大学入学共通テストを前に、警視庁や各鉄道会社が痴漢を防ぐ取り組みをはじめています。インターネット上の卑劣な書き込みに受験生が不安を募らせないように。安心して試験会場まで向かえるように。受験生を応援する多くの人たちの連帯が生まれています。
神戸市に住む自営業の山中遥さんは、「関西の鉄道各社の痴漢対策がここ1年で進んだ実感がある」と話します。
「以前は、被害者に寄り添った対応をしているとはいえない会社もありました。今は、温度差はあるものの各社とも痴漢撲滅の啓発活動を進めてくれています」
山中さんは、ジェンダー平等について地域で話し合う「東灘区ジェンダーしゃべり場」の活動として、1年前の2022年の大学入学共通テスト前に、阪急電鉄、阪神電鉄、JR西日本、神戸市交通局、神戸新交通の5社に痴漢対策を申し入れました。
2023年の共通テストに向けて改めて、兵庫県議の喜田結さんや作家のアルテイシアさんらと各社を訪問し、共通テスト当日に対策を強化することや、痴漢の発生に備えた訓練の実施などを申し入れました。
大学入学共通テストの日に痴漢対策を求める背景には、Twitterでの悪質な投稿があります。
「試験当日は遅刻できないため、声をあげたり通報したりしづらいだろう」といった理由をあげて、「痴漢し放題」「痴漢祭り」などと犯罪をほのめかすような投稿がここ数年、共通テスト前に増えているからです。
こうした卑劣な投稿に抗議するため、2020年にTwitter上でハッシュタグ「#withyellow」が生まれました。また、実際に黄色の服装や持ち物を身につけて電車に乗り、受験生を見守っていることを表明する動きも広がっています。
山中さんたちも1月14日の朝、黄色の帽子やマフラーを身につけて駅のホームで見守ったり、「痴漢抑止バッジ」を配ったりする活動を実施します。
「巡回や痴漢防止のアナウンスをはじめた鉄道会社もあり、痴漢が犯罪だという認識が広がってきていると感じます」(山中さん)
大学入学共通テスト当日の痴漢対策は、全国に広がっています。
東京都交通局は1月11日から、新しい痴漢対策ポスターを都営地下鉄の駅構内や車内に掲示しました。東京都立大学の学生たちの意見を取り入れ、「助ける準備、できていますか?」をキャッチコピーに、車内非常通報器、スマホアプリ、声かけなど、痴漢を目撃した人たちがどのように行動すればよいかをわかりやすく紹介しています。
「痴漢抑止バッジ」を無料配布している一般社団法人痴漢抑止活動センターは、学生に向けた動画「学生に知ってほしい痴漢の真実」を公開しています。
「痴漢が100%悪いのであって、あなたは悪くありません」としたうえで、痴漢から自分を守るための「回避」と「対処」の方法を解説しています。
独立行政法人大学入試センター総務課によると、もしも痴漢の被害に遭って試験に遅刻した場合には、追試験の受験を申請することができます。遅刻の理由を集計していないため、これまで実際に痴漢の被害によって試験に影響があった受験生がいるかどうかは把握していないということです。
痴漢の被害は、追試験の申請対象となる「試験場に向かう途中の事故又はやむを得ない事由」に該当するため、受験票に記載されている「問合わせ大学」にまず連絡します。その日の試験終了時刻までに受験票と「事故又は事由が確認できる証明書等」を「問合わせ大学」に持参して申請し、許可されれば追試験を受けることができます。
(取材・文:小林明子)
(2023年1月12日のOTEMOTO掲載記事「電車でもネットでも「痴漢の不安」から受験生を守るために」より転載)
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電車でもネットでも「痴漢の不安」から受験生を守るために