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「(過去60年間で関わった設計プロジェクトによる)日建設計のCO₂排出量は、日本のCO₂排出量の1.2%。社会に対する責務を果たしていくのが我々の大事な役目です」
東京ドーム、東京スカイツリー、関西国際空港・旅客ターミナルビルなど、日本のシンボルになるような建築物の数々に携わってきた日本最大の設計事務所・日建設計が3月31日、リデザインした自社オフィスをオープン。「自社オフィスを用いた実証実験」を通して、カーボンニュートラルなどの社会課題解決に挑戦するといいます。
「上手くいくか分からないけれど、まずやってみる」。大きすぎて時に途方に暮れてしまうカーボンニュートラルなどの社会課題の解決ですが、トライアルの数々が“形”になった同社のオフィスを尋ねてみたら、“手触り“を感じながら考えることができました。
日本の建設・設計業界をリードする日建設計が複雑化する社会課題にどう挑むか。その思いと取り組みに迫ります。
「自社オフィスを用いた実証実験」に踏み切ったきっかけの一つは、コロナ禍で感じた社会の分断にありました。
新たな建築や都市空間の創造に関わり続けてきた日建建設。クライアントや技術者の知恵を集め、「前例のない時代の『用』に応える」ために行ってきた事業について「社会環境デザイン」と呼んできたといいます。
しかし現代は、世の中のあらゆる社会課題が複雑に絡み合っている状態。同社代表取締役副社長の西村浩さんは「(課題解決のためには)社内外の共創が必要」である一方、コロナ禍で社会の分断が明らかになり「このような状態では、社会が大局的な全体最適に向かうのは難しい」と感じたそう。
だからこそ、「分断を連携に変えるプラットフォーム」を作る必要がある、と西村さんは話します。
「当社はこの分断を連携に変えるプラットフォームを作るため、2021年に定めた中期経営計画を、『社会環境デザインプラットフォームへ向けた進化』としました。そしてそれを支える場とは何かを考えたのが、自社のオフィスをリデザインした一つの理由です」
同社取締役 常務執行役員の妹尾賢二さんは、「(過去60年間で関わった設計プロジェクトによる)日建設計のCO2排出量は、日本のCO2排出量の1.2%」だと発表しました。
「大きい数字だと思っています。社会に対する責務を果たしていくのが我々の大事な役目です」
同社の東京オフィスでは、2030年までに2013年比で40%省エネにすることを目標の一つに掲げていますが、空調やエネルギーの効率化などの設備改修を積み上げても目標まで届かなかったと、妹尾さんは葛藤を明かしました。
「あと-8.7%をどうすればいいか。発想を転換して、『我々一人ひとりが行動変容しよう』と考えました」
そこで開発したのが、オフィスで働く一人ひとりのCO2排出量と削減量を可視化し、さらに削減のための行動を促すアプリ「Asapp(アサップ)」です。まずは自社ビル内での試験運用を行うと言います。
「例えばあるフロアで働いている人が少ない時は、電気や空調の省エネのために『他のフロアに移動してください』と通知が来ます。行動すると、それによるCO2削減量に応じてポイントが溜まり、オフィス内のカフェで使える仕組みなども考えています」
実際にリデザインされたオフィスには、どんな「トライアル」が詰め込まれているのでしょうか。
東京本社の3階は、複雑な社会課題解決のための共創インフラを目指すフロア「PYNT(ピント)」として開放。「PYNT」フロアに足を踏み入れると、柔らかな自然の「揺らぎ」がある素材で作られた空間が目に入ります。
この空間には、麻でできた床や土から作られたタイル、衣服を再利用したパネルなど、「極力化石燃料ベースの素材を使わず、再生・再利用可能な自然由来の材料を使用している」と、東京オフィスの設計を担当した同社の勝矢武之さんは言います。資源を循環させる「サーキュラーエコノミー」に挑戦しているそうです。
PYNTフロアの中は、「つながる」「学ぶ」「発信する」をテーマにしたエリアがデザインされていました。
PYNTのコミュニティマネージメントを担当する同社の吉備友理恵さんは、「一番の特徴は、社外の方々がこの場所に緩やかに入ってきていただけて、かつ濃いコミュニケーションができること。未完成だったり、試行錯誤だったりができる場所」だと話します。
社内外の人とつながるための「PYNT BAR」カウンター、イベントやワークショップなど「発信」ができるスペース、未完成の取り組みを展示する「GARAGE」エリアなど、PYNTフロアには共創のための仕掛けが満載。
その日の「GARAGE」エリアには、社会課題の解決につながる先進的な取り組みや技術を直感的に検索できるデータベース「Future Platform」が展示されていました。SDGsのゴールごと、実現する年ごとなど、様々な切り口で表示でき、直感的にデータを見ることができます。
例えば「2050年までに実現するテクノロジーや取り組みを掛け合わせて考えてみよう」など、会話やアイディアが広がるツールとして使えそうです。
日建設計は東京オフィスだけでなく、大阪、名古屋、九州と全国の自社オフィスもリデザインを予定しているといいます。大阪オフィスの設計を担当した喜多主税さんは、「テナントビルが変わらないと、社会課題の解決が進まないと思っています」と話しました。
環境省が2021年に出した「リーディングテナント行動方針」によると、例えば東京23区内にある上場企業の本社のうち、74%がテナントビル。「建物の開発・運用者と使用者が異なることが、脱炭素化の取組を加速させる上での課題となっている」と指摘しています。
「テナントビルの大阪オフィスでは、ビルオーナーの銀泉株式会社と共にカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めています」(喜多さん)
具体的には、開かない窓を開く窓に改修して自然換気ができるようにしたり、位置情報システムと連携して人が少ないエリアの照明を自動で消したりするなど、いくつかの実証実験に取り組む予定です。
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この日、日建設計のみなさんから「上手くいくかわかりませんが、まずやってみる」という言葉を何度も聞きました。
まずやってみる、作ってみる、試してみる。設計事務所らしい社会課題へのアプローチに、今後も注目です。
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
日本トップの設計事務所は、カーボンニュートラルなどの社会課題にどう挑むのか。日建設計が自社オフィスをリデザイン