あわせて読みたい>>現行法の「夫婦」を「婚姻の当事者」に。同性婚実現に向け、弁護士らが“婚姻平等マリフォー法案”発表
◆
前首相秘書官が性的マイノリティについて「見るのも嫌だ」などと差別発言したことをきっかけに、「LGBT差別禁止法」などの法整備を日本政府に求める動きが、当事者だけでなく企業や海外からも強まっている。
3月には経団連の十倉雅和会長が、法整備の遅れについて「恥ずかしい」と指摘。自民党は4月28日、「LGBT理解増進法案」の議論を本格化させたが、「差別は許されない」との条文に異論が相次ぎ、意見集約すら見通せない状況だ。
同日、当事者支援団体などが東京都内で開いた記者会見で、『公益社団法人Marriage For All Japan ―結婚の自由をすべての人に』の松中権理事は、「法律制定が拙速だと言ってるのは自民党だけです。LGBTQ当事者の命を守る法律を、一刻も早く作ってほしい」と訴えた。
当事者団体などは2月の差別発言を受け、5月のG7広島サミットに向けて、「LGBT差別禁止法」、「結婚の平等(同性婚)」、「性同一性障害特例法の改正または新設」の3つの法整備を政府に求めてきた。G7で性自認や性的指向による差別を禁ずる法律や、同性カップルの法的保障がないのは日本だけ。
『LGBT法連合会』によると、2月からの一連の動きについて、支援団体が中心に声を上げてきたこれまでと異なるポイントが3つあるという。
1つ目は野党だけでなく与党内部からも、批判が強まっていること。公明党の山口那津男代表は3月14日、LGBT理解増進法案について「自民党が後ろ向きで恥ずかしい」と述べた。
2つ目は自民党の支持層を含む経済・労働団体からも声が上がることだ。2月17日時点で日本コカ・コーラなど13企業が、政府に対して3つの法整備を求めることに賛同した。経団連の十倉雅和会長は3月20日、「(世界では)理解増進ではなくて差別を禁じ、同性婚を認める流れにある」と指摘。4月27日には、経済同友会の新浪剛史・新代表幹事が「LGBTQ+は、人間の尊厳に関わるテーマだ」とし、多様な価値観を認めあう社会づくりに真っ先に取り組むと表明した。
3つ目は海外からも声が届いていること。東京新聞によると、3月16日までにG7のうち日本を除く“G6”と欧州連合(EU)の駐日大使が連名で、性的マイノリティの人権を守る法整備を促す岸田文雄首相宛ての書簡を取りまとめた。また3月にLGBTQ当事者の人権保護を促進する国際団体『Pride7(P7)』が設立。4月21日には、G7や「グローバルサウス」の支援団体などと作成した提言を、森まさこ内閣総理大臣補佐官(LGBT理解増進担当)に提出した。
差別発言から約3か月がたった4月末、自民党は重い腰を上げ、「LGBT理解増進法案」の本格的な議論を始めた。本来、差別を受けている当事者を守る法整備が期待されているが、東京新聞によると、理解増進法案の「差別は許されない」という表現を「不当な差別は許されない」に後退させた独自の法案を5月前半にも国会提出する方向で調整に入った。
理解増進法案をめぐっては、2021年の超党派議員連盟の合意案は自民党だけが了承を見送っている。合意案とりまとめの中心となった稲田朋美元政調会長は28日の会合後、「2年前とほぼ同じような反対意見だった」と述べた。
『公益社団法人Marriage For All Japan ―結婚の自由をすべての人に』の寺原真希子共同代表は「判例や学説上、差別とは『合理的な根拠に基づかない区別的な取り扱い』を指します。ですから、法的には『正当な差別』は存在しません」と指摘。「『不当な差別』という言葉で保護すべき対象を実質的に狭めようとしているのは、誤解なのか、それとも抜け道を残したいということなのか、勘繰ってしまいます」と話す。
毎日新聞によると、同日は保守系議員から、「トランスジェンダー女性」のトイレ使用などを巡って女性が不安を感じるとした上で、法案に反対する意見があったという。こういった主張は近年、インターネットを中心に広がっているが、専門家らは誤りだと指摘してきた。
『LGBT法連合会』の神谷悠一事務局長は「性的指向や性自認に関する知識が足りていない」とした上で、「統計的に明らかになっていること、法的に整理されていることなど、事実に基づいた議論をし、一刻も早く人権を守る法整備をしてほしい」と訴えた。
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「正当な差別は、法律上存在しない」自民党のLGBT法整備の遅れ、経団連や弁護士からも非難の声