【総括】2022年、気候変動で押さえておきたい世界の動きを解説。2023年の宿題は?

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2022年は、国土の3分の1が冠水し甚大な被害が出たパキスタンの洪水をはじめ、世界各地で干ばつや強烈な熱波、大規模な山火事が発生しました。異常気象の激甚化の原因の一つとして、気候変動の影響が指摘されています。

パキスタンのシンド州で洪水災害が数カ月にわたって起こり、1400人が死亡した(2022年11月11日、パキスタン)

待ったなしの気候危機対策、2022年の間に少しでも前に進んだでしょうか?振り返って見えてきた2023年の宿題は?

エジプトで開催された第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)に参加した専門家に聞きました。

<記事のポイント>
・2022年の気候変動をめぐる動き、3つの大きなポイント
①エネルギー危機でも止まらなかった化石燃料削減の流れ
②企業や自治体にも影響大。国連が「ネットゼロ」を定義
③COP27、損失と被害の基金設立は歴史的な転換

・2023年への宿題は?G7議長国の日本の役割は大きいが…

2022年の気候変動をめぐる動き、3つの大きなポイント

①エネルギー危機でも止まらなかった化石燃料削減の流れ

ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、原油や天然ガス、石炭の価格が高騰しました。特にドイツをはじめとしたヨーロッパ諸国はロシアのエネルギー資源への依存度が高く、深刻なエネルギー危機に直面しました。

一時的に石炭火力を再稼働させるなど直近のエネルギー確保に奔走する一方で、こういった状況の中でも、脱化石燃料の流れが継続されているのが今年の大きなポイントだと指摘するのは、国際NGO「WWFジャパン」自然保護室⻑の⼭岸尚之さん。

「COP27が終わって一番よく聞かれた質問が、『エネルギー危機がCOP27に影を落としたか?』でした。もし影を落としていたなら、一番交渉姿勢を変えるのはヨーロッパ諸国のはずですが、むしろ脱炭素を強化しようとしていました

ヨーロッパ諸国は2021年のCOP26で決定した「石炭火発の段階的削減」を、「全化石燃料」にターゲットを広げ、かつ「削減」ではなく「廃止」を求める急先鋒だったと山岸さんは指摘します。

「結局化石燃料からのフェーズアウトについては、COP26の文言と変わらない文言になってしまったのは残念です。しかしこのエネルギー危機の中でも『後退』しなかったという見方もできます」

COP27の国際会議場前で気候変動による悪影響を排除するために各国が資金提供を行うようデモを行う気候活動家たち

②企業や自治体にも影響大。国連が「ネットゼロ」を定義

COP26でパリ協定の「1.5度目標」が事実上「世界共通の目標」になりました。そのためには世界で「2050年までにネットゼロ(温室効果ガスの排出を実質ゼロにする)」を達成する必要があります。

しかし、これまで「ネットゼロ」の世界共通の定義はなく、環境を配慮しているように見せかける「グリーンウォッシュ」が懸念されていました。

そこでCOP26ではネットゼロを定義するための「非国家アクターによるネットゼロ排出宣言に関するハイレベル専門家グループ」が設立され、今回のCOP27で提言書が提出されました。

提言書には「ネットゼロ」を宣言する際にクリアしなければならない10の提言を明記。特に日本にとって衝撃的なのは、提言3と6なのではないかと山岸さんは指摘します。

企業、金融機関、自治体、地域などが「ネットゼロ」を掲げる際の10の提言

「提言3には、企業が自社の削減目標を達成するためにカーボンクレジットを使用してはならない、と書かれています。自社のバリューチェーン外で削減に貢献したい場合のみ、高品質なクレジットを使用してもいいと明記されています」

また、提言6には「政府などに対して、自社のみならず業界団体を通じても野心的な温暖化政策に反対してはならず、政策を推進すること」と書かれています。

日本でいうと経団連・各業界の協会・連盟等の方針や政府への働きかけと『ネットゼロ』に齟齬があれば、企業の言っていることは『ネットゼロではない』ということになります

「分かりやすい例で言うと、例えば製造業の企業が頑張ったとしても、石炭火力など電気の元を変えるのは難しいですよね。電気の元を変えるのは電力会社ともいえますが、その先の政府の政策が変わらないと難しいわけです。自社が所属する経済団体が、政府に何を言っているかも含めて変えていかないと、本当の意味でネットゼロを目指せないことを示しています」

③COP27、損失と被害の基金設立は歴史的な転換

2022年の大きな宿題の一つだった、気候変動への適応を超えて実際に被害が出てしまった場合の対応を意味する「損失と被害」については、大きな前進がありました。

シャルム・エル・シェイク実行計画」の合意をもって閉幕したCOP27。最大の成果は、「気候変動による損失と被害に特化した基金を設立する」と決定したことだと山岸さんは言います。

「正直に言うと、今回のCOP27で基金設立が決定するとは予想していませんでした。途上国の一致団結した主張や、それを後押しするようにNGOや若者たちの勢いのある主張が印象的でした。これが基金設立の最後のチャンスだ、という危機感があったのだと思います」

基金で支援する対象は「途上国の中でも特に脆弱な国々」と記したものの、それがどの国なのか、また資金源をどうするのかなど、今後も議論が進められていく予定です。

一方、気候変動そのものを押さえていくために温室効果ガスの削減努力を強化していくための「緩和作業計画」については「寂しい結果になった」と山岸さん。先進国としては中国やインドなど途上国の目標強化を狙っていましたが、抵抗が強く、2026年まで毎年最低2回の会合が行われるという内容にとどまりました。

COP27国連気候変動サミットの閉会式で、周囲の参加者が拍手する中座る、エジプト外相のサミ・ジュクリ氏(中)

2023年への宿題は?G7議長国の日本の役割は大きいが…

「これまで脱化石燃料の潮流をリードしてきたのはG7サミットだった」と山岸さんは言います。

2021年のCOP26開催前にイギリスのコーンウォールで開催されたG7サミットでは「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援の2021年末までに終了する」という合意がなされました

2022年6月にドイツ・エルマウで開催されたG7サミットでは「排出削減対策が講じられていない国際的な“化石燃料”エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末までの終了にコミットする」と、石炭火力から化石燃料に範囲を広げて新規投資の廃止に合意するなど、G7議長国が国際社会の脱化石燃料をリードしてきました。

果たして2023年5月に広島で開催予定のG7サミットで、日本は議長国として、国際的に化石燃料への依存度を下げるよう積み上げてきた歴史的な流れを、さらに一歩進められるのか。山岸さんは12月22日に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針(案)」で浮き彫りになった日本の姿勢の問題点を指摘します。

「カーボンプライシングの導入があまりに遅く、さらに国民的な議論を経ずに原発の積極的な活用に方針転換をしたことは非常に問題です」

「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で発言する岸田文雄首相(左から2人目)=22日、首相官邸

カーボンプライシングとは「炭素に対する賦課金」、つまり炭素排出に価格をつけることです。基本方針案では5年間の準備期間を設け、2028年から導入するとしていますが、世界の目標は2030年までに温室効果ガスを半減させること。「パリ協定のタイムラインとの整合性が取れない」と山岸さんは言います。

また、カーボンプライシングの目標設定は自主的なものではなく、「総排出量の上限の設定や制度参加、目標未達時の排出枠購入が法的に強制されるキャップ&トレード型の目標設定制度が必要」だと山岸さんは強調しました。

「他にもパリ協定のタイムラインには間に合わない可能性が高いアンモニアと水素の活用を重視するなど、結局再生可能エネルギーを主体にした社会への移行ではなく、現状をいかに延長できるかという発想でGX基本方針案が動いているように見えます。ここを変えない限り、日本が国際社会をリードするのは難しいでしょう」

2023年にアラブ首長国連邦で開催されるCOP28では、「グローバルストックテイク」と呼ばれる、世界各国の取り組みの進捗状況のレビューが行われる予定です。このレビューをもって、各国が2035年の温室効果ガス削減目標を策定することになります。

「今、世界では『inetegrity(首尾一貫している)』がキーワードになっています。現時点で既に、各国の削減目標を足し合わせても、1.5℃目標には届かないことが分かっていますから、どうやって削減を強化していくのか、誠実で具体的な政策や行動が求められています」

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Maya Nakata