「私たちのような苦しむ女性に刑罰を加えるのではなく、安心して出産できるような環境に(女性が)保護される社会に変わってほしいと願っている」
死産した双子を自宅に遺棄したとして、死体遺棄罪に問われているベトナム人の元技能実習生、レー・ティ・トゥイ・リンさん(24)は2月24日、東京都内で開いた記者会見でそう述べた。
この日、同罪の成否を争う上告審弁論が最高裁判所で開かれ、結審した。公判で弁護側は、リンさんに「葬祭の意思はあった」として改めて無罪を主張した。
午後2時すぎ、最高裁の敷地に沿って、ぐるりと長蛇の列ができていた。約1時間後に開かれる上告審弁論に用意された傍聴席は約40席。それをはるかに上回る約220人が、傍聴席に着ける人を決める抽選券を静かに握りしめていた。
この日の公判では、2020年11月に熊本県芦北町の自宅で死産した双子の男児の遺体を段ボール箱に入れていたリンさんの行為が、遺棄にあたるかどうかが争われた。
弁護側は「(死産の当時)技能実習生だったリンさんは遠い異国の地でどうすればいいか分からなかったが、葬祭の意思を持ち続けていた」として、無罪を主張した。
リンさんが遺体を丁寧にタオルで包み、わが子の名前や弔いの言葉を記した手紙とともに段ボール箱に入れたことも説明。「死産という限界的な状況でとられた行為の丁寧さは、客観的に死体の発見を困難にしたり、適切な葬祭を妨げたりしたことにはならない」と述べた。
その上で、リンさんのように孤立して死産した直後の母親は「本来、福祉により保護されるべき」と指摘し、「刑罰でさらに孤立へ追い込むことは、著しく正義に反する」と訴えた。
一方、検察側は福岡高裁が下した有罪判決について「判断の枠組みは誤りでない」と主張した。その上で、死産したリンさんは「一般人が葬祭と認める行為をできない立場にあった」との見解を述べた。
その理由として、リンさんが「外国人で、来日して2年3カ月程度」であり「日本語は簡単な挨拶程度しかできない」ことや、「日本で頼りにできる人が限られていた」ことを挙げた。
さらに、リンさんの当時の住居の周辺には田畑や山林があることから「地面に穴を掘るのは容易」だったことも根拠に加え、「最終的には密かに穴を掘って(遺体を)埋めるなどするしかなかった」と述べた。
リンさん側はこれまでも、リンさんには葬祭する意思があり、遺体を放置したのではなく「安置」だとして無罪を主張してきたが、一審・熊本地裁は執行猶予付きの有罪判決。二審の福岡高裁でも有罪判決(懲役3か月・執行猶予2年)が言い渡された。
「妊娠を知られると帰国させられる」という不安から、妊娠がわかっても誰にも打ち明けられなかったというリンさん。公判後に開いた記者会見で「妊娠中の技能実習生は大きなプレッシャーにさらされている」と述べた。
「私のためだけでなく、私と同様に、妊娠を誰にも言えずに苦しんでいる技能実習生や、1人で子どもを出産せざるをえない全ての女性のためにも、無罪判決が言い渡されることを願っている」
最高裁の弁論は、高裁の判決を変更する際に必要な手続きで、有罪判決が見直される可能性がある。判決の期日は、後日指定される。
リンさんのように「妊娠を知られると帰国させられる」との不安を抱く技能実習生は少なくない。
法務省の2022年の調査では、「妊娠したら仕事を辞めてもらう」といった不適切な発言を母国の送り出し機関や国内の受け入れ先から受けたことがある技能実習生が4人に1人(26.5%)いることがわかった。
厚生労働省によると、2017〜20年の3年間で妊娠を理由に技能実習を継続困難になった事例は637件に上り、実習を再開できたのはわずか2%の11件だった。
法務省や厚労省は2019年以降、「婚姻、妊娠、出産等を理由として技能実習生を解雇その他不利益な取扱いをすることや、技能実習生の私生活の自由を不当に制限することは、法に基づき認められない」と注意喚起している。だが「環境の改善は道半ばだ」(石黒大貴主任弁護人)。
リンさんは来日するため手数料など150万円もの費用を工面し、来日後はベトナムで暮らす家族に毎月10万円程度、仕送りをしていた。仕事を失って帰国することをおそれて誰にも相談できずに、大きくなったお腹を抱えながらみかん農園で働いた。
2020年11月14日、みかんの収穫のために登っていた木の上でバランスを崩し、転落しないように踏ん張ったという。同日夜から腹痛に襲われ、翌15日朝に2人の子どもを死産した。
〈取材・文=金春喜 @chu_ni_kim 、写真=坪池順 @juntsuboike〉
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「妊娠中の技能実習生は大きなプレッシャー」双子死産で死体遺棄罪に問われた元実習生が会見。最高裁で有罪見直しなるか