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「いい歳して何やってるの」「年相応の格好をしないと」「若いから元気なのは当たり前」──
こんなふうに、年齢によってなんとなく思い浮かぶ「らしさ」を押し付けられたり、または人に押し付けたりしたことはないだろうか?
もしかしたらそれは、「エイジズム」と呼ばれる年齢による差別かもしれない。まだ言葉としては広がっていないものの、心当たりがある人は多いだろう。
そんなエイジズムについて考える授業が、埼玉県の中学校で行われた。生徒が自分たちの行動も振り返りながら学んだ授業の様子を取材した。
1月に授業を受けたのは、埼玉県八潮市立八條中学校の3年生。総合的な学習の時間のキャリア教育の一環として行われた。授業をするのは、不動産・住宅情報サービスなどを手がける「LIFULL」だ。
同社の吉岡崇さんが講師を担当したクラスでは、まず「固定観念」「偏見」「差別」について解説。生徒たちに知っている「差別」について尋ねると、「人種差別」や「コロナ差別」など、近年話題になったものが上がり、関心は低くないことが分かる。
しかし、年齢に基づく差別「エイジズム」について知っているという生徒はゼロ。同社の調査でも、77.9%が知らないと答えたという。
WHOはエイジズムについて「年齢を基準にした他人や自分に対する固定観念(考え方)、偏見(感じ方)、差別(行動の仕方)」と解説。全ての人に影響を及ぼすもので、年齢で区切られた政策や、若い人が意思決定に関わる機会を制限するような慣習、年齢によって行動を決めるといった自分自身への制限など、多くの場で現れる。身体的・精神的健康、経済、医療など多方面で影響を及ぼしているという。
吉岡さんはエイジズムが高齢の人に向けられることが多いこと、一方で生徒たちのような若者にも向けられることがあることなどを解説。無意識に差別することを避けるには「事実に基づかない固定観念や偏見を意識することが大切」とし、同社が制作した10〜80代が年齢やエイジズムについて考える映像「年齢の森」を見た上で、生徒の周囲にあるエイジズムに目を向けた。
親などに「中学生なんだから〇〇しなさい」と言われたのはもしかしてエイジズム?自分が親の年齢をいじるのはエイジズム…?じゃあ、若い人が活躍すると「すごい!」と大人以上に言われるのは…?
そうした疑問が生徒たちの頭には浮かんだようだ。言葉にはなじみがなくても、周りにあるエイジズムを書き出すワークを行うと、次々出てくる。書き出したものをグループで「エイジズムにあたるもの」「あたらないもの」に分けていくと、さらに会話が広がった。
「『最近の若い人は〜』とかまとめて言われるよね」
「選挙権は年齢によって決まってるけど、これはエイジズムじゃない気がする」「ある程度は区切らないとね」
一方、エイジズムなのかそうではないのか、簡単に決められないものもある。
「高齢者だからいろんなことを知ってる、というのは?」「経験は多いはず…」「でも若者にも知識のある人はいるよね」
「学生だから勉強しなさいというのは?」「仕事をしないんだから勉強しなさい、っていうのは分かる」「大人になったら勉強する時間ないし…これも偏見かな」「境目が難しい」
こうした会話を続けることで、「事実に基づかない固定観念や偏見」とはどういうことなのか、逆に「事実に基づく認識や区別、制限」というのは何か、少しずつグループの中で考えが深まっていくように感じられた。これは、エイジズムに限らず、他の差別に通じる考え方でもあるだろう。「なんとなく」「事実に基づかず」人を属性で判断したり、批判したりしていないか──。
授業の最後には、エイジズムだと思われるものをグループごとに1つ取り上げ、それをなくすには誰が、どういう行動をすれば良いかを考えた。
あるグループは、政治や経済の場面で若者が要職にいないことに注目。内閣府は国会議員の年齢構成について、国民全体の構造に比べて「若い世代が少なくなっている」と指摘しており、こうした状況を生徒たちも感じているようだ。
生徒たちは「歳を取らないと偉くなれないのはエイジズムじゃない?」「政治家とかそうだよね」と率直に切り込み、「若い人が頑張ればいいのかな」「若者中心の会社をつくるとか?新たなエイジズムになるかな」などと議論した。
講師を務めた吉岡さんは「社会には正解があるわけではないことも多いけど、この授業がみんなが困った時の判断の一助になれば嬉しい」と締めくくった。
生徒は授業を通して何を感じたのか。
「差別については気を付けているつもりだったけれど、年齢についての差別があるのは知らなかった」と話すのは秋山慶次さん。「自分が今日学んだことを活かして行動していけば、下の世代や周りも少しずつ変わっていくのではないかと思います」
加藤環さんは、授業で見た動画の中で「年齢によって着られる洋服が変わる」という趣旨の話が出てきたことに驚き、「着たいものが着られなくなるのかな」と感じたという。授業後の取材に「年齢に関わらず、やりたいことができる社会になってほしい」と話した。
生徒たちの発言を聞いていると、大人の行動が問われていると感じることも多かった。3年生の学年主任でもある竜田雅史教諭は「自分たちも『中学生だから』などと言いがちなので、自分自身を振り返るきっかけにもなりました」とコメント。
「自分の考えを持つことは大切ですが、押し付けは差別につながると感じてもらえたのではないかと思います。これからも年齢で自分を制限せず、自分がやりたいと思ったことにトライしていってほしい」と話した。
なぜLIFULLはこうした授業に取り組むのか。同社は「あらゆる人が自分らしく生きられる社会」を目指し、これまでも差別や偏見などによって、住まいを探す際に苦労を強いられる「住宅弱者」へのサービスを立ち上げるなど、社会課題に対する取り組みを行ってきた。「年齢」「老い」は多くの人に関わるため、2021年からエイジズムの啓発に取り組み始め、2022年からは出張授業も行っている。
この授業を担当している同社の吉岡さんは、「固定観念にとらわれる前にエイジズムについて考えることで、子どもたちの言動が少しずつ変わるかもしれない。そこから、ひとりひとりが自分らしく生きられる社会に近づけたいという思いがあります」と授業の意義を説明。
「何かしらの気付きを持って帰ってもらえたらと思っています。大人が見ているものと子どもが見ているものが違うことが多いので、私も学ぶことが多いです。普段話すことが多くない『年齢』について家族とも話すことで、学びが広がるのではないでしょうか」
オリジナルサイトで読む : ハフィントンポスト
「歳を取らないと偉くなれないの、差別じゃない?」中学生が年齢による差別“エイジズム“を考えた