一条ゆかりさんは漫画作品を読み、野木亜紀子さんは野木さんが脚本をお書きになったドラマを観て、北斗晶さんは女子プロ時代の『Number』読むといったことをしたら、聞きたいことはバラバラになっていました。

インタビュー資料を読むと、ご本人たちが多く語っている、本人を形づくるうえで非常に重要なエピソードやトピックがわかります。そこだけになってしまうと、もったいないなと思いました。

一方で、彼女たちのエピソードを初めて知る読者もいる。不親切にならないよう、本人の輪郭となる要点は押さえつつ、そのうえで彼女たちの話をすべて読んだことがある人にとっても新鮮なエピソードをうかがえたらとは思っていました。結果的にそういう話をみなさんしてくださったのは、よかったところです。

ストーリーテラーに徹した「私が感じた、彼女の話」

ーー書くときに気をつけたことは?

私はプロのインタビューアーではないですし、ドキュメンタリーやノンフィクションに携わる記者さんやライターさんのインタビュー力や、構成力はありません。だからこそ、ストーリーテラーとしての役に徹しようと考えました。

本に書いてあることにウソは1つもないけれど、聞いた話の、どことどこをピックアップして、どういう語りにするかは私の主観が入っています。「私が感じた、彼女の話」ですね。「インタビューエッセー」という担当編集者が創り出してくれた新しいジャンルが、しっくりきています。

ーー13人それぞれの選択や言動から、「決してあきらめずに、自分を信じる」その具体的な方法がわかり、背中を押してもらえるような読後感がありました。

ありがとうございます。13人のエピソードから、「こうやれば扉は開くんだ!」「ないと思ったところでもドアができるんだ!」と感じるか、「私は、ここまではできない……」「それに比べて私は……」と打ちひしがれるかは、書き手がコントロールできることはないのでうれしいです。

私は、自分が書いたり話したりすることで、誰かの自信をつけたいとか、誰かの背中を押したいとは、まったく思っていません。相談番組もやっていますが、「背中を押してください!」との期待には一切応じず「押しません」と返します(笑)。

それは、「ジェーン・スーがこう言ってたから」と鵜呑みにされ、結果的に他者を思考停止に陥れるようなことをしたくないからです。自分の頭で考えるのって、とても大切だと思うから。一方で13人の女性たちの話を読み、自発的に自分もがんばろう、読んで良かったなと心が動いたとしたら、筆者としてこれ以上の喜びはないですね。    

(取材・文:平山ゆりの 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版

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