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ラッパーのSKY-HIが12月12日にニューアルバム『THE DEBUT』をリリースした。
自身の現在地を力強く宣言する「I am」から始まる今作は、ダークなラテンフレイバーが印象的な「Happy Boss Day」やメロウに聴かせる「Bare-Bare」、さらにはポップに突き抜けた「Fly Without Wings」まで、SKY-HIの音楽的関心に忠実に従った楽曲が並ぶ。前作『八面六臂』で「瞬発的に作った楽曲たちを並べることでドキュメンタリーが生まれる」という新境地を見せたSKY-HIだが、今作はその方向性をさらに推し進めたピュアな1枚となった。
2020年9月に立ち上げたマネジメント/レーベル・BMSGのCEOとして多忙な日々を送る一方で、アーティストとしてのバイタリティも衰えていないことを証明する作品となっている『THE DEBUT』。作品の着想から制作過程で重視していた価値観、さらには今作に多数登場するBMSG所属アーティストとの関係性などについて深く語ってもらった。
※経営者としてのSKY-HIにフォーカスしたインタビュー後編は後日配信を予定しています。
AAAのメンバーとして日本の芸能界のトップを長年走り続け、またソロのラッパーとしても2013年のメジャーデビュー以来多数の作品を発表しているSKY-HI。そんな彼が、新しいアルバムのタイトルに「デビュー」という言葉を冠した。「どの口で?って感じですよね(笑)」とおどけながら、そこに込められた真意をこう説明する。
「“何度でも生まれ直せる”みたいな壮大な話よりは、もっとライトに“いつでも何かを始められる”くらいの温度感かもしれないです。たとえば、『高校デビュー』って言うと嘲笑の対象になったりもするけど、環境の変わるタイミングで自分がなりたい自分になろうとすることって実は尊いと思うんですよね。40歳から英会話を始めましたとか、70歳で初めてKポップにはまりましたとか、そういうちょっとしたスタートを推奨したい。
自分も前作の『八面六臂』でいろいろなものを捨て去れた実感があって、それを踏まえて改めて音楽でワクワクできたのが今回のアルバムなので、そんな思いが『デビュー』という言葉で前面に出たと思っています」
アルバム制作にあたってはあらかじめ徹底的に設計図を作りこむのが常だったSKY-HIだが、前作『八面六臂』はそのやり方とは対照的に「スタジオに行って、とりあえず曲を書こう」という流れで生み出された。その時に感じた手応えは『THE DEBUT』にも生かされている。
「『八面六臂』を作ったときに、時間をかけて構築性を高めようとするよりも実際の人生の方がよっぽどドラマチックだなと思ったんですよね。そういう経験を経て、もっと衝動的でありたい、より直感的に自分の音楽的な好奇心と向き合いたい気持ちが強くなりました。
最初の3曲(「I am」「Crown Clown」「Happy Boss Day」)はスタジオでトラックメーカーのサカイ(Ryosuke “Dr.R” Sakai)さんと一緒にゼロから作ったのですが、そこで脊髄反射的に出てきたアウトプットに未来と可能性をすごく感じました。
もしかしたら、言うべきことをまじめに考えて強いメッセージを発した方が評価されるのかなとも思うんですけど、今の自分のやりたいこととはだいぶ距離があるんですよね。
きちんとしたお話の場が増えた分、音楽でもそれをやるとどうしても説教臭く感じちゃうし、良いことを言おうとしている自分に嫌気がさしてしまう。もうちょっと“クソガキ”みたいなスタンスでいたいと思っていました」
自分の人生そのものこそがドラマでありドキュメンタリーである、という感覚。この境地に到達したのは、彼が過ごしてきたここ数年の体験があってこそだろう。「I am」のこのラインにはその濃度が凝縮されている。
<I am 若手スタートアップオーナー
I am オリジナルアイドルラッパー
I am No.1プロデューサー
I am just me>
「それぞれの肩書は今の自分の中ではかなり一体化していて、心情的にもすっきりしています。これまでは、自分に対して向けられる周りからの焦点がバラバラだったなと思うんです。『AAAをやりながらすごいね』もあれば『かっこいいね、AAAは知らないけど』もあった。今だと自分をアーティストとして見ている人も、プロデューサーとして見ている人も、経営者として見ている人も、それらを全部やっているのが自分だというのを、皆が認識してくれている気がしています。
それが一致することでこんなに楽な気持ちになるとは思っていませんでした。自分が音楽と向き合う時の純粋性がどんどん上がっています」
彼が率いるBMSGに所属するアーティストは前作『八面六臂』でも重要な役割を果たしていたが、『THE DEBUT』においてはその重要度がますます高まっている。いや、「重要度が高まる」というよりは「よりナチュラルに、対等な存在として作品に参加している」という表現の方が適切かもしれない。
「Tiger Style」では、自身が主催したオーディションから生まれたボーイズグループBE:FIRSTのメンバーであるLEO、JUNON、BMSGとアーティスト契約を結んだAile The Shotaのそれぞれが特徴的なフロウでインパクトを残す(特にJUNONが見せるグループでの姿とのギャップは今作の聴きどころのひとつでもある)。
BE:FIRSTの楽曲をリメイクした「Brave Generation -BMSG United Remix-」ではBMSGの長男格でもあるラッパーのNovel Coreから15歳ですでにシーンをざわつかせているedhiii boiまで勢ぞろいしている。
「『Tiger Style』はBMSG FES(9月に開催した野外イベント。2日間で30000人動員)のために作った曲で、何かしら形に残しておきたいなというタイミングで自分のアルバムのリリースがあったので収録しました。JUNONにはああいう感じが似合うだろうな、というのは毎日接しているから秒でわかりますよ(笑)。
みんなの成長に関してはいい意味で想定通りで、このくらいは伸びるよなと前から思っていました。ただ、気持ちの変わり方、音楽に対しての向き合い方の変化は想定以上かもしれない。自分も逆に刺激を受けていますね」
急速な成長を続けるBMSGの面々において、特にメロウな楽曲を作るうえでのパートナーとなりつつあるのがAile the Shota。彼の存在感はSKY-HIの中でも日に日に高まりつつある。
「全部の楽曲を一緒に手伝ってほしいくらいの気持ちがありますね、最近は(笑)。『Bare-Bare』(作詞作曲にSKY-HIとAile the Shotaのクレジットが並ぶ)が顕著で、あの曲はライブだと2人でやるのが完成形ってくらいしっくりくる。『Brave Generation -BMSG United Remix-』も自分のがつがつしたラップの後にショウタが入ってくるのがすごく効果的だし、そういうマッチングの良さは実感しています」
ソロのラッパーとしてキャリアを積んできたSKY-HIは今、BMSGの運営を通じて見つけたアーティストを音楽面での仲間として自身のテリトリーに迎え入れながら切磋琢磨している。そこには「コレクティブのリーダーとしての自覚」のようなものがある。
「今はその意識がすごく強いですね。実は去年くらいまでは中心に行きすぎないように気をつけていたのですが、やっぱり年齢やキャリアを考えると、自分が真ん中にいないとバランスがよくないことに改めて気づきました。
特にこの前のBMSG FESで所属アーティストみんなでライブをやった時に『自分が引っ張りながらもほかのみんなが全員ちゃんとおいしくなる構図』を作れた実感があって、こういうリーダー像は自分にとっての理想形だったので…『SLAM DUNK』みたいな感じって言ったら伝わりますかね?(笑) 出てくる人全員のキャラクターとドラマが見えて、それが集まった時に爆発的なパワーを生むっていう。この空間を作るために自分はこれからもリーダーでありたいし、『Happy Boss Day』や『Crown Clown』で<ボス>って言っているのはそういう気持ちの表れです」
衝動や直感を大事にしながら生まれた『THE DEBUT』の最後を飾るのは、タイトルトラック「The Debut」。アルバムのメッセージを体現する素朴な楽曲からは、<ありがとう>という飾り気のない言葉が聴こえてくる。
「本当にノリで出てきた言葉なんですが、考えてみたら、今まで<ありがとう>って言ってなかったなと。正直誰に対しての<ありがとう>なのかもあまりわかっていなくて…まあ全部に対してなんだろうな。純粋性や衝動性を大事にアルバムを作ってきて、最後にぽろっと出てきたのが<ありがとう>だったことにどういう意味があるか、まだ掴みきれてないけど、すごく気に入っています」
「The Debut」において<ありがとう>と並んで驚きとともに耳に飛び込んでくるのが<大人になんてなりたくない>。芸能の世界で社長として多忙な日々を送るSKY-HIがミュージシャンとしてこの言葉を発しているのは何とも意味深だが…
「確かに深読みされても仕方ないですよね(笑)。これも衝動的に出てきたワードです。誤解されたくないのは、精神的な成熟と距離をとりたいってことではないんですよね。ここでの<大人>は、なんて言ったらいいのかな…“賢さ”が“ずる賢さ”になっていくのが嫌だなというか。間違ったリアリズムやニヒリズムだったり、危ういお金の稼ぎ方だったり、そういうのが大人になることなのであれば自分はそうはならないよってことを言いたかったんです」
新しい芸能ビジネスを牽引しながらアーティストとしても現役で引き続き活動するSKY-HI。様々な経験を通じて感じたフラストレーションは、さらなるアウトプットにつながっていく。
「世の中に折り合いをつける必要はあるけど、その折り合いのつけ方が歪んでいるんじゃないかと感じる瞬間がたくさんあって、そこに対して物申したい気持ちはあります。これは社会的な危機感というよりは、個人的な嫌悪感ですね。『THE DEBUT』を作って、もっとピュアであること、もっと純粋であること、もっと衝動的であること、そういうものの大事さを改めて感じました。人間はもっと愛くるしくていいし、もっと動物的でいい。これに関してはもっと自分で掘り下げていけば、いろんなものが生まれそうな予感があります」
(取材・文:レジー @regista13、編集:若田悠希 @yukiwkt、撮影:藤本孝之)
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SKY-HIが“社長3年目”を迎えた今、「大人になんてなりたくない」と歌う理由【インタビュー】