もっと読みたい>>リスキリング(学び直し)に取り組む人は約7割。企業側が身につけてほしいITスキルTOP3とは?
就活生の約8割は、「エントリーシート(ES)の対策が不安」ーー。
就活サイトを運営するワンキャリアの調査によると、ESに関する不安の要因のうち、「書き方がわからない」が82%。ESの「中身」よりも「書き方」に悩む就活生の現状が浮かび上がってきた。
ワンキャリアで今回のプロジェクトでプロジェクトマネージャー(PM)を務める勝又瑞稀さんは自身の就活を振り返り、「本来は企業ごとの質問に対して、自分の強みの伝え方を考えてESを作成すべきだったけれど、時間も限られていることもあり、同じ文言を使い回していました」という。
そこで自身の体験や就活生の生の声を元に勝又さんらが開発したのが、AIを活用したES作成ツール「ESの達人」だ。5月17日にベータ版をリリースすると、「こういうツールを待ってた!」など反響が広がった。
「AI就活元年」の始まりの一つになるであろう「ESの達人」、その開発の舞台裏に迫った。
「ESの達人」のページを開くと、チャット形式の画面が表示される。「まずは書きたいトピックを教えて下さい」と質問され、「部活」「サークル」「アルバイト」などいくつかの選択肢が並ぶ。
例えば「アルバイト」を選ぶと、「アルバイトではどんなことをしましたか?」「アピールしたいポイントはなんですか?」「志望する業界は?」などの質問が続く。
最後に文字数を選択するだけで、ESの文章が生成される。
ChatGPTに加え、ワンキャリアがこれまで蓄積してきた約15万件のESのデータも取り入れられており、それだけで十分整った文章が生成されるが、勝又さんがこだわったポイントはその後。
その下には、ワンキャリアで公開されている志望する業界の先輩たちのESがいくつも表示される。AIが作ったESの「叩き台」を元に、さらに自身でブラッシュアップしていく仕組みだ。
多くの人が同じツールを使うことで、似たような文章が増えてしまわないのだろうか?
聞くと、「自動で生成される文章のパターンは入力した内容によって多岐にわたりますし、AIが作った文章をそのまま使うのではなく、自身の体験をさらに書き加えたり、過去の事例も見ながらブラッシュアップして使っていただくことが前提です」と勝又さんは説明する。
チャットの最後には、志望する業界の説明会などの情報も表示されるなど、ESの作成をAIが手伝うだけに終わらず、就活をさらにスムーズにするデザインになっている。
これは、コロナ禍が明け、オフラインの説明会を増やしつつある一方、オンラインに比べエントリー数の減少に悩む企業にとっても嬉しい機能だ。
「企業側からも『採用も変わっていかないといけないよね』など、ポジティブな反応をいただいています」
ChatGPTが登場してすぐ、ワンキャリア社内では、「ChatGPTを使わない手はない。AIで就活がかわる。いち早くやろう」と動き出した。
プロジェクトチームができ、マネージャーを任された勝又さん。「正直、緊張というか、プレッシャーはありました」と話す。
「ChatGPTの技術的なところとワンキャリアの独自性を考えた上で、どんなユーザー体験を提供できるか。UI・UXの設計やデザインを作り、研究開発チームやエンジニアと連携しながら作り上げました」
特に大変だったのは、ESの生成速度がどうしても遅くなってしまうことだった。「ユーザーにストレス与えずに使ってもらうにはどうすればいいか、試行錯誤しました」
プレッシャーを感じながらも「ESの達人」をリリースするまでやり切れた背景には、「今ないサービスを作りたい。就活で自分も悩んだ。市場を変えて、仕事選びの価値観をアップデートしたい」という思いがあったからだった。
勝又さんは過去、親とのコミュニケーションに苦労したという。「親自身も子どもへの接し方がわからなかっただろうし、私もそれを知らずに反抗的だったと思います」と当時を振り返る。
「“親”って親になる勉強をしてなるものでもなく、急に”親”になる。親子のすれ違いになる要因を本質的に解決したいなと思っていました」
そこで「人と人との関係性を作る事業に携わりたい」と考え始めた勝又さん。
就活では、「業界を変える可能性がある」事業かどうかも軸に企業を探した。
今は「AIによる就活のアップデートが業界を変えることにもつながる」と考えている。
ワンキャリアでは今後、「ESの達人」の精度を上げていくだけではなく、企業や業界研究、自己分析などにもAIを活用できるツールを計画しているという。
「就活の“お作法”を上手にこなすことに力を使うのではなく、自分がやりたいことやキャリアのことを考え、“内容”をどうするかに集中した方が、学生にとっても企業にとっても、より本質的な就活になると思うんです」
ESの書き方から面接の受け答えまで、様々な「就活マニュアル」が世に溢れている。その「マニュアル」を大量に読んで「就活上手」になることに多くの時間を費やさざるを得なかった人も多いのではないだろうか。
しかし、本当に大切なことは、様々な体験を通して自身と向き合い、社会や企業を知ること。
「AIを上手に活用して、学生が就活で困っていることを解決して、仕事選びの大切な意思決定に時間を使えるようにしていきたい」
勝又さんはそう願っている。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「AI就活元年」で、就活はもっと“本質的”に。25歳が開発した、AIとエントリーシートを作るツール「ESの達人」の舞台裏