「ウクライナも広島のように復興したい」ゼレンスキー大統領が日本で語った平和への想い(スピーチ全文)

G7サミットにあわせて、5月20日に広島を電撃訪問したウクライナのゼレンスキー大統領。滞在中には平和記念資料館を視察したほか、原爆死者慰霊碑に献花した。

そして、5月21日夜に開かれた記者会見では、平和記念資料館にある「人影の石」に言及して、平和を訴えた。

1年以上戦争が続くウクライナから訪日したゼレンスキー氏は、80年近く前に原子爆弾が投下された広島で何を見て、何を語ったのか。

ウクライナ大統領府広報室が公表したスピーチ全文を紹介する。

記者会見したゼレンスキー大統領(2023年5月21日)

ゼレンスキー大統領のスピーチ

ご参列されている皆さん。日本の皆さん。そして平和を尊重する世界中の皆さん。

 私は「人影の石」になりかねなかった国から来ました。

しかし、勇敢なウクライナの人々が、戦争そのものが影となるよう歴史を変えました。

私は世界には戦争の居場所はないと信じています。人類はその長い道のりの中で、血が流れる対立で多くの命を失いました。

死は時に空から舞い降り、時に海からやってきました。放射線が死をもたらし、人々が互いを死に至らしめました。

人類の歴史は、戦争なしには考えられないと言う人もいます。しかし私たちは、戦争こそ人類の歴史からなくなるべきものだと訴えています。

ウクライナは、戦争破壊の中心に置かれています。侵略者は私たちの土地にやってきました。しかし彼らが征服したいと望んでいるのは、我々ウクライナ人だけではありません。ロシアはウクライナ人など存在しない、と世界に嘘をついています。

ウクライナの人々がこれほど勇敢でなければ、ロシアによる虐殺は成功し、ウクライナの影、すべての国民の影だけが残されていたかもしれません。影だけです。

しかし、ウクライナ人は限りなく勇敢で、限りなく自由を愛する人々であり、生き続けます!自由に生き続けるのです。

広島の平和記念公園を訪れ、岸田首相と話すゼレンスキー大統領(2023年5月21日)

ロシアが使用しているのは核兵器ではありませんが、爆弾や砲撃で焼け落ち、廃墟になったウクライナの都市は、平和記念資料館で目にした光景と似ています。

平和記念資料館を訪れる機会を与えていただいたことに心より感謝します。歴史を通して皆さんが見てきたのは、普通に生活できたはずの何千もの命や家族ではなく、灰だけが残された風景です。街の代わりに焼けこげた荒地が広がり、家の代わりに瓦礫が残されました。

そして今、広島は復興しました。私たちも、ロシアの攻撃で廃墟となったすべての都市や、無傷の家が一軒もない村を復興したいと夢見ています。

私たちは領土を取り戻したいと夢見ています。占領されたウクライナ北部の領土を取り戻したように、東部と南部も取り戻さなければなりません。

また、現在ロシアの捕虜となっている人々も取り戻したい。その中には、戦争捕虜や民間人、追放された大人や拉致された子どもたちが含まれます。

私たちは勝利し、その後に平和が訪れることを夢見ています。

しかし、その実現のためには、この侵略者だけでなく、戦争そのものに対する野心も敗北させなければなりません。これは世界中すべての人にとって重要なことであり、私は一致団結を呼びかけるウクライナの声が、ここから世界中に届くようにするために広島にいます。

ロシアは文明的なもののすべてを踏みにじりました。彼らは私たちにとって、そしてヨーロッパにとっても最大の原子力発電所を1年以上も占拠しています。ロシアは世界で唯一、原子力発電所を戦車で砲撃したテロリスト国家です。

原子力発電所を、兵器や弾薬の貯蔵庫として使用した例は他にありません。ロシアは原子力発電所を盾にして、ロケット弾を私たちの街に発射しているのです。

もしこれまでのロシアの戦争犯罪を無視する人がいても、今も(続く)このような人道に対する罪は、間違いなく全ての人を行動に駆り立てるはずです。

私たちは、1986年のチョルノービリ原発事故を生き延びなければならなかったから立場からそう訴えています。私たちの土地の一部は、今でも閉鎖や立ち入り禁止区域になっています。想像してください、ロシアの軍隊は、この区域を通って進軍してきたのです。彼らはソ連時代に放射能汚染物質が埋められた森の中で、塹壕を掘っていました。

もし、ロシアの不正で愚かな行動が何の結果も被ることなく放置されるのであれば、世界は荒廃を免れません。国の要職に就く他の犯罪者たちが、同様の戦争を始めようとするのは時間の問題です。

もし占拠された領土のほんの少しでもロシアに与えられてしまうのであれば、国際法は二度と機能しなくなるでしょう。

原爆死者慰霊碑に献花したゼレンスキー大統領と岸田首相(2023年5月21日)

ウクライナは「平和のフォーミュラ(和平案)」を提案しています。これは公平で現実的な内容で、まず最初に放射能と核の安全を訴えています。

ロシアは放射能と核を使って世界を脅迫することをやめ、占拠している原子力発電所をウクライナとIAEA(国際原子力機関)の完全な管理下に置かなければなりません。

平和のフォーミュラは合計で10項目あり、それぞれが国連決議で採択されています。そしてこの10項目には、私たちの国に対するロシアの戦争を終わらせるために必要なすべてが含まれています。

しかしそれだけではありません。平和のフォーミュラでロシアの攻撃的な野望を止めて侵害された安全を回復することで、もう一つ達成できることがあります。

それは、侵略する可能性のある他の人たちを無力にさせることです。戦争を望む者たちは、世界が団結して平和を守ると決意するのを見ることで、戦いは無意味だと思えるようになるでしょう。

これまで、侵略者を止められる平和のフォーミュラはありませんでしたが、ウクライナが提案しました。

これは世界を戦争から救うための提案です。実現するために、私たちは団結し、ロシアを最後の侵略者にしなければなりません。ウクライナへの侵略に打ち勝った後に、平和だけが君臨するようにするためです。

私たち人間の文化や視点、国旗は異なります。しかし、私たちは皆、同じように自分や子ども、孫たちの安全を望んでいます。万が一にもあってはならないことですが、戦争が起こった場合、私たちの命は同じように灰になってしまいます。

戦争が歴史の石に影だけを残し、それが平和記念資料館のみで見られるようにするために、世界中の誰もが、可能な限りのことをしなければなりません。

世界中の人々は、他の国々を尊重しなければなりません。

国境を認めなければなりません。

正義を守らなければなりません。

命を大切にしなければなりません。

平和を自らの責務として受け止めなければなりません。

広島の皆さん、街に青と黄色の旗を掲げていただきありがとうございます。ウクライナの旗は、自由と命への信念で、私たちを信頼してくれている証しです。ありがとうございます!

日本と岸田文雄総理大臣、すべての日本の皆様のありとあらゆる支援に感謝します!

そして戦争の犠牲者すべてに永遠の追悼を捧げます。

平和が訪れますように!

ウクライナ万歳!

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「ウクライナも広島のように復興したい」ゼレンスキー大統領が日本で語った平和への想い(スピーチ全文)

Satoko Yasuda