“男・女らしさ”、もう子どもに押し付けない。「ジェンダーニュートラル」な無料イラストのサイトが誕生

服装や髪型などの表現に配慮した「ジェンダーニュートラル」なイラストの例

「男の子らしさ」「女の子らしさ」というジェンダー規範を、子どもたちに押し付けないために━━。

保育園や幼稚園、学校向けに「ジェンダーニュートラル」なイラストを無料で提供する素材サイトが11月26日、公開されました

ジェンダーニュートラルとは、「性別による役割や『男らしさ』『女らしさ』を押し付けずに、中立的に捉えようとする考え方」を指します。

「女の子は髪にリボンをつけてピンク色のスカート」「男の子は短髪、ブルーを基調とした服を着用」のように、画一的なジェンダーバイアスに基づくイラストは今も日常的に目にします。

新たなサイトでは、そうした固定化したジェンダー規範の解消に配慮したイラストを掲載。遊びの時間、手洗い、食事、健康診断など暮らしの様々なシーンの子どもたちを描いています。

サイトの制作は、小中高校や大学などでLGBTQ +に関する啓発授業に取り組むNPO法人「ASTA」と、性教育にまつわるイラストのフリー素材サイトを運営する「性教育いらすと」のコラボによって実現しました。

イラストは誰でも無料でダウンロードが可能です(商用目的で16点以上使用する場合は有料)。なぜこうしたサイトが誕生したのでしょうか?従来の無料イラストと異なるポイントは?

ASTAメンバーのりぃなさん(@rii83na)と、イラストのデザインを担当した「性教育いらすと」代表の佐藤ちとさん(@sato_chito_)に聞きました。(以下、敬称略)

▼【漫画】「ジェンダーニュートラルなフリーイラスト」のサイトは、こうして生まれた

性教育いらすと|無料イラスト素材集サイト (@seikyouiku_illu) on X
「ジェンダーニュートラルなフリーイラスト」を作ろうと思ったきっかけや、込めた想いを漫画にしました! 作:NPO法人 ASTA/絵:性教育いらすと

━「ジェンダーニュートラル」なフリーイラストのサイトを考案したきっかけは何でしたか

りぃな:非常勤の保育士として子どもたちと関わっていた時、性別違和を感じている園児と出会いました。園内の教材やおもちゃなどは、「男の子らしさ、女の子らしさ」を強調するイラストや文字にあふれていることが気になりました。

今のままでは、この子が今後小学校に上がり成長する過程で、こうした外からの「らしさ」に葛藤を感じるんじゃないか。「あなたはあなたのままで良い」というメッセージをきちんと伝えられていないんじゃないか…と悩みました。

実際の園内では、ごっこ遊びで男の子がお姫様になったり、姫を救う勇者役を女の子が演じたりと、子どもたちは自由な発想で遊んでいます。

一方で、園児向けの教材や掲示物などに描かれるイラストには、「髪をリボンで結んでスカートを履く女の子」「短髪でズボン姿の男の子」というように、「こうあるべき」というジェンダーバイアスの強い描写があちこちに残っています。

こうしたイラストから日々発せられるメッセージによって、子どもたちが「他」とは違う自分は間違っているのかなと感じたり、規範からはずれるお友だちの選択を否定したりしかねません。

ジェンダーバイアスを子どもたちに押し付けないようなイラストがほしいよね、とメンバー間で話し合い、サイト制作の案が持ち上がりました。

性別違和を理由としたいじめ、園児同士もある

様々な肌の色やモノクロ印刷用といった複数のバリエーションを用意した

ー子どもが未就学児の頃から性別違和を感じている、というケースも報告されています。

岡山大学病院ジェンダークリニックの調査では、同病院を受診し性同一性障害との診断を受けた人(1167人)のうち56.6%(660人)が、小学校への入学以前から自分の性別に対して違和感を覚えていたとの結果が出ています

(出典:中塚幹也著『封じ込められた子ども、その心を聴く━性同一性障害の生徒に向き合う』ふくろう出版、2017年

りぃな:幼児期から性別違和を抱く子どももいるということが、保育の現場ではまだ浸透していません。

そもそも、保育士や幼稚園教諭になるための教育課程で、LGBTQ+やジェンダーについて学ぶ機会がとても少ないという課題もあります。

滋賀県大津市では、2019年に市立保育園に入園した性別違和の児童が、他の園児からいじめを受ける事案が発生しました

保育現場では「小さいうちに性別で悩む子はいないよ」という反応もありますが、現実には性別違和をめぐって園児の段階でいじめが起きてしまっているんです。

知らず知らずのうちに、子どもたちは周囲のはたらきかけや環境から「女なら、男ならこうあるべき」というバイアスを受け取ってしまいます。

園児や児童たちが人を傷つけず、自らも傷つくことのないように。ジェンダーニュートラルなイラストを通じて、大人自身がジェンダー規範を見つめ直すきっかけになったらと願っています。

肌の色のバリエーション、障がいも描いた

ーイラストは外遊びや季節の行事、防犯・安全など全部で16カテゴリー(計100種類)を用意し、種類ごとにモノクロ印刷用など3〜4種のバリエーションがあります。どんな点を工夫しましたか

りぃな:子どもたちの髪型や服装、服の色や柄などは、特にジェンダーバイアス解消の観点で配慮しました。

肌の色のバリエーションを複数用意したほか、車いすや補聴器を使う子どものイラストもあります。

ジェンダーの面に限らず、従来のフリーイラストであまり提供されなかった多様な描写を、このイラスト集で拾おうと意識しました。

補聴器を着けた子どもも登場する
入学式のイラスト。保護者もジェンダーニュートラルな描写を取り入れている

佐藤:作業を進めるに当たって、特別支援学校などで障害のある子どもたちと関わる先生たちからも要望を聞きました。

聞き取りの中で、声掛けや文字では言葉の意味を理解することが困難な子どもたちに対して、絵で分かりやすく伝える「視覚支援」として利用できるイラストへのニーズがあると知りました。

立つ、座る、着替えるなどの基本動作がひと目で理解できるよう、シンプルに描くことを心掛けました。

ージェンダーニュートラルなイラストを、どう活用してほしいですか

佐藤:無料で公開したのは、イラストを使うことにハードルを感じてほしくないからです。誰でも費用ゼロでダウンロードできれば、保育や学校現場での予算の制約に縛られることはありません。

園や学校のお便りや掲示物にどんどん使ってもらい、性別に基づく偏見に縛られず「自分らしく生きていい」ということが子どもたちに伝わってほしいです。

りぃな:ジェンダーバイアスは、周りからの声掛けや日常に溶け込んだ物から気づかないうちに培われてしまうもの。そうしたバイアスによって、子どもたちが挑戦したいことを諦めたり、夢の道を閉ざされてしまったりするのは悲しいことです。

ジェンダーニュートラルなイラストを入り口に、子どもの周りにいる大人たちの間でもジェンダーに関する会話が生まれたらうれしいです。

<聞き手・執筆=國崎万智@machiruda0702> 

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“男・女らしさ”、もう子どもに押し付けない。「ジェンダーニュートラル」な無料イラストのサイトが誕生

Machi Kunizaki