「安くて美味しい」だけでは先細りーー。
2022年の日本の出生数は、初めて80万人を割った。急激に進行する少子化に、未来はどうなるのかと不安を抱いた方も多いのではないだろうか。
大手食品メーカーが参画し、4年前に誕生した食の共創コミュニティ「Food Up Island」(以下、FUI)は、人口減少時代という難しい局面を、ライバル企業同士が手を取り合うことで超えていこうとしている。
事務局の株式会社SEE THE SUNは、森永製菓発のベンチャー企業。その代表を務めているのが、金丸美樹さんだ。
「消費者にとって、安くて美味しいことはもちろん大切。戦後の食糧難の時代から、企業は努力をして、技術革新を重ねて、安くて美味しいものをたくさん作れるようになった。だけど、どの会社の人も『市場が縮小する中で、このままコスパを求めて競争し続けても、疲弊していくだけだ』と、もうわかっているんです」
ライバルメーカー同士の終わりなき「コスパ競争」という争いを止めるには、メーカー同士が手を取り合う食の「国連」が必要なのではないか…。そんな発想から、FUIは生まれた。
これまで、森永製菓で広告や新規事業開発を担当してきた金丸さん。2017年に創業したSEE THE SUNで初めて手がけた商品は、プラントベースフードの7商品だった。サステナブル志向の新商品として話題にもなり、多くのメディアでも取り上げられた。
しかし、当初の計画通りには売れなかった。そこから学んだことが「ワクワク」の大切さだった。
「食べ物の一番難しいところは、思想だけですぐ多くの人が買うようにはならないこと。食は本能という面があります。『美味しい』って、体が喜ぶものでないとすぐには売れない。そして、新しい食が普及するのには、時間がかかるということ。一時の流行ではなく、文化を変えることに取り組んでいかないといけないなと思ったんです」。
本当に自分が納得できる、美味しい食を届けたい。そのために、小さなお店を開く選択をする人も大勢いる。一方、大企業だからこそ、変えられる可能性が大きいのが「文化」だ。
同じような課題を抱えた他のメーカーの有志たちが集まり、業界を横断するFUIが誕生した。現在、カゴメ株式会社、亀田製菓株式会社、キリンホールディングス株式会社、サッポロビール株式会社、株式会社ニチレイ、森永製菓株式会社、森永乳業株式会社の7社から、研究開発やマーケティングなどの担当者が集まり、共に、新商品の開発などに取り組んでいる。
FUIが現在最も注力しているのは、フードロスの解決を目指したアップサイクルフードの開発だ。
たとえばビールを作る際には麦芽の絞りかすが出る。製菓メーカーがお菓子の形を整えるための端材なども「ロス」となる。
食材の残りは、すでに家畜の飼料などとしても有効利用されているが、別の会社同士のものを掛け合わせることで、アッと驚くような新商品ができたら、お客さんを「ワクワク」させながら、企業の取り組みも伝える会話ができるのではないだろうか…。
時には「コスパ競争」も繰り広げる相手同士が一緒に商品づくりをし、新たな価値をみんなで創造する。そして、その情報を発信し、お客さんに「この商品なら」と納得してもらって、商品を適正な価格に戻していく。それも、食産業の未来にとって重要なことだ。
FUIは3月25日、これまで開発した試作品をお披露目するイベントを開催した。
イベント会場に立ったのは、開発担当者たち。その商品がどのように誕生し、どこが新しいのか、そして、そこに込めた自分の思いを丁寧に話していった。
「過去のイベントでも、学生さんに『大企業って勝手にあくどい商売をしてるんだろうなってちょっと思ってたんですけど、違うんですね』って言われたことがありました(笑)。メーカーとお客様が二項対立のようになっている状態から、もっと距離を近づけたい。お互いを理解し合うところから、未来の食の世界が始まるのかなって思っています」
ハフポスト日本版は、SEE THE SUN / Food Up Islandの皆さんと一緒に、渋谷・北谷公園で開催される「JINNAN MARKET」に出展します。
このイベントではSEE THE SUN / Food Up Islandが取り組んできた「アタラシイおいしい」を実際に体験いただけます。開発したアップサイクルフードや規格外の野菜、国産食材を使ったフードを販売します。
さらにトークショーでは、「未来を作る仕事」をテーマに、金丸さんや、企業の枠を超えて連携している開発者の皆さんに、課題を突破して新しい価値を生み出す方法や、目指す未来の食産業の話についてお聞きします。試食イベントも開催予定です。ぜひお越しください。
日時:4月29(土)・30日(日)12時〜18時
トークショー&試食は、29日14時〜(※雨天中止)
協力:SEE THE SUN / Food Up Island・日建設計
場所:渋谷・北谷公園
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
人口減少社会で「コスパ競争」に終止符を。食のベンチャーは「ワクワク」で未来を作る